「うちの家族は、この頃ヘンだわ」
お母さんは、ブツブツつぶやきながら、
夕食の準備をしています。
トントントントン...。
ジャ~ッ!
料理を作る音が、よい調子で、
聞こえています。
「なにか、お手伝いしましょうか?」
直子さんは、お母さんに、声を
かけました。
「そうね。え~と。そう。
お塩が切れてるの。直子、買ってきてくれる?」
直子さんは、近所のスーパーにでかけて、
1kg入りの塩を、買ってきました。
「そこに置いて。あとは、自分の
宿題をやってなさい」
直子さんは、言われた通り、
自分の部屋に戻りました。しばらくすると、
家仲に、カレーのいい香りが、してきました。
「ごはんが、できたわよ」
お母さんの声に、直子さんは、
テーブルに、つきました、大好物のカレーと、
ポテトサラダが、用意してあります。
「いただきま~す」
すっかり、おなかが空いていた直子さんは、
スプーンに山盛りのカレーを、
口いっぱいに、ほうばりました。
「ウエ~ッ!」
ものすごい味でした、直子さんは、
手で、口を押さえると、流し台に走っていき、
吐き出してしまいました。
「お母さん、この味、何?
すごく しょっぱいよ!」
「そうかしら?」
お母さんは、平然とカレーを、
食べ続けています、しかたなく、あの子さんは、ポテト
サラダを食べると、これも塩辛くて、
食べられたものではありません。結局、
白いごはんを、福神漬で、食べるしか
ありませんでした...。
翌朝の食事も、たいへんでした。
お味噌汁も、卵焼きも、ホウレン草のおひたしも、
気持ち悪いくらいに甘い味でした。
でも、お母さんは、とても美味しいそうに
食べています。
直子さんは、お母さんに言いました。
「お母さん、どこか、具合が悪いんじゃ
ない? 味付けが、ひどいもの!?」
「おかしいわね。私は、とても
美味しいと思うけど...」
「お母さん、今日の夕食は、
私が作りましょうか?」
「そうねぇ。でも、だいじょうぶ。
ちゃんと、注意するから...」
直子さんは、学校から返ると、部屋で、
今日の宿題をしていました。開け放した
窓から、お母さんの作る夕食の
匂いが、漂って来ました。それは、とても
おいしそうな香りです...。
「直子~。ご飯よ~」
お母さんの声に、直子さんは、
食卓に付きました。今日の食卓は、寄せ鍋でした。
(これなら、だいじょうぶ。自分でとって、
ポン酢で、味をつけるから...)
直子さんは、安心して、口に運びました。
「お母さん! とってもおいしい、
さすが、お母さんだね」
直子さんの言葉に、お母さんは、
嬉しそうです。
「良かったわ、喜んでもらえて。
今日は、随分と、気を使ってダシを
とったもの。愛情もいっぱいこもって
いるはずよ」
お母さんは、流し台から、何かを
持ってきました、
それは、ぐっしょりと濡れて、
形の歪んだ、お父さんの革靴でした...。
備考:この内容は、
1995-8-5
発行:KKベストセラーズ
著者:滝口千恵
「子どもの読めない童話
怪談50連発」
より紹介しました。