「迷い」
攻撃的なゴルフで自分らしいプレースタイルを取り戻した宮里。
しかし2011年に入ってから、貫いてきた”責めのゴルフ”に迷いが生まれ
ていた。日本女子オープンを間近に控えた9月。アメリカ・アーカンソー
選手権。パー4のホール、第二打。ピンを狙う宮里の前に木が立ちはだかって
いた。木に当たらないよう、確実に刻んでいくか。ボールに
スピンをかけて、木をよけながらピンを狙うか。宮里は迷わず強気に攻める
ことを決めた。しかしボールは木に当たり、結局このホールはボギー。
宮里は波に乗れなかった。
そんな宮里とは対照的に、確実にスコアを上げている選手がいた。
ライバルのタニ・ツェンだ。攻めるときには果敢に攻める。リスクがあると
判断した場合は確実にパーを狙う。彼女は責めと守りを冷静に使い分け、
優勝を手にした。いっぽう強気の責めが裏目に出た宮里は22位タイ。
そのほかの試合でも裏目に出ることが多かった。
「確実に乗せてパーをキープする。チャンスがあればバーディーを狙う。
そういう考えを自分の中で持っているんですけど、やっぱり自分の
ゴルフスタイルは”アグレッシブ”なので、急に冷静にやっちゃうと
どうなるのかなっていう考えもあって、決め切れないんです」
果敢に攻めるか、安全に行くか。どうすれば迷わず決めることが
できるのか?悩む日々が続いた。そんな宮里に専属のメンタルコーチの
クリスチャン氏がある映像を見せてくれた。それはマスターズ優勝者の
ミケルソンのプレー。彼がパットを打った瞬間、グリーンに松の実が落ちる。
不運にもボールは松の実にあたり、コースを外してしまう。それでも
ミケルソンは動揺せず、その後も安定したプレーで優勝した。
「次のホールに向かう彼の姿。これこそゴルフの真髄なんだ。
予期せぬことが起きても集中力を切らさない。
それがゴルフには必要なんだ。」
結果を後悔せずに、受け入れること。それが迷いを振り切ることに
つながると、コーチは宮里に伝えようとした。たとえ間違った選択だった
としても、自信を持ってプレーすれば、いい結果につながる。今の宮里に
必要なのは決断を信じることなのだ・・・と。
「どんな選択でも、自信を持って打つこと」
この課題を胸に、宮里は日本女子オープンに挑んだ。
つづく
備考:この内容は、2012-2-23発行、NHKサービスセンター著「NHKアスリートの魂・
逆境を乗り越えた10人」より紹介しました。