ずいぶん前になるんですがね、
テレビの取材で台湾に行った。
『心霊探訪』に、出かけたんですよ。
あちらにはねぇ、「H」というテレビ局が
あってね、そこでやってる
『心霊の番組』が、高視聴率を取っているって言う。
で、一緒に行動をともにして、番組を
作ろうと、そういう話になったの
ですよねぇ。
心霊スポットへ、行くことになった。
大雑把に行って、行くところは2箇所。
まず、①つ目のところは「シンハイ」とか
いうところで、『●者の街」なんだそうだ。
車です~っと行ったら。盆地のようなところ、
低い山がずっと囲んでいる
ような所をですね。
あちらには、あんまり、いわゆる
樹木が、無いんですよね。
代わりに、亜熱帯風の草が、
びしっと生えている。
カラフルな家でねぇ、みんな。
で...、そこが、みんな「●者の家」
なんですよねぇ。
その地域というのは、生きて生活
している人よりも、●んで家に
「住んでいる」人の方が多いわけです。
そのバンガローというのは、実は
お墓だったんですね。
そのバンガローのようなお墓は、
中も全部、家のようになっている。
で、あちらは土葬が多かったですから、
一旦は、土葬にして土に埋める
んですが、何年かしたら、掘り起こして、
壺に入れて、バンガロー墓に
置いとくわけだ。
「皆が中で、仲良く暮らしているんだよ」
って、言うんです。
いわば、黄昏の国のようなもの
ですよねぇ。
で、私らも、そこに行ったわけです。
季節は、冬だった。
大きな豚が、ずっと目の前を通る。
「おっ、すげぇなあ、大きいな~」
辺りは、全部、バンガロー。
で、その間を縫って、私、
いろいろ辺り、歩いてみた...。
案内してくれたのが、その「H」局の人で、
途中で、こう、下り坂にあった
ような、小さな切り通しのような道がある。
そこに、入って行ってみると、
そこそこ立派な道が続いている。
しばらく行くと、行き止まり...。
で、ひょいっと見ると、そこにね、
洞窟のようなものがあった。
(あ、洞窟だな。ここ、入ってみたいな...)
って、なった。
ちょうど大人が立って歩けるような高さの、
人が造った洞窟だ。レンガ造りで
もって、コンクリートで固めてある。
その壁のところに、
「日本軍用」
って書いてある。
どうやら、戦争の時に日本軍が造った
ものらしく、中に、いろいろあるような
んですね。
で、中へ入ろうとしましたらね、
一緒にいた、台湾の霊能者の女性が
「入っちゃいけない!」
って、言うんです。
「こっから先は、勝手に入っちゃいけない。
非常に危険だ」
まぁ、通訳してもらうと、そういう
ことを言ったらしいんです...。
辺りを見ると、ずらっと、壺が
並んで置いてある。
要するに、そこは、ある骨は、無縁仏、
なんですよねぇ。お墓に入れたい
んだけど、場所が無い。
で、旧日本軍が造った洞窟のところに、
壺に入れて置いている。
地面には、お守りのようなものが、
描かれている。
「うっ...
すごいなぁ、ここ」
もうねぇ、すごい雰囲気なんですよねぇ。
すごい迫力でした。
で、私が、その霊能者に、
「大丈夫、私がいるから...」
って、言ってみたら、
「あぁ、そうですか?」
って...。
「じゃあ、入って見ましょう」
中に入った。
明かりがない。
しばらく進むと、
バサッ!
と、音がする。
「ん? 何?」
バサッ、バサッ、
(ん...?)
バサッ、バサッ、バサッ、バサバサ!
こうもりなんです。
「うっお...!」
すごい数の、コウモリがいるんです。
暗くて見えないから、手探りで進む。
ぐっと、曲がった。道はまだ続いている。
そのうち、どこからか、風が流れてきた。
音がしてる...。
我々の、音じゃない。
(横穴、から...?)
見ると、幅の狭い通路が、そこにあった。
一人が、ライターのようなものを出して、
「行ってみますか?」
明かりで、照らしてくれた。
明かりを頼りに進むと、部屋が
あったんです。
そこねぇ、通路じゃあない。
部屋だったんです。
部屋は、3つある。
と、そこに入った瞬間、さっと、
何かが通り抜けていくような気がした。
(ん? あぁ? 足音がする...。
足音...?)
でもそれ、我々の足音じゃあ、ないんだ。
私たちが進んでいく、その方向の
方から、足音が聞こえてくる。
狭いところを、こっちは一列になって
歩いてる。私が先頭だ。
だから、その足音、どうやら、
私にしか、聞こえていないらしい...。
私は、足音の方角に向かって進んだ。
そうしたら、行き止まりなんです。
「えぇっ!」
と、そこの横のところに、なにか空間がある。
明かりで、照らしてもらうと、
階段だ。
こんなところに、行き止まりだと思ってた先に、
階段があった...。
「うえぇ~...!?」
明かりはね、私の後ろから、照らして
いるんです。
その光を、どうにか頼りに、また
進んだわけだ。
ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ、
ざわざわ...。
何か聞こえる。人の話し声のような...
何を言ってるのかは、わからない
けれど、何か人の話し声が聞こえて来る...。
また少し進むと、階段がある。
私、そこでひと息ついて、ポラロイドを
取り出して、一枚、そこで写真を
撮った...。
ガシャッ!
その先に、何があるのかは、わからない。
進めば、意外と外に出るのかもしれないな
と、思いつつ、進もうとした瞬間、
カメラマンが、
「すいません! もう駄目です!
駄目です!
ううっ...!
私も、
もう...」
どうやら、酸欠を起こして
いるらしい...。
顔色が真っ青で、汗をびっしょり
かいてる...。
備考:この内容は、
2022-7-21
発行:リイド社
著者:稲川淳二
「リイド文庫
真説 稲川淳二の
すご~く怖い話・事故物件」
より紹介しました。
