「SF映画はおろか、映画史にも多大な
影響を与えたメトロポリス」
【映画の”マジック”は、ローテクに宿る!】
映像の技術的な限界を、
創意工夫で乗り越えろ!
いま、僕たちは、デジタル時代
の真っ只中にいる。「CGI」 という
何でも実現できる魔法の
ツールのおかげで、映像
表現における不可能は、なくなった
と言っていい...。
しかし、その反面、スクリーン
から、列車が向かってくる
だけで、パニクったような素朴な
驚きを失ってしまった。
「どうせ、CGなんだろ?」
「グリーンバックで、
合成してるんだろ?」
と、映画のマジックに、驚かなく
なってしまったのだ...。
マジックには、
種も仕掛けもある。だから
こそ、仕掛けのわからない
マジックに魅せられるのだが、
すべてが「CGI」になった瞬間、
僕たちは、種や仕掛けへの興味
を失ってしまった...。
本稿は、時代のエポックと
なったSF映画を通して、映画の
マジックの変遷を、撮影技術
の進化にからめて、考察した
ものである。
それはそのまま、
技術的限界を創意工夫で、
乗り越えようとする、SFXの歴史
とも重なるはずだ...。
「2001年宇宙の旅は、こうやって撮っていた」
【映画サイレント期の、
途方も無い苦労と努力...】
SF映画の黎明ということ
では、20世紀初頭に誕生した
ジョルジュ・メリエスの
「月世界旅行」(02年)あたり
から語るのが、順当なのだろうが、
最初に知っておいてもらいたい
のは、当時の撮影機は、
一眼レフではなかったので、
撮影中に、アングルを確認でき
なかったということ。
ピントにしても、現像が上がるまで、合って
いるかどうか確認できないし、
移動ショットやパンニング
(三脚を軸にカメラを左右
に振ること)ひとつとっても
勘でやるに等しかった。
しかも、フィルムを駆動する
クランクを回しながらだ。つまり、
メリエスの映画も、こんな状況
下で、作られたことを、知って
ほしい...。
SFXうんぬんの以前に、
フィルムに、きちんと露光するだけで、
奇跡に近かった時代に、
舞台マジックの大御所とはいえ、
トリック撮影を、実践したこと
が驚異なのだ!
もっと詳しく知りたい方は、
スコセッシの
最新作『ヒューゴの不思議な発明』
を観てほしい。総ガラス張りの
ステージでの、撮影風景が、
詳しく再現されているから...。
メリエスが駆使したテクニックは、
撮影機をいじった
事がある人なら、誰もが一度は
経験する、固定したカメラの
ON・OFFで映っていた人物が
消えたり移動したりする
ストップ・モーション・
フォトグラフィで、さらに写真の
方では、ポピュラーだった
マスキング(レンズ前の一部を
マスクして撮影した後、
巻き戻して、今度は、反対側を
マスクして、二重露光することで、
簡易合成する技術)や、黒バック
での、二重露光を駆使して
奔放なイマジネーションを実現し
ている...。
オプティカル・プリンター
(現像済みのフィルムを、何本も
合成して撮影する機械)
の無かった時代に、カメラ
の中だけで、フィルムを巻き上げて
二重撮影したのだから、
さぞかし、マスクの位置合わせが
大変だっただろう...。
筆者も、8mm時代に、同様の
苦労を味わったことがある...。
自主映画は、映画史をなぞる
試みでもあるのだ...。
サイレント時代に、ドイツの
ウーファ社で製作された『メトロポリス』
(27年)は、以後の
SF映画である、『スター・ウォーズ』
(77年)や、
『ブレード・ランナー』
(82年)などに、
決定的な影響を与えた傑作だが、本作で
使われたテクニックの、最たるものが、
特殊撮影を担当した、オイゲン・シュフタンが、
開発した「シュフタン・プロセス」
と呼ばれる合成技術。
これは、レンズ前に90度の角度で、鏡を置き、
水銀の一部を削り取って、向こう側が見えるようにし、
鏡に映した写真や、ミニチュアを合成する技術で、
両方にピントを合わせるために、
特殊なレンズを開発したという...。
ちなみに撮影機の一眼レフ化は、30年代半ば、
ベルリン・オリンピックの撮影で、
活躍したアリフレックスの登場
あたりからだと思われる...。
『メトロポリス』に登場する複葉機が
摩天楼を飛び交う
未来都市は、コマ撮りによる
ミニチュア・ワークで作られて
いたが、ストップ・モーションの
大御所といえば、この人、
ウィリス・H・オブライエン
によるモンスター映画の金字塔
『キング・コング』(33年)だ。
人形を、1コマずつ動かして
撮影するのは、さぞかし根気
のいる作業だったと思うが、
このローテクに、リア・プロ
ジェクション(背景映写)を
組み合わせることによって、
人間との共演を可能にしたのだ。
ここで説明しておきたいのが、
リア・プロジェクションも含めた
スクリーン・プロセス
と呼ぶシステム。
人物の背後に設置したスクリーンに、裏側
から映像を映すことで、スタジオの
スターと実景を簡単に
合成する技術で、撮影コストの
削減とともに、録音の問題も克服
するシステムとして、ハリウッドで
重宝された...。
車に乗った人物の背景を、
流れる不自然に揺れる風景など、
ある種の、お約束と化した合成技術だが、
1コマずつ映写して、人間と人形の
共演を可能にした逆転発想が、
オブライエンの、
すごいところだ...。
備考:この内容は
2012-8-21
発行:洋泉社
「映画の非週科目03
~異次元SF映画100~」
より紹介しました。