選挙と音楽と

08年に秋葉原事件が起こった直後の、TBS「時事放談」で自民党の加藤紘一氏がこのヒトを糾弾していました。確かこんなことだったような気がします。

「諮問会議には労働者派遣法を推進し、ワーキングプア(働く貧困層)をつくった張本人がまだいる。その人が東京・秋葉原の無差別殺傷事件の原因を作った」

中公新書の紹介文もこのような批判をある程度踏まえています。

「「市場競争を煽って格差を拡大し、日本の伝統を破壊した」「世界金融危機を引き起こした元凶」――現在の日本において、新自由主義ほど批判される経済思想はない。だが、その見方は本当に正しいのだろうか。本書では、「小泉改革」や世界金融危機の再検討、さらに日本経済史を通じて、その誤解をとく。そのうえで、新自由主義の思想に基づき、社会保障改革から震災復興まで、日本経済再生のビジョンを示す。」


10月に、私が筑波大学大学院で講義を受けたこともある、祝迫得夫氏の書評が日経に掲載されていました。大変読み応えのある新書でしたが、祝迫氏が言っているとおり、結局は「政治」の問題なんでしょうと私も感じました。


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報道では、野田新政権は新たに「国家戦略会議」を設け、経済の基本政策についての議論を行うとされており、それは自民党政権下での経済財政諮問会議も参考にしたものになるという。

 著者は、安倍・福田内閣でその諮問会議の民間委員を務め、様々な政策提言の作成に直接関わってきた。竹中大臣が経済政策全般を主導した小泉内閣時代と異なり、この時期の経済財政諮問会議とその下にあった専門調査会では、日本を代表する経済学者が、日本経済が直面する様々な問題について具体的な政策提言を行っていた。その成果が現在ほとんど顧みられていないのは残念な限りである。

 本書での具体的な政策評価・提言も、当時の諮問会議と非常に近い路線・内容であり、若干詰め込み過ぎの感はあるが、経済学の主流派の分析にのっとった議論である。従って具体的な政策に関する議論、特に小泉改革の評価と、労働市場改革についての提言は、極めて説得力に富むものである。

 しかし、そのような政策提言が遂行されなかったのは、八代氏が言うように、新自由主義的だとみなされてしまったからなのだろうか?

 評者にはむしろ、それらはエコノミストにとって極めて常識的な正論であるように思え、それゆえ、かつて米の著名な経済学者、アラン・ブラインダーが唱えた「エコノミストの間で最も意見の一致がみられるとき、エコノミストの経済政策に与える影響力は最小になる」という法則を思い出す。

 この経済学版「マーフィーの法則」を打ち破るために、著者のように民主党の一部が忌み嫌う新自由主義を敢(あ)えて標榜することが、本当に正解なのだろうか。民主党政権下で日本の経済政策が迷走したのは確かだが、自民党政権の末期も、結局、諮問会議の成果をまったく活用しなかったという意味ではあまり違わない。

 評者自身は、問題の本質は本書で扱われている経済思想の範疇(はんちゅう)よりは、もっと政治に近いところにあると感じている。ブラインダーも結局、「必要なのは政治の改革である」と述べて自著を締め括(くく)っている。実はそれが一番難しいということだろう。

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