「ER 第11シーズン」
シナリオの力を見せつける脚本力
カーチェイスだけでなく
心理描写も目が離せない
番組当初から登場していた
カーターがついに去る日が、
やってくる...。
C・チュラックらしい
緊迫感のある展開
第11シーズンは、前シーズンから、
引き続いて製作総指揮を担当した
クリストファー・チュラックの
持ち味が、存分に発揮されたシーズン
といえる。
チュラックは、ジョン・
ウェルズと共に、『サード・
ウィッチ』を、制作した演出家出身の
プロデューサーである。
ジョン・ウェルズや、ジャック・オーマンなどの
ように、脚本家出身が多い
プロデューサー陣の中で、異色とも
いえるチュラックのタッチは、とにかく
ハードな展開。
それは、数々の
クライム・ドラマを制作してきた
チュラック自身が監督した第11シーズンの
第①話、「不本意な別れ」での
冒頭からの派手なカーチェイス後の
展開から見て取れる...。
銃撃され、車ごと川に転落したプラット
(メキー・ファイファー)たちが沈み
ゆく車の中から、負傷しながらも懸命に
脱出を試みるという、壮絶な
シーンをじっくりと描き、
ここからスタートする第11シーズンは、
全般にわたって”アクション”が
物語を牽引していく。
”アクション”というのは、
もちろん肉体的なものだけではなく、
あるいは個人の精神的なもので
あったり、対立する感情的なそれで
あったり、とにかく画面のどこかで
アクションが進行して
いるのである...。
肉体的なものでは、実際にERの
メンバーが直接的な危機と遭遇
する冒頭の「不本意な別れ」の
プラットと、ジン・メイ(ミン・ナ)を
はじめとして、アビー(モーラ・
ティアニー)が、ギャングに誘拐されて
重症を負った仲間の治療を強要
される、
「重症患者」、イラクで軍医
として働くガラントを描いた
「こちらとあちら」など、それぞれが
命の危険にさらされる...。
医師だけでなく、患者の描写に
おいても「恐れ」の冒頭での酒に
酔った父親が、母子の部屋に襲撃
してきて、母親を精神的に追い詰めて
いく様、あるいは、認知症となった
ジン・メイトプラットが
必●で、抑え込む様子まで過剰な
までのアクションが描かれている。
心理的、感情的なアクションは、
主に外傷治療室で発生する。
これまでも、優秀であるがゆえに、自分の
主張を譲らなかったベントンや、
子ども患者を守るために熱くなる
ロスなど、声を荒げることは多々
あった。
しかし、第11シーズンに
おいては、放漫が持ち味である
プラットに加えて、新任レジデントの
レイ(ショーン・ウエスト)、
そして、新任外科医のドゥベンコの
3人が入れ替わり立ち替わり、相手を
罵倒するのである。さらに、カーターや、
コーディーは、製薬会社や
医療制度の矛盾に対して声を荒げ、
行動を起こす...。
様々な対立をはらんだ画面は
よく言えば、常に緊張感を持っている
のだが、悪く言えば、殺伐として
いるとも、考える事ができる...。
そんな対立図式の中で落ち着いた
静かな演技でフォローに回る
ことが多かったコーディーと、
ジン・メイは、居場所をなくして「ER」を
去っていくのである。
とはいえ、そういった演出先行で
描かれることの多い第11シーズンに
おいて、ディー・ジョンソンの
脚本は、いずれも一風変わった設定で
物語を進めてゆき
(「群衆の中の孤独」という話では、脳梗塞で
意識が肉体に封じ込められた状況で
の、患者のモノローグで進行して
ゆく)シナリオの力を、見せ
つけてくれた...。
中でも、ディヴィッド・ザーベルが
脚本を書いた「末路」では、
チュラックが演出を担当したものの、
シナリオの完成度と、レイ・リオッタの
演技を優先して得意の
アクションを完璧に封印して、●に向かう
男の意識を、ほぼリアルタイムで、
描き、久々に「ER」でエミー賞を
もたらした傑作回である...。
シーズン終盤になると、話を
まとめるために、ジョン・ウェルズが
脚本や演出に参画して、個々の
キャラクターを掘り下げた話が多く
なってくる。
特に、第1シーズンからの
レギュラーで、今シーズンでの
降板を宣言したノア・ワイリー扮する
カーターには、ゆるやかで劇的な
退場が用意される。
「新薬」で、かつての同僚と再会して、現在の
自分を見つめ直し、10年前の医学生
時代にカーターが、対処を誤って
妻を●くしたルバドーとの再会と
和解、新しい恋人との別れと愛する
ケムとの再出発など、10年間を
総括したうえでの、幸福な退場は、もう
ひとつのグリーン先生かと、思われる
ほどの充実したものだった...。
ただし、そんなカーターとの
別れで、しめやかに終了するかと
思わせた第11シーズンの最終話では、
パーティー会場だった3階建て
ポーチの崩壊と群衆の転落を
ワンショットで描くという、いったい
どうやって撮影したのか? と思うほど
の、とてつもないアクションシーンで
話を締めてしまう。
まさに、アクションで始まり、
アクションで終わった第11シーズン
であった...。
備考:この内容は、
2011-12-26
発行:キネマ旬報社
発行人:小林光
編集人:青木眞弥
「これが面白い!
海外テレビドラマ ベストテン
2011-2012」
より紹介しました。