Vol. 8 物語
September.2004
そういう仕事に携わっている人もいるから大きな声では言えないけど、
ドラマに関しても映画にしても、”情報源”ってほんとにいらないと思う。今、
情報があふれすぎてるじゃん。わかってい過ぎるのって、もったいない。
俺自身、映画や舞台を見るときは、情報なんて集めない。映画館や劇場
に着いたら、パンフレットは必ず買うよ。でも本編が始まる前にページを
開くのは抵抗ある。買ったとしても持ってるだけでいいの。
それで映画館を出たあとに寄ったメシ屋で見るのが大っ好き。「監督って、
こういう名前だったのか」とか、「この役やった人、あの映画にも出てたんだ
ね」
とか。そんなふうに楽しむ時間もまたいいじゃん。
だから今回『2046』も『ハウルの動く城』も、事前の情報に触れ
すぎるのはオススメしません。
『2046』は、撮影中、「どう解釈していいかわかんねー」って連続
だった。だから見てくれる人も、作品自体を体感してもらうしかないと
思っている。
ひとつのストーリーをつむぐために、フィクションを作り上げていく
過程には、すごい面白さがある。夢中になっているのは、いつもそこ
だから、この作品にも参加することができたのかもしれない。それがおも
しろいと思えたからこそ、あの現場にいることができた・・・。今思えば
だけどね。
「101匹ワンちゃん」『宇宙海賊キャプテンハーロック』『銀河鉄道
999」『トム・ソーヤーの冒険』『ニルスの不思議な旅』『釣りキチ
三平』六三四の剣』『キャプテン翼』『キュティーハニー』・・・。
ほんとにちっちゃいころは、動物が出てくる話がとにかく好きで。『みに
くいあひるの子』は、結末を知ったうえでの途中の経過も好きだった。
妙な安心感があったんだよね。
もう少し大きくなったらディズニー。『ピノキオ』や『ピーター・パン』
は妖精が出てくるタイミングがとても好きだった。いいときも悪い時も
出てくるじゃん。「妖精って、こういうもんなんだ・・・」って思ってた。
もう少しすると、その時の興味の方向によって自分を投影させる
キャラクターが変わっていった。剣道やってるときは・・・、釣りやってるときは・・・
っていうように。その頃から、”作品選び”はしてたかもね。そのとき
の自分を一番稼働させることができるキャラクターを探していたって
いうか。
今もドラマ、映画の企画書を渡されて、それを読んでいるときは、
そんな感じ。パッと見て、思わず「ワオ!」って叫んでしまうようなものも
ある。そういうときは、”前体重”でのぞんでいるから問題ないんだよね。
最初から作品自体のスケールにプレッシャーを感じてしまうこともある。
でも時間をかけて考えて、「やる!」ってなったからには、演じる人物に
自分を投影させるように持っていくよ。自分がドラマや映画っていう物語の
”家”を建てる、つまり つくり手のひとりになるために。そこで、「変わった釘の
打ち方するよね」とか「そういうとこで、その道具使うんだ・・・」って観る
人に、おもしろがってもらえたらいいなっていう・・・。
で、いろんなことを感じて味わってほしい。できればそのときに、
やっぱり笑わせたいんだよね。感動して泣ける前って笑わない? 俺、あれが
好き。その種類の”泣き”も”笑い”も、すっごく好きなんだよね。いつ
もそれをどこかで目指している。
俺、まだまだだからね。期待されることもあって、それはすごくうれしいし、
ほんとにありがたいことだけど、ほんとにこれからだと思っている。
今できるのは、自分がやることを楽しむこと。それがすべてかな。
あとは、もう細かいことは考えないでストーリーの世界に身をゆだねる
だけ・・・。
それしかないよね・・・。
備考:この内容は、2011-9-30発行、集英社 木村拓哉著「開放区 2」
より紹介しました。