【キリンとアサヒ、2強の美味さの違いはいかに...?】
暑い盛りに、仕事を終えた後のビールの
喉越しは、何ともいえないうまさだ。その
爽快感は、男性ならずとも、病みつきに
なっているだろう。
ところで、1980年代まで、ビール業界は、
キリンビールの独壇場であったのを、
ご存知だろうか? キリンビールの市場シェアは、
業界全体の60%を超えており、その残りを
アサヒビール、サッポロビール、サントリーで、
競い合っていたのである...。
しかし、アサヒビールが、アサヒ辛口
「スーパードライ」を発売して以来、急速な売上げ
を伸ばして、’97年に年間シェアビール①位を獲得。
現在(2011年)は、キリンビールとアサヒビールで
シェアを争っているのである。
ではなぜ、ビール業界は、この2社で
競い合っているのであろうか? ビールの美味さは、
喉越しで感じるものだが、実は社名を発音する
ことによっても、ビールを飲む前に、
「コク」や「キレ」を、潜在意識で
感じているのである。
それでは、「キリン」と「アサヒ」の語感を
分析してみよう。
「キリン」の「キ」は、口腔を狭く使い、
喉を硬く接着して、強い息をぶつけて破裂
させる。息がぶれないし、ぶつからないので、
無駄のないキレを作る感じを出す。
また、「リ」は、舌裏を空気にさらすためクールだが、
舌を細く筒状にして使い、「つば」も
溜まる。溜まる「つば」は、水を感じさせ、「イ」段音の鋭さ
(突き通す感じ)を伴うので、透明感をも
彷彿とさせる。
「ン」は、気道から口腔に
流れる息の流れを寸止めして、空気圧を
鼻腔に、跳ね上げることで、キレのいい弾む
スイングする音を作る。
一方、「アサヒ」は、「ア」が、母音で
自然発生音なので、自然で素朴、親密感が
ある。口腔を高く開け、喉と唇を開け放ち
開放感を作る。
「サ」が前歯の裏に、舌先を
近づけて隙間を作り、ここに息を強く擦りながら
通しつつ、口腔を高く開ける。息は、
高々と明けた口腔の表面を滑るようにして
吹き渡る風となる。
口腔の表面はさらりと
乾く。上あごの裏や舌の表面には細かい
凸凹があり、空冷器と同じ構造のため、息は、
冷え、さわやかさを感じさせる。
「ヒ」は、肺内で温まった息が一気に喉に当たるので、
喉元では最も熱い。しかし、空冷構造の
上あごを滑るので、口元に出るときには、最も
冷たい息になり、ドライな感じを作り出す。
このように、キリンは、まるで口腔内に風を
感じるようにキレを感じさせ、また、アサヒは、
舌下に空冷構造を作り、ドライなイメージを
出すのだ。
(ちなみに、サッポロビールは
語感的には、発泡酒やポップなビールが
よく似合う。また、サントリーは、しっかりした
イメージを作り出す「タ」行の語感から、熟成させた
ウィスキーや、強いお酒のイメージを
感じさせる)。
【これだけは、カゴメに勝てないキリン...】
社名と商品の売上の関連性について、
おもしろい話がある。
これは、俗にマーケティング
業界での7不思議の1つと言われて
いるものだ。トマトジューズといえば、
カゴメが頭に浮かんでくるだろうが、キリンも
トマトジュースの製品を出しているのだ。
この存在を、知っているだろうか...?
企業の売上規模で、10倍を誇るキリンが、
満を持して、トマトジュース専用のトマトを
栽培して、トマトジュース業界に突入したのだ。
多くのマーケッターは、程なくキリンが
カゴメのシェアを追い抜くだろうと
予想したが、なかなか逆転することは、
なかった...。
これは、なぜであろうか?
その秘密は、語感に現れている。
「カゴメ」の「ゴ」が、喉壁をふっくらと
振動させるため、ふっくらとしたイメージを
作り、「メ」の発音体感は、
広げた舌を、まんべんなく、
柔らかい息が当たるので、まったり
したものが、とろけて舌に広がる感覚を作り出す。
心とろける状態を彷彿とさせ、何かが
まんべんなく、一面に広がるまったりとした
イメージを作るのだ。
つまり、トマトジュースが醸し出す。まったりと
した甘みのある語感が、トマトジュースに
最もフィットしているのである。
この話には、さらに、こんな話もある。
同じくサイダーでも、キリン vs カゴメのエピソードが
あるのだ。ただし、こちらは、圧倒的にキリンの
勝利であった。
カゴメは、動物のサイの絵を
描いたサイダーを投入したが、
程なく生産中止となった。
やはり、「カゴメ」と
いう名前では、キレのあるサイダーの
イメージを作り出すのは難しかったのだ...。
備考:この内容は、
2011-5-20
発行:成美堂出版
監修:黒川伊保子
著者:感性リサーチネーミングラボ
「売れる!ネーミングの秘密」
より紹介しました。