星新一「試作品」... | Q太郎のブログ

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パクリもあるけど、多岐にわたって、いい情報もあるので、ぜひ読んでね♥
さかのぼっても読んでみてね♥♥

 

 

 エム博士の研究所は、静かな林の中にあった。博士は、そこに1人で住んでいる。

 

町から遠く離れているので、誰もめったに訪ねてこない。

 

 

 

しかし、ある日、あまり人相のよくない男がやってきた。

 

 

 

「どなたでしょうか?」

 

と、博士が聞くと、男はポケットから拳銃を出し、それを突き付けながら言った。

 

「強盗だ。おとなしく金を出せ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「とんでもない。わたしは、貧乏な、ただの学者だ。もっとも、長い間の研究が

 

やっと完成したから、まもなく景気がよくなるだろう。しかし、今のところは、

 

金などない。」

 

 

 

こうエム博士は答えたが、そんなことで、強盗は引き下がりはしない。

 

 

 

「では、その研究の試作品をよこせ。どこかの会社に持ち込んで、

 

高い金で買い取ってくれるだろう」

 

 

 

「ダメだ。渡さない。他人の研究を

 

横取りしようというのは、よくない精神だぞ」

 

 

 

「それなら、ひとりで探し出してみせる」

 

 

 

強盗は、逃げ出さないようと、博士の手を引っ張って、研究所の中を

 

調べ回った。しかし、試作品らしいものは、どこにも見当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に小さな地下室をのぞいた。中は、がらんとしていて、机とイスが

 

置いてあるだけだった。強盗は博士に言った。

 

 

 

「どうしても渡さない気なら、ただではすまないぞ!」

 

 

 

「拳銃の引き金を引くつもりなのか?」

 

 

 

「いや、○してしまっては、品物が手に入らない。いやでも渡す気になる方法を、

 

考えついたのだ。さあ、この地下室に入れ!」

 

 

 

「いったい、わたしを、どうしようというのだ?」

 

 

 

「あなたを、この中に閉じ込める。俺は、入り口で頑張ることにする。

 

そのうち、空腹のため悲鳴を上げるだろう。品物を渡す気になったら、

 

すぐに出してやる」

 

 

 

「ひどいことを、思いついたな。だが、そんな目にあわされても、決して

 

渡さないぞ!」

 

 

 

博士は、あくまで断わり、ついに地下室に押し込まれてしまった。

 

 

 

・・・・・・。

 

 

 

かくして、一日が経った。強盗は入り口の外から、声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぞ、お腹が空いたことだろう? いい加減で、諦めたらどうだ?

 

こっちは食料があるから、当分は大丈夫だ」

 

 

 

「いや、わたしは絶対に負けないぞ!」

 

 

 

「やせがまんをするなよ」

 

 

 

 しかし、次の日も、そのまた次の日も、

 

同じことだった。

 

 

 

声を掛けると、中で博士が元気に答える。

 

ときには、のんきに歌う声も聞こえてくる。

 

 

 

1週間が経ち、10日が過ぎた。

 

 

 

 まだ、博士は降参しない。そのころになると、強盗のほうが弱ってきた。手持ちの

 

食料がなくなりかけてきたし、戸の外でがんばっているのも、飽きた。

 

それに、何も食べないでいるはずなのに、相変わらず元気な博士が、うす気味悪く

 

思えてきたのだ。

 

 

 

「もう、諦らめた。いつまでも、きりがなさそうだ。引き上げることにするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強盗は、すごすごと帰っていった。エム博士は、地下室から出てきて、

 

ほっとした ため息をついた。それから、こうつぶやいた。

 

 

 

「やれやれ、やっと助かった。試作品が地下室にあったとは、強盗も気が

 

付かなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

チョコで作った変わったもの に対する画像結果

 

 

 

 わたしが完成した研究とは、食べることの出来る机やイスを作る

 

ことだったのだ。おかげで、その作用を自分で確かめることになってしまった。

 

栄養の点はいいが、もう少し味をよくする必要もあるな。きっと将来は、

 

宇宙船内や惑星基地での机やイスには、すべて、これが使われるようになるだろう。

 

そして、万一の場合には、

 

大いに役に立つに違いない・・・。

 

 

 

おかしの家 に対する画像結果

 

 

 

備考:この内容は、

令和3-4-30

発行:KADOKAWA

著者:星新一

「きまぐれロボット」

より紹介しました。