いま、使っている原稿用紙は、400字詰めで
白地にグレイの罫線が入っている、紙質は、
銀環というのか、比較的厚い。
僕は、鉛筆で何度も消したり、書き加えたり
するので、原稿用紙が薄いと、破けてしまう。
厚手の紙は、少し値が張るが、結局、そのほうが
安上がりになる。
原稿用紙の罫線には、赤、青、緑といろいろある。
一般に市販されているのは、赤が多いようである、
僕は、以前、K社の原稿用紙を使ったことがあるが、
これがグレイだった。
どういうわけか、そのとき調子がよく、原稿が
書けたので、それ以来、グレイの罫線が好きに
なった。というより、グレイでなければ、
書けなくなったのだ。
1つのものが、好きになるきっかけなど、
他愛のないものだ。
いろいろ文房具店を探してみたが、
400字詰めのグレイの罫線の、
原稿用紙は見当たらない。
それで、しばらくのあいだは、
K社の原稿用紙を、もらって書いていた。
しかし、そうもしていられないので、
紙質から罫線の色、間隔まで、K社のに似た原稿用紙
をつくった。
1つ、違うところといえば、原稿用紙の隅に、
K社の名前が入っていたところが、自分の
名前に変わっただけである。
罫線の配列も、いろいろで、それで、
原稿用紙の感じが、ずいぶん違う。
マス目1つでも縦長のもの、幅広のもの、
行と行のあいだの間隔が広いもの、ないものと
様々である。
新聞社の原稿用紙などは、マス目が正方形で、
左右のあいだに、間隔がないのが多い。
出版社のも、各社全部違う。
市販では、マス目が縦長のが多いようだが、
僕の原稿用紙は、やや横広で、左右の間隔が
比較的広い。これだと、行のあいだに
かなり書き込みが出来るので便利である。
よくベラといって、200字詰めの
原稿用紙で書いている人がいるが、僕は、200字詰めは
使ったことがない、やはり、400字詰めでなければ調子が出ない。
このエッセイ、1回、3枚半である。
新聞連載なども、だいたい、その見当である。これを、
ベラで書くと、7枚、書かねばならない計算になる。
200字の原稿用紙を使っているのだから、
当然だが、7枚も書くと、なにか、損をした
ような気持ちになる。
もっとも、ベラを書き慣れている人は、400字は、
1枚が、長すぎて調子がでないという
から面白い...。
僕の家には、いま100枚入りの束で、10束揃った
原稿用紙の山が、5つある。だいたい5000枚少し
あることになる....
去年の、今頃は、この山が、7つあった。
5000枚からの、原稿用紙を見ていると、
これを本当に書きおおせるのだろうか?と、
気が遠くなる。そして、使いきったときは、何歳に
なるのか、と思うと、気が滅入ってくる...。
備考:この内容は、
昭和58-12-5
発酵:新潮社
庁舎:渡辺淳一
「午後のヴェランダ」
より紹介しました。