モニターで映像を確認すると、加瀬紀夫は納得してうなずいた。満足のいく出来栄えだ。無駄
なことは撮影していないし、何より迫力がある。
・・・何しろ本物の事故だからな。
紀夫がビデオカメラに凝りだしたのは、去年、大学に入ってからだ。入学祝に
カメラをもらったのだ。最初は片っ端から撮影して喜んでいるだけだったが、そのうちに自分で
作品を作ってみたくなった。と言ってもドラマを作るのは大変だ。彼がこのところ集中して
いるのは、ちょっとした事件があればすぐに駆けつけて撮影し、自分なりに編集してニュース
番組を作ることだった。テロップも入れてみたりする。
ただ問題は、事件と呼べるものが周囲に多く転がっているわけではないことだ。それで
どうしても、紅葉の季節が来たとか、初雪が降ったとかいうニュースばかりになってしまう。
その点が不満だった。
そんなとき、今夜の事故だ。ガシャーンというものすごい音を聞いて窓を開けると、
ちょっと先の交差点で車がぶつかっていた。そこで紀夫は意気揚々と、ビデオカメラを持って
駆けつけたのだった。したがってパトカーや救急車が駆けつけるところや、事故車からケガ人を
救出するところまで撮影できたのだ。
・・・贅沢を言えば、事故の瞬間を取りたかったな。
まあ無理だけど、とモニターを見ながら紀夫は悦に入った。画面には信号機や周囲の
様子が映っている。意識的に現場以外の場面も撮影したのだ。
・・・さてと、これをどう編集するかな。
その方法について、紀夫は考えを巡らせた。
つづく