悲鳴が漏れる?
一人で夜、読まないでください
「夏の終り」
夏が終わらない。
俺は、ひとり、道を歩いていた。
突き刺すような陽光で、アスファルトの地面が
ギラギラと光り、俺の網膜を刺激する、
身体が熱い。
脳をかき乱す。溶けた脳が汁となって、
吹き出す。陽炎で景色が揺れる。
景色が歪む。俺の心も歪む。悲鳴を上げる、
...誰でもいい。誰でもいいから、
●させてくれ...。
はじめて「命を奪うこと」を覚えたのも、
暑い夏の日だった。ではなく、
熱かった。身体も、心も、脳ミソも。
沸騰しそうに熱かった。
だから、俺は、地面を這い回るアリを、
指で潰した、それで、どうなるかなんて考えて
いなかった。ただ、本能的に、つぶした。
スッとした、身体中から熱が引き、
清涼感に包まれた。
いや、清涼感などという生易しい
ものじゃなかった、数日間漂流し、極限まで
乾いたのどに、氷水を流し込んだような、快感、
悦楽、恍惚...。
俺は、夢中になって地面を卑しく
這うアリを、次々につぶした。きっと、そんときの俺は
随分とほうけた、間抜けな顔をして
いたんだろう...。
ふっと、身体が浮いた。
「なに、やっているの?」
先生の尖った声が、耳元で聴こえ、
俺は、ゆっくりと、顔を向けた。
20歳か、そこらの幼稚園の女性教諭は、
怯えるような、汚物を見るような目で、俺を、
見ていた。震える声で「ダメでしょ!」
と、再度、咎めた。
俺は、何が「ダメ」なのか、わからなかった。
人指し指の先に、産毛を撫でられる
ような感触があった。胴体が、ちぎれかけ
けがらわしい汁を流しながら、醜くうごめく蟻が
引っついていた、俺は親指を、押し付けた。。。
プチリと、心地よい音がした。
長じて、意味もなく、食べるためではなく、
他の命を奪うのは「ダメ」なのだと
学んだ。でも逆に言えば、食べるための
●生は、許されている。生きるための●生は
認められている。
また夏が来て、身体や心や脳ミソが
夏を持つ、意識が混濁し、腹の底でマグマの
ような塊が、ぐつぐつと煮えるたぎる。
だから、俺は●すことを、やめなかった、
ザリガニを●し、カエルを●し、雀や
ニワトリを●し、ウサギを●し、イヌやネコを●した。
俺にとっては、意味のある、自分を
鎮めるため、生きるために必要な行為だった。
食べるため、ニワトリを絞め、牛や豚を●る
ことと、何も変わらない、すべての人間が、
金銭を介して、代替えしてもらっているとはいえ...、
やっていることだ。
俺は、アタマは悪くない。いくら理屈をこねようが、
他人が理解できないことは、わかっていた。
忌み嫌われることもすぐ悟った。
人に、嫌われたって、どうってことはないが、
面倒な事態は、避けたかった。だから、哺乳類に
手を出し始めたころから、ひと目を偲んで
行為に及ぶようになった...。
始めて人を●したのは、高2の夏だった...。
備考:この内容は、
2018-4-23
発行:宝島社
著者:伽古屋圭市
「5分で凍る!
ぞっとする怖い話」
より紹介しました。