世界初!本格的にCGを用いたサーバーSF巨編
「トロン」(1982年/アメリカ)
世界で初めてCGを大幅導入
して作られた長編劇映画であり、
プログラムを擬人化して電脳世界
を描いたサーバーSFとしても
画期的な作品。
独立系アニメスタジオを
運営していたスティーヴン・
リズバーガーが、自らのオリジナル
企画をディズニーに持ち込んで
監督デビューを果たした野心作だ。
ストーリーは至ってシンプル。
主人公の天才プログラマー・
フリン(ジェフ・ビリッジズ)は、
自分のアイデアを奪った巨大企業の
総合コンピューター『MCP』に
ハッキングを図り、逆に、レーザー・ビームで
分解・変換されて電脳世界
に送り込まれてしまう。そこで、
彼は勇敢なプログラム・「トロン」と
出会い、共にMCPの野望を打破
するべく戦いを挑む!
現在ほど コンピューター技術も
発達しておらず、インターネットも
なかった時代の産物ながら、その
先鋭的な内容には驚かされる。
もちろん、荒唐無稽だし、腑に落ちない
ところも少なくない。だが、
コンピューターが未知の
領域だったからこそ、のびのびと、
自由な発想で描けた部分のほうが
圧倒的に多いのもまた事実だ・・・。
コンセプトデザインには、シド・
ミードが参加し、サーキットを
疾走する「ライト・サイクル」
などの未来的マシンの数々を考案。
一方、フレンチ・コミックの
巨匠ジャン『メビウス』ジローも、
プログラムたちの多彩な衣装や
ソーラーシップなどを造形。その
独創性に飛んだビジュアルは、
今尚、○薬的な魅力で多くのファンを
惹きつけてやまない・・・。
作品全体に、うっすらと漂う
「恐怖」も魅力的なアクセント。
創造主であるユーザー(人間)に抗い、
世界支配をもくろむMCPには、
『地球爆破作戦』(70年)の
コロッサスにも通じる非情さと不気味さ
がある。フリンがレーザー光線で、
分解される場面も、一切の感情的
躊躇が感じられないがゆえに
恐ろしい。
暗黒に覆われ、表現主義的
な悪夢感覚も漂うデジタル世界の
光景は、独裁者(あるいは巨大
企業)によって、支配された人間社会の
カリカチュアでもある。
世界初のCG映画と謳いながら
当時は技術的に限界も多く、
ライトサイクルのレースシーンなどの
フルCGパートを除き、全編に
わたってアナログ・アニメーション
が駆使された。
キャラクターの
登場シーンは、黒い背景に白線を
描いただけのセットで演技する役者
たちを、65mmの高解像度
モノクロフィルムで撮影。それを大判
フィルムに転写し、1コマずつ
手作業でバックリット(透過光)
アニメ合成の処理を施すという手法が
とられた。
カットによっては、
25~30枚ものレイヤーを重ねて合成
された映像の質感には、アナログに
しか出来ない味わいがある・・・。
公開当時は、一般受けしなかったが、
のちにカルトムービー化。
CG映像表現の可能性を示した作品
として、VFX技術の発展、
ピクサー作品を筆頭とするCGアニメ
の隆盛など、後世に多大な影響を
与えた。
先ごろ続編
『トロン・レガシー』(10年)が制作されたが、
最新デジタル技術を駆使した映像は、
オリジナルにあった独創性が
あまり感じられず、技術の進歩だけで、
名作は生まれないことを如実に
示した・・・。
備考:この内容は、
文章は、「トロン」
画像は、「トロン・レガシー」を採用しました。
文章は、2012-8-21
発行:(株)洋泉社
「洋泉社MOOK映画秘宝EX
映画の非週科目03
~異次元SF映画100~」
より紹介しました。