医学博士 斎藤茂太
どんなに頑張っても、
自分を見失っては何にもなりません。
少し、肩の荷を下ろしてみましょう。
ドイツ人と日本人は、もっとも勤勉な人種
だと、よく言われます。たしかに、中年以上の
日本人には、規律正しく、働き者で、生真面目
な人が多いようです。ところが、何事も一生
懸命やり遂げようとする、こういう粘着気質
の人は、ついつい頑張りすぎてしまうため、
ストレスに一番、やられやすいのです。
我が家のことで言えば、父(歌人で精神科医
の故・斎藤茂吉)は、典型的な粘着気質でした。
几帳面で神経質、完璧主義の超真面目人間。
それに反して、母の方は、自由奔放で、
好奇心旺盛、楽天的かつ外交的。正反対のふたり
でしたが、子供から見ると、母のほうが
人生をラクに、生きていたような気がします。
戦後、父の青山の病院が焼けたときも、母が
「茂吉が歌を書いて返します」と、出版社からお金
を前借りして、病院を再建しました。いざと
いうときは、あれこれ悩まず、一つのことに
とらわれずに行動に移す、母のようなタイプ
のほうが、落ち込むことは少ないようです。
【いつも「STRESS」を心がける】
そうは言っても、物事を、真正面から受け
止める真面目気質の人に、性格を改めろと
言っても、それは、無理な話です。そこで、私が、
おすすめするのは、英字の「STRESS」を頭に
した、次に、掲げるストレス軽減法です。
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(Sports)
スポーツをふだんから生活習慣として取り込めば、
健康にもプラスになります。
(Travel)
旅行すると、日常から開放され、ささいな悩みを一時的に
忘れる事ができます。ちなみに、私の母は、70歳を過ぎてからも、
エベレストや南極、南米など、世界を旅していました。
(Recreation)
レクリェーションは、映画でも読書でも、その人が楽しい
気分になるものなら、なんでもいいと思います。
(Eat)
食べることは、癒やしに繋がります。
(Smile)
笑って大きな呼吸をすることで、新鮮な空気が体内に入り、
気持ちもリフレッシュになります。患者さんも、笑う人ほど、
治りが早いものです。
(Sleep)
ムシャクシャしたときは、寝ることで、
嫌なことから、一時回避します。
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ストレスは、原因も状況も、1人ひとり違い
ます。自分に合った軽減法を知っておけば、
気分が落ち込みそうなときに、サッと対処して、
泥沼に、はまってしまう前に、そこから抜け出す
事ができます。
でも、これは、あくまでもストレス軽減法
で、解消法ではありません。人間は、生きて
いる限り、ストレスが、ゼロになることはありま
せん。たまったストレスを減少させることは、
生きていく上で大切ですが、一方で、ある
程度、ストレスと共存していこうという姿勢も、
必要なのです。
例えば、借金は、大変なストレス
ですが、それが、あるから仕事も続けられる
という人は大勢います。ストレスを「よい
刺激」と、とらえることも、長い目で見れば、
重要なことかもしれません・・・。
【80%主義の勧め】
自分に,100%を求める完璧主義の人は、
心の裏側に、極度に失敗を恐れる気持ちを
抱えているものです。失敗への不安から逃れる
ために、必要以上に突っ走ってしまうので
しょう。そして、そんな人に、お勧めしたいのは、
まずは、80%で、やってみるということです。
ハードルを下げた分、ラクにできるので、
当然、余裕も出てきます。感性面も豊かになり、
人間関係も、うまくいくようになってきます。
そのうち、重い重いと言っていた、肩の荷も、
いつの間にか、軽くなっているのです。
また、ラクに目標を達成できたことで、
そこに「次はもっとできそうだ」という、
プラスの志向が、生まれることも80%主義の
メリットです。次は、90%を目指してもいいし、
80%のままでも、落第ではないのですから、
そのままでもいいのです。要は、自分に
合ったペースを知ることで、人生のリズムを
つかむことが、大切だということです。
どんなに頑張っても、自分を見失っては、
何にもなりません。それなら、肩の力を
抜いて、80%でやっていたほうが、持続性
もあるというものです・・・。
【人生を明るくするユーモア】
家内は、毎年、私の誕生日に、カードをくれる
のですが、昨年の、それには、「40%の妻より」
と文末に署名してありました。これは、私が
いつも妻のことを、「60%」と揶揄している
のを、向こうが先手を取って、20%引きに
してきたのです。
結婚当時は、父そっくりの、真面目気質の
家内でしたが、ついに40%を自負するように
なったかと、それを見た私は、うれしくなり
ました。なぜなら、家内が100%だった頃は、
それこそ、ケンカばかり。自分だけでなく、
こちらにも、100%を求めてくるので、どうしても
衝突が起きるのでした・・・。
がむしゃらに走らないことには、ゆとりだけ
でなく、人生にユーモアも出てこれます。
カードに込められた、家内の、こんなユーモア
ひとつで、私の気持ちは、パーッと明るく、
楽しくなるんです・・・。
人生には、時として、無我夢中に何かを
やらなければ、ならないこともあります。そんな
ときこそ、状況に応じたユーモアを、忘れな
いように、しましょう・・・。誰もが、思わず微笑んでしまう
ような、ジョークが、ひとつあるだけで、
場の空気は、まったく変わって来るからです。
当然、人と人とのコミュニケーションも
よくなり、人間関係もうまくいくようになります。
そんなとき、抱えていた心の負担は、
スーッと軽くなっていくのです・・・。
備考:この内容は、2006-4-1
著:医学博士 斎藤茂太
発行:PHP研究所
「2006年4月号」
より in your heart しました。