「他に手はない」
「やはり、外聞を、はばかりますもの」
「なんとか、もみ消して...」
「強盗が入ったということに...」
何の話だろうか? 私はまだ、ぼんやりとした頭で、
それでも、奇妙に話は、耳に入っていた。
車に揺られているような感覚があった。
そう。...実際に、車に乗せられていたのった。
どこへ、向かうのだろうか?
話し声は、叔父と、叔母のものである、私は、
「いったい、どこに行くんですか?」
と聞こうと思った。
しかし、口が、動かないのだ、意識のほうだけが
戻って、体がそれに、ついて来ないらしい、もどかしい思いで、
私は、身動きしようとしたが、指先1つ、動かす
ことが、できなかったのだ...。
車は、どこか、郊外を走っているようだった。
...夜中らしく、真っ暗で、窓から、人家の明かりらしき
ものが、まるで目に入らない、
どこへ、行くのだろ? 私は、不安だったが、
身動きもならない状態では、どうすることもできない...。
やがて、車は、止まった。
足音が、近付いてくると、ドアが開いた。
「目を、開けているぞ!」
覗き込んだのは、見たことがない男だった、
「意識は無いんだ。さぁ、運ベ!」
意識はない? とんでもない! 私は、カッとしたが、
言葉は、出て来なかった。
私の体は、何やらベッドらしきものの上に横たえ
られて、ガラガラと車輪のきしむ音とともに運ばれていく、
どうやら、ここは、病院らしいしかし...
どこか、妙だった。
私が、運び込まれたのは、近代的なオフィスを
思わせる一室で、立派なデスクの向こうに座っていた男が
立ち上がって、私を...
いや、叔父夫婦を迎えた。
「院長の久米です、どうも...
おかけください、
こちらが、お話の...」
と、私の方を見下す。
「そうなのです。大変にしっかりした子なのですが...」
と、叔父が言った。
「でも、親類に、精神分裂症の患者が...」
と、叔母が、言い出す。
でたらめだ。いったい、何を言うつもりなのだろう?
「まあ、いずれにしても、突然、錯乱したことは、確かです」
と、叔父は首を振った。
「そして、長年、付き合いのあった弁護士を
刺し●してしまったのです」
私は、愕然とした、刺し●した? 高木さんを?
「お察し申し上げます」
医者というより、どこかのセールスマンみたいな、
小太りの院長が背むいた。
「しかし、何と言っても
かわいい姪ごさん
ですからな、やはり...」
「刑務所へは、入れたくありません...」
と、そこで、ここの話を、以前、
知人から伺っていましたので、ぜひ、入院をさせて
いただこうと思いまして...」
「その●人事件の方は、どうなりましたか?」
「強盗が、入ったことにしてあります。万一、
porice の手が伸びてきたときには、何卒、よろしく」
「かしこまりました」
と、久米という院長が背く。
「入院の日付を、
1週間前にして、おきましょうか?」
「そう、お願いできれば、むろん、その分の
料金は、お支払いします」
「よろしく。ここは、お安くありませんが、
ともかく、完全に面倒は見させていただきます」
「どうか、よろしく」
冗談じゃない! 私は叫びたかった。私がどうして
高木さんを、●したりするだろう。
何かの間違いだ!
しかし、相変わらず、声は出ない。
「で、打ち明けたところを、お聞きするのですが、...」
と、久米院長は言った。
「このお嬢さんは、いつまで、お預かりすれば
よろしいのでしょうか?」
叔父と叔母は、チラッと顔を見合わせた。
そして、叔父が言った。
「一生、ここに置いて頂きたいのですが...?」
備考:この内容は、
1984-5-10
発行:徳間文庫
著者:赤川次郎
「華麗なる探偵たち・
英雄たちの挨拶」
より紹介しました。
(編集後記)
あの~、
「いいね」が上限を超えてしまったので、
読者の皆さんに、
「いいね」返しができません。
あらかじめ、
ご了承願います。
一括して、
お礼申し上げておきます。
本日も、お越しくださいまして、
ありがとうございました。