選挙と音楽と
単行本は図書館から借りて読んだのですが、とても印象に残っていました。文庫本がこのたび角川書店から刊行されたので、思わず購入してしまいました。

「にっぽんのメロディー」や「NHK特集」などのナレーションで有名なNHKの中西龍アナを描いた作品です。(NHK退職後の「鬼平犯科帳」も有名ですね) まさに味わいのある声でした。にっぽんメロディーは、リアルタイムで聞いていましたが、いい番組でしたね。懐メロのレバートリーも増えました。


「遊郭に入り浸り、地回りと揉め、生放送に遅刻する。NHK屈指のアナウンサーであり、独自の語りで広くその名を知られた男・中西龍は、おのれの業と因果に翻弄され、熊本、鹿児島、旭川、富山、名古屋、東京、大阪と、地方局を流転した。母恋いの激情に身を明け渡した男の、常識破りの行状の数々。芸の鬼となった魂に、安住の地はあるのか――。語りを、俳句を、母を愛した昭和の男の、一途な生涯を描く。解説・久米宏(談) 」


08年に単行本が出たとき、著者の三田氏が朝日新聞で紹介されています。


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 「中西節」と呼ばれた独特のゆったりとした語り口で知られた元NHKアナウンサーの中西龍(りょう)。NHKで歌謡番組を手がけていた三田完(みたかん)さんにとって、「個性を貫いた語りの技術は20代のころからのあこがれ。まぶしいような見上げる先輩でした」。今年で没後10年。綿密な取材をもとに哀切さと詩情に満ちたフィクションにしたてた。

 NHKラジオの「にっぽんのメロディー」などでおなじみのしんみりした語り口とは裏腹に、破天荒な人生だった。初任地の熊本放送局に新橋芸者だった妻を伴って現れ、遊郭に入り浸り、土地土地の女性と情を通わせ、地方局を転々とした。小説のなかで、富山の僧侶が語りかけた言葉に、中西の人生が集約されている。「人間は生きているうちに、たっぷり業を積んでおかんと」

 三田さんは3年前から当時を知る関係者を訪ね歩き、中西の業に向き合ってきた。「皆さん、はた迷惑だけど懐かしくてかけがえのない思い出をもっている。平成の時代に失われつつあるものを書きとどめておきたかった」。執筆を終え、「人の業を書いたせいで、思った以上に魂を吸い取られた」と笑う。

 NHKを退局後、番組制作会社で音楽番組などを手がけながら、執筆活動を続ける。昭和初期の「句会」を描いた『俳風三麗花』は07年7月の直木賞を最後まで争った。演出家・作家の久世光彦にあこがれて小説を書き始め、作詞家・作家の阿久悠の仕事を手伝ってきたことが、「昭和」を濃厚に感じさせる作風を形作っている。

 最近「昭和」を強く感じたのは、黒人演歌歌手のジェロさんに会った時。「抑揚のない低い声を久しぶりに聞いた。いまの日本にはない、中西さんの語りの世界を感じました

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