「マジンガーZに乗って操縦する 兜甲児。
車酔いは、必至だ!」
巨大な人間型のロボットに、人間が
乗り込んで操縦し、敵ロボットと激闘を
繰り広げる。空想科学の世界において、ロボットの
主流といったら、これだ!
現実のロボットの多くが、工業用に開発された
人間とは、似ても似つかない、機械のかたまり
であることとは、エライ違いである。
初めて、このコンセプトを導入したのは、
「マジンガーZ」である。それ以前の、
自ら電子頭脳を持った鉄腕アトム、
リモートコントロールで、操縦された鉄人28号
とは、まったく違った、まるで車に乗る
ような身近さがウケた。その後も、人が乗り
込むロボットが、続々と生産され、これが、
空想科学上のロボットの常識となった。
しかし、巨大な戦闘用ロボットに、人が
乗り込むというのは、非常に危険な、行為
ではあるまいか?
人間が、直接、出向いては、
危険だから、ロボットに任せようという、
ロボット開発における本来的な発想が、
そこには一切ない...。
そこで、実際に、巨大ロボットに乗り
込んだ人間が、どういう目に遭うかを、考えて
みたい。想像を絶する危険が、待ち受けて
いるのでは、無いだろうか...?
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「エヴァンゲリオン 初号機」
【乗り物酔いは、避けられない】
人間と、同じような激しい動きをする、
身長数10mのロボットに乗り込むなど、
命知らずも、ここまでくると、見上げたものだ。
乗り込むヤツの、気が知れない...。
歩く、走るといった、ごく普通の動きを
するだけでも大変である。具体的に、
「マジンガーZ」に、乗り込んだ場合を考えて
みよう。空想科学ロボット史の流れを
変えたこの名機は、身長18m、人間のほぼ、
10倍の大きさという設定である。
マジンガーZは、歩幅6.8m、時速
50kmで歩くという。(「スーパーロボット
大図鑑」バンダイ参照)。
時速50kmを秒速に直すと、
秒速14mだから、このロボットは、1秒に
2歩のペースで、歩くことになる...。
人間の歩幅では、68cmという、かなりの
大股で急いで歩くのと、同じような動きだと、
考えられる...。
剣道の達人は、足を運ぶ時、頭や腰の
位置が、ほとんど上下しないと言われるが、
いくら達人でも、大股の早足で歩けば、
3cm程度の上下動は、するだろう...。
マジンガーZの場合、長さの規格は、すべて
人間の10倍。つまり、乗っている兜甲児は、
30cmの段差が延々と続く道路を、時速50kmで、
ぶっ飛ばすのと、同じ衝撃を受ける
ことになる。
乗り物酔いは必至だ!
「機械戦隊のコクピットは、意外と広い」
モトクロスには、「洗濯板」と呼ばれる
こうしたコースがあるが、このコースで
時速50kmなどという速度は出さないし、
2、3段ずつ飛び越えながら進んでいく
のだという。しかし、マジンガーZは、
カール・ルイスの、ほぼ10倍の
スピードである...。
カール・ルイスは、'88年のソウルオリン
ピック 100m走において、9.92秒で
金メダルを獲得した。
『走る科学』(小林竜道/
大修館書店)によると、43.6歩の
疾走であったという。1歩に要した
時間は、0.23秒。同書に載っている
他の選手のデータと比較すると、このうち、
0.09秒は、地面を蹴り、0.14秒は、
宙を舞っていたと考えられる...。
10倍の速度で走るマジンガーZは、
これらの時間も、すべて10倍になる。すなわち、
0.09秒かけて、地面を蹴り、1.4秒間、宙を舞う。
すると、空中では、高さ 2.4m、幅230mの、
平べったい放物線を描く。ひと蹴りで、
身長の10倍以上も進むのだ。
ちょっと、歩幅が、広すぎるような感じ
もするが、人間と同じフォームで、10倍の
速度を出すには、この走り方しか
ありえない...。
見方によっては、あたかも、水面を滑る
ような、優雅な走りとも言える。しかし、
乗っている兜甲児は、大変だ。
放物線運動を行う物体の内部は、
無重力になる。ジェットコースターが、急な坂を
降りるときや、飛行機が乱気流に巻き
込まれた時など、体が、フワッと浮き、
内臓が、口から出そうな感覚に襲われるが、
あれが、1.4秒続くのだ...。
「アバター AMPスーツ」
そして、着地すると、無重力状態は消え去り、
次のひと蹴りで、坂を降り切った
ジェットコースターが、再び上昇するときの
ように、上から押し付けられるような感じ
を受ける。
これは、マジンガーZが、地面を
蹴る位置からの反動だ。人間の短距離走では、
この力は、最大で体重の3倍だが、マジン
ガーZの場合は、その力も10倍に増大して、
体重の30倍となる。兜甲児の体重を70kgと
仮定するなら、ほぼ 2t である...。
結局、操縦者・兜甲児は無重力と、上からの
圧迫を2.3秒おきに受けながら、
時速360kmで、移動していることになる。
これはもう、想像するだけで、気持ち悪く
なるほど、酔いまくる!
2t という力も脅威である。針金を
何度も、曲げ伸ばししていると、そのうち、
チギレてしまう...。
金属に限らず、物体は
繰り返される力に弱いのだ。1回や2回なら、
耐えられても、2.3秒おきに延々と、
繰り返されたら、やがて、骨がミゾレ状に
複雑骨折するんじゃないか? ゾ~ッ...。
備考:この内容は、
2018-11-30
発行:(株)KADOKAWA
著者:柳田理科雄
「空想科学読本 1」
より紹介しました。