筆者は声楽については素人だが、声学についてはプロだ。言語学の一分野である音声学(正確には調音音声学と言い、世界の諸言語において、主に口腔内のどの音声器官とどの音声器官をどのように調音するとどのような音声になるかを分析・分類する学問分野)などを25年も大学で教えてきたのだから。

 

この音声学の専門知識と経験が自身の老後の音楽的な発声にも大きく役立っている。日本語なら日本語に、英語なら英語に、他のポピュラーな外国語ならその言語にどのような音声があるかについて精通しているからだ。また、基本的にそれらの言語音を明瞭・明晰に発音する調音習慣が、ある程度、身についているからだ。

 

声は日ごろ腹の底から出さないと、沈んで響かなくなる。歌声は特にそうだ。ところが、日常生活では、カラオケボックス以外では、大声で歌うことは許されない。筆者の場合も、自宅に簡易防音室を導入するまでは、家族や近所に遠慮しつつ、ぼそぼそと歌っていた。これではフラストレーションがたまる。

 

ここ数年、コロナの蔓延が常態化して、気密性の高いカラオケボックスには行きづらくなり、防音室の導入は必至であった。かといって、本格的なレコーディングを行うわけではない(一応、筆者は、終身の名誉教授にもなっているため、老後も社会的なアイデンティティーは保たれており、曲のアップは単なる健康維持の一環であるに過ぎない。)ので、音楽スタジオのような完全な防音室は不要であった。健康寿命を考えると、しっかり歌えるのはあと数年かもしれない。不要になったとき、簡単に撤去できるという点も、簡易防音室の利点であった。

 

そんなわけで、筆者が購入したのは、「サイレントBOX音守」(東亜無線電機)という段ボールで出来た商品だった。送られてきた当初は、段ボール製ということで耐久性に不安があったが、慣れると気にならなくなった。本体のみで約20dBの軽減(検体から2mの距離)との触れ込みだが、設置している部屋も、もともと窓やカーテンや雨戸を閉め切った状態で使用しているため、合わせて、少なくとも近所迷惑にはならない程度の発声にはなっているものと推定される。(次回に続く)

 

例によって、放歌三昧のユーチューブアップ曲のうち、 視聴数の上位3曲のみ、下に貼り付けた。