VOL.16 情熱
June.2005
ドラマ『エンジン』が終わった今、達成感は確かにある。同時に
”終わっちゃった感”もある。そう思えるものに参加できた自分は、ハッピーで
ラッキー。いろんな”サプライズ”があったり、”ふざけ”があったり、
”マジメ”があるような現場にしたいってずっと思っていたしね。
1話の完パケ(完成版)ができた時は、美術さんに頼んで、収録
スタジオの広い廊下に畳を10枚ぐらい敷いて、50インチのテレビを置いてもらった。
そこで、出演者もスタッフも、みんな一緒に出来上がったものを
観たかったから・・・。出演したるチビたちに、「人に見られてる」ってことを
感じて欲しかった。「弁当は俺が用意するから」って請け負って・・・。
結果、自分たちが関わってるものを、実際に共同作業している人たちと
一緒に観たことで、出て行く場所を意識できるようになったんじゃないか
な。みんなで作品を観たこと自体楽しかったし、やってよかったと思う。
ただ単に現場で思いついたことなんだけど、そういうことを思い付ける
現場だったんだよね。
マシンに乗って、サーキットを走って撮影するってことに関しては、
なかなか許可が下りないという苦労もあった。そういうとき思っていたのは、
人に対して”絶対”なんて言葉で実現を約束させるようなことは
したくないってこと。でも自分に対しては、やっぱり”絶対”っていう錠前を
かけておくべきだっと思うんだよね。そのカギがかかっていれば、あきらめそう
になったときも逃げられない。がむしゃらにがんばるしかないから・・・。
結局”サーキットライセンス”をもらって実際にすっ飛ばすことも
できたんだけど。撮影中、くっだらねぇスピンしちゃったこともある。
ベースに戻ったら、「さっき、次郎(役名)さん、スピンしましたよね。
大丈夫ですか?」って聞かれて、ミニターでチェックしたら、俺、笑ってた。
「やっちゃったー」って感じで・・・。「こんなときに笑ってますよ」って
スタッフは凍っていた・・・。
台本をベースに、どう見せていくのかスタッフと一緒に考えていく。
それぞれの意見に対して、お互いに共鳴したり、共感したりして進めていく
作業は、ほんとに楽しいんだよね。
今となっては笑い話だけど、最終回も本当は違ったものだった。最初の
構想では、次郎が最期、表彰台に上がることになってたの。”風の丘の
ホーム”のヤツらからシャンパンシャワー浴びるはずだった。
でも、、俺、次郎はぶざまなほうがいいんじゃないかって、監督と話したら、
ニタニタって笑ったあとに、「それマジで言ってる?」って。「俺も
表彰台、上げたくないんだよね」って言ってくれた。
結局、独走体制で1位を走って来たのに金属疲労でマシンがいかれてて・・・。
そこでもまた自分に”錠前”をカチッとかけた。がんばらない自分に
失望したくないから。「おりゃーつ!」って無理しちまったほうがいいと
思って・・・。最期、クソ重いマシンを歯食いしばって押しちまった・・・。
メカニックもドライバーも「ありえない・・・」って言ってたけどね。
富士スピードウェイって、最終コーナーの立ち上がりからチェッカー
くらいまでが、ゆるい上り坂なの・・・。押しながら「ちっきしょ~、ハメ
られた・・・」って思ってた・・・。
でも光栄だった。走りたくてたまらない人たちが自分の体、削って、
お金つくって、ようやく夢にたどり着くような場所なんだよ。
それをドラマの役だからって、いきなりサーキットを走れるんだもん。
職人しかいないような世界。なんの見返りも求めず、ただ好きでしょうが
なくてそこにいる。
ドラマをやるたびに、そんなすごい人たちに会える。
だから、自分は、そこに自分自身を投影して、その世界にまるごと
飛び込んで行きたくなるんだろうね、きっと・・・。

備考:この内容は、2011年9月30日発行、集英社
木村拓哉著「開放区2」より紹介しました。