それから4年ぐらい経過してからだろうか、
仕事で北海道に、行くことになった。
スケジュール帳に「北海道」と、書き込んだ時、
ふと、あの北海道おじさんのことが
浮かんだ...。
まだ、六本木で、北海道の別荘をだしに
口説いているのかな...?
私は、もう東京から引っ越していたし、
モデルと名乗ることも、ほとんどなくなっていた。
人と、お酒を飲むことも、ほとんどなくなり、六本木の
パーティに参加していたような
生活とは、ずいぶんかけ離れてしまった。
おじさんの顔も名前も思い出せないし、
この先、会うこともないのだろう。ただ1つ、言えることは
北海道のカニに釣られ、耳元で、ささやかれた
言葉に乗せられ、北海道に行かなくて
よかったということ。もし、北海道が、嫌な思い出の1つに
なってたと思うと、またゾッとしてしまう。
仕事で、北海道に着いてからの3泊4日は、
連日忙しく、
每日ヘトヘトで、観光する時間も
なかった...。
それらしいものといえば、車から見た、どこまでも、
続く牧草地と、札幌すすきの交差点の
ある「ニッカ」のおじさんの看板ぐらい。
それも、新型●▲■の影響で、消灯していた。
仕事を終え、最終日は、夕方の飛行機まで、
自由時間だった...。
私は1人、札幌駅前にある回転寿司屋に
行くことにした。
北海道の回転寿司はレベルが高い。高級店に
行かずとも、美味しい寿司を気軽に食べられる。
入店早々、私は迷うこと無く、大好きなカニを
注文した...。
やってきた本ずわい蟹を大きひと口で食べる。
身がプリプリで肉厚で、旨味と、甘みが
凝縮されている。軽く噛むだけで、身の繊維が
ほぐれていくのがわかった。
心の中で、感動しながら黙食した。
花咲きガニのお味噌汁も注文する。花咲ガニは
国内でも道東でしか捕れない「幻のカニ」
と呼ばれているらしい。
カニの殻から出汁を取った味噌は、ちょうどいい
塩梅でほっとする。毎朝、毎晩でも
飲みたいと、思えるようなそんな味だ...。
ランチにしては、いい値段になってしまったけれど、
後悔はない。その分、北海道でも、
しっかり働いたのだから...。
人の顔色をうかがわず、値段も気にせず、
自分のお金で食べる北海道のカニは格別だな
と思い、また、頑張って北海道にカニを食べに
来ようと決意した...。
備考:この内容は、
2022-1-26
発行:KADOKAWA
著者:SAORI
「散歩するアンドロイド」
より紹介しました。