「自白」 Gackt
(光文社・2003年9月・1300円)
ベートーベンからヤンキーへ、年齢不詳の彼は昔気質の苦労人
ガクッときた、とはある女性の意見。ダジャレではない。「イメージが壊れた」の意味。
Gackt、テレビのバラエティ番組やCMで見る範囲では、人工的に作られた独特のキャラ
クターがちょっとおもしろい人ではある。生身の人間というよりCGみたい。その彼の自伝的
エッセイが『自白』で、しかし、これを読むと彼がCGではなかったことがよくわかる。
「衝撃の新事実」も、いろいろ出てくる。週刊誌の見出し風に列挙すれば・・・。
♪ Gacktは幼少のみぎりから音楽の英才教育を受けていた!
トランペット奏者を父に持つ彼は3歳からピアノを習わされていた。(当時の先生は、どの
先生も僕を叩いた。腕や肩をパシッと強く叩かれる。「やる気あるの?」と、冷たい声が飛ぶ。
僕の反抗心も燃え上がる)。 まるでベートーベンの幼少時代だ。
☆ Gacktはヤンキーだった!
そんな彼がなぜか、中学・高校時代は学ラン兄ちゃんに変身。(上着は長ラン、セミ短、
短ラン、極短まで持っていた。(略)僕らの世代のヤンキーは、長ランも短ランも混ざっていて、
気分で長さを変えていた)。 ふうむ、ビーバップ・ハイスクールの時代か?
◆ Gacktはホストをやっていた。カジノのディーラーもやっていた!
10代の時には、京都で水商売の世界に入り、やがてカジノのディーラーとして大金を稼ぐ
ようになる。(たとえば、月15万円で生活している人がいたとする。(略)/ところが一晩寝て起きると、
いきなり100倍、月1500万円の収入になっていた・・・としたら?/物の価値は100分の一。
500円の定食は5円の感覚)。 おおお、バブルやなあ。
ほかにも海やバイクや車で10数回死にかけた(!)とか、マダガスカルで決闘をした(!!)
とか武勇伝が満載なのだが、もっとも大きな「衝撃の事実」はこれかもしれない。
▲ Gacktはバツイチだった!
結婚相手はカジノのディーラー時代に知り合った韓国籍の女性。(籍を入れたのは、彼女の
ほうから「籍を入れたい」と言ってきたからだった。僕は/「いいけど、僕は何も変わらない」
/と、言った)。しかし、結婚していた期間は短く、この経験を経て彼は、(僕はもう、結婚は
しない)し(子供も作らない)という独身主義者なのである。
Gackt、ありていにいえば、「昔気質の苦労人」なのだった。
ただし、こういった事実はすべて断片的に記されているだけで、きちんと構成されていない
のが本書の特徴。テンションも低くって「衝撃の事実」の衝撃性は薄めである。年齢不詳と言えば
聞こえはいいけど、出てくるアイテムの数々から見て、Gackt、以外に歳食っているのかも・・・?
四捨五入したら不惑とか。だいたい「7月4日生まれ。A型」とあるだけで、年齢を伏せて
いるのが怪しい・・・?
備考:この内容は、2005年7月30日発行 朝日新聞社 斎藤美奈子著
「誤読日記」より紹介しました。