この記事は、2010年9月4日発行の、実業之日本社 「女子バレーイヤーブック 2010-2011」よりの紹介です。
「経験を糧に」
眞鍋監督はこの春、新戦力を抜擢した。
主力の危機感を煽り、
新しい力を吹き込むことによって
チームの活性化を図る。
選ばれし新たな息吹の一人、
迫田さおりが全日本の印象を語る。
文/宮崎恵理
新・ジャンプ娘
2009/2010シーズンV/プレミアリーグ、
前人未到の3連覇を果たした東レアローズ
で、1レグ後半から木村沙織の体角に入る
と、結局、決勝戦までその座を確保し続け
たのが、迫田さおりである。175cmと決して
長身ではないが、最高到達点は305cm。
184cmの木村沙織の最高到達点が298cmと
いう数字からわかる通り、卓越したジャンプ力を
活かしバックアップも決める。
その迫田が、今年、初めて全日本に選出
され、ヨーロッパ遠征でも、ロシア、
アメリカ相手に先発した。
小学校3年でバレーボールを始めたが、とくに
バレーボール強豪校に通っていたわけ
ではない。
「本当は、中学に進学するときには”ほかの
部活をやろうかな”と考えていたのに、
両親に”せっかく始めたことだから、もう
少し続けなさい”と言われ、バレー部に入り
ました。中学時代はとても練習が厳しかった
ので、高校はあえてバレーボール強豪校に
行かなかったんです。”高校生活の合間に
バレーが出来ればいい”という感覚でした。」
ところが、国体に選ばれ活躍すると、
それが九州文化学園の監督の目に留まり、
東レアローズに推薦され、入団する運びと
なった。
「当時は東レアローズのことなど、まったく
よく知らない状態。(荒木)絵里香さんや
(木村)沙織さんなどすごい選手がいる
ということさえ、知りませんでした。」
その状態から、わずか5年で全日本へ。
いったいどんな努力があったのだろうか?
「東レに入ったら、ものすごく練習が厳しくて。
毎日、もうダメかもしれない、明日
は辞めようか、と考えていたんです。でも、
先輩たちが『がんばれ!がんばれ!』って
すごく言ってくれるんですよ。それを聞くと、
ああもうちょっと頑張ろうと言う気持ちに
なって、気づいたらここまで来ていました」
こうして迫田は、東レが誇るチームワーク
の中で育てられてきた。
初めて知る世界の壁
初選出された全日本メンバーとしてヨー
ロッパ遠征へ。海外のチームと対戦する
のも初体験である。
「東レに入団した時以上にビビりました。
海外の選手と言うのは、予想以上に高くて、
早くて、強い。ブロックも固くて、まともに
打てばそのままシャットアウトされてしまう。
日本なら決まるバックアタックも通用
しなかった」
初めてぶつかる世界の壁だ。
「何もできなかったと言うのが正直なとこ
ろですが、それでも、沙織さんがやって
いるようなブロックアウトだとか、フェイント、
リバウンドをあえてとる、といった
打撃バリエーションをしっかり身に付ければ、
対抗できるのではないかとも思いました」
遠征には荒木や木村など、東レの先輩で
あり全日本の主力メンバーは遠征には参加
していない。孤軍奮闘することのむずかしさと
ともに、そういった中でも自分なりに工夫
することの大切さを、実践の中で経験した
のだった。
「東レでもそうなのですが、私はサーブ
レシーブに参加していないんです。つまり、
本当に攻撃専門の選手。それなのに、得点
出来なければ、コートにいる意味がない」
帰国後は全日本合宿で、積極的にサーブ
レシーブの練習にも参加している。ワールド
グランプリ、そして世界選手権と大きな
目標も、目前に迫っている。
「全日本の中でチャンスが何度もある
わけではないと思っています。だからこそ、
もしコートに立つ機会を与えられたら、
出来る限り結果を残したい。自分が入ることで
チームの流れを変えることができれば・・・。
それが自分の役割だと思っています。でも、
とにかく思いっきりやるだけです!」
全日本での試練は、迫田にとっての巣立ち。
経験を糧に、やがて本物のエースへと
成長するための、大切なプロセスである。