【松下製麺所】
住宅街のひっそりとしたところに、「製麺所」
という文字が見えた。
地図アプリと、お店を
照らし合わせながら「ここか?」とつぶやく...。
時刻は、朝8時、香川の常識
「朝うどん」を、食べに来たのだ。
ちなみに、早いところでは、朝の5時からオープン
しているお店もある。
香川のうどんは、朝が早いのだ、
お店の外観を撮影する、なんだか、入りにく
そうな感じ...。
玄人向けと言うか、オープンさが
ないと言うか...。
1人では、入りづらくて、サラリーマンが
入ったのを見計らい、私も後に続く...。
入るや否や、おばちゃんに、「何玉?」
と聞かれた、
その勢いに圧倒されて、
「あの~、うどんの熱いやつ。1人前、えっと1玉で...」
と、しどろもどろになってしまった。
「熱々がよかったら、そこで、自分で茹でてね」と、
うどんの入った丼をサッと
渡される。
そう、ここはセルフのうどん屋さんだ。
麺は常温で渡され、自分で茹でて温める
システムになっている。
席で、待っていたら注文を、
聞きに来てくれる?
そんな甘やかしは一切ない。
前日に、有名店のうどんを2杯、食べていたし、
ここは、3軒目。香川の空気感にも
慣れた気分になっていた...。
しかし、朝っぱから、難題にぶち当たる。
うどんの茹で方が、わからないのだ。
うどんを茹でる、そんなことは
貧乏な1人暮らしをしているときに、
1000回くらい、やってきた
はずなのに...。
本格的な茹で釜を目の前にすると、
どの湯切りざるを使えばいいのか、どれくらい
茹でればいいのか、さっぱりわからない...。
見ると、お店のおばちゃんは、ちゃきちゃき
忙しそうにしていた。私の後ろには、待っている
人もいる。
「これ、どうしたらいいんですか!?」
と、大きい声で、叫べばよかったものの、
うどんに対して、指示待ちの姿勢をとっていた。
私は、諦めて、そのまま、ぬるいうどんに出汁をかけて
席に着いた。セルフうどん屋で、
うどん県の洗礼を受けてしまった。しょんぼり
しながら席につき、そのままうどんを口に運ぶ...。
ずるずるずるずる。
ん? なんと、これがかなり美味しい。
シンプルなうどんだが、それゆえに、小麦そのものの
香りが鼻に抜ける、そしてコシが強い。お、美味しい...。
もう一度すする。お出汁も優しくて、
なんだか懐かしい感じがする。朝にうどんが重いとか、
そんな偏見を持っていたことを悔やむくらい、
ペロリとたいらげた。
そして、失敗だと思っていた常温のうどんに
かけ出汁をかける、この食べ方。これは
「ひやあつ」という香川特有に食べ方だったらしく、
麺が伸びにくいので、コシが強いまま
食べられるという、実は通の食べ方だったのだ...。(どやぁ)
朝うどんに、非常に満足した私は、ホテルに
戻って、チェックアウトの時間まで、
二度寝することにした...。
備考:この内容は、
2022-1-26
発行:KADOKAWA
著者:SAORI
「散歩するアンドロイド」
より紹介しました。