私たちは満開の桜を愛でるためにワンコを連れて近郊の自然公園まで足を運んだ。丘の上の駐車場は空いていたため麓のパーキングから長い階段を上がる混雑時のルートをとらなくて済んだ。公園を大回りして、さらなる丘の頂に続く階段に差し掛かると、このところワンコの脚の状態はよかったため、「少し登ってみようか」と階段に足を置くと、ワンコが珍しく登ろうとせず、平坦ルートに変えた。階段が苦手になったようだ。

 

今週も中東情勢から目が離せない。イエメンに台頭する親イランのフーシ派はイスラエルをミサイル攻撃し、イラン戦争に参戦を表明した。サウジアラビアやUAEも反撃を示唆している。サウジアラビアの東西パイプラインを使って紅海に出るホルムズ海峡の代替ルートで運ばれた原油が日本に到着しているが、今後は、バブエルマンデブ海峡の封鎖も考えられる。フーシ派の報道官は海峡封鎖や通航料徴収をほのめかしている。

 

中東からの原油輸送のさらなる迂回ルートはスエズ運河からアフリカを大回りするものしかなく、到着までには100日をみておく必要がある。政府は油質が中東原油に近い中央アジアのカザフスタンとアゼルバイジャンで生産する原油の購入も考えている。ロシア原油の獲得まで視野に入れているようだ。もっとも、ロシアの戦争資金源拡大を防止するために、ウクライナは必死で同国の主要な石油積み出し港を攻撃している。

 

パキスタン船籍の多数のタンカーに続いて、タイの船も1隻ホルムズ海峡を通過できた。タイは自国のタンカーによるホルムズ海峡の安全通航について28日にイランと合意していた。貨物船の被害も受けたせいか、通航料の支払いはなかったようだ。イランは親日国で交渉すれば日本も安全な海峡通過はできるかもしれないが、アメリカだけではなく経済大国としてアジアや欧州を含めた国際社会全体を考えて動く必要がある。

 

これまでにホルムズ海峡の通過を許可されたのは、中国、ロシア、パキスタン、インド、イラク、フィリピン、タイ、トルコ、フランス、マレーシアである。タイの交渉ではアラグチ外相が窓口として機能したのが確認できた。ただイランが親日国と言っても日本にも米軍基地があり立場は微妙だ。日本政府主導でアジア共同備蓄という方策もアリである。OPECプラスの8か国はホルムズ海峡再開に備えて増産を検討している。

 

3日にはホルムズ海峡の通航料の詳細が判明した。イランは海峡通過を求める友好国の石油タンカーに対して1バレル1ドル程度の通航料(1隻あたり約3億円)を徴収している。友好度に応じて5段階に分け料金を変動させているようだ。タンカーの運航会社は指定の仲介業者に通過を希望する船舶情報を伝え、許可コードと航路の指示を受ける必要がある。そんななか、通航料を免除されているマレーシアのような国もある。

 

商船三井がオマーンの海運グループと共同保有するパナマ船籍のLNG船が封鎖後初めてホルムズ海峡を通過したとのロイター報道が3日に入った。日本政府は関与を否定しており、船主がイランやオマーンと交渉して巨額の通航料を払った可能性もあるが、2日正午から3日にかけてオマーンよりのルートを密かに進んだ模様だ。4日には商船三井のインド関連会社の所有するインド船籍のLPG船も通過できたようである。

 

3日にはペルシャ湾に取り残されていた45隻(先の2隻を含む)の日本関連の船舶の内訳もJNNの取材で判明した。石油タンカーが12隻、ナフサ等の石油精製品や化学製品を載せたタンカーが12隻、LNGを積んだタンカーが6隻で、エネルギー関連の船が7割を占める。石油タンカーに積まれている原油の総積載量は約2400万バレルで、日本の10日分の消費量に相当する。他に輸出向けの自動車運搬船も9隻いるらしい。

 

トランプ大統領は「ホルムズ海峡が開放されなければ、カーグ島にある石油施設を爆破する」と言っていたが、「ホルムズ海峡が閉鎖されたままでも作戦を終了する用意がある」と言い出した。「今後の海峡の通航については関係各国で調整しろ」と言っているようにも聞こえる。トランプはNATOからも脱退をほのめかしている。アメリカが手を引いてもイスラエルがイラン攻撃をやめない限り中東の混乱は続く可能性が高い。

 

地上作戦延期の期限も迫るなか31日には「後2、3週間で任務を完了する」というトランプ発言がみられた。イランのペゼシュキアン大統領も「戦争終結の用意ある」と発言し再侵略防止の保証を求めている。地上侵攻となれば米軍兵の3%死亡の試算もある。イラン攻撃に積極的だったペグセス国防長官と最初からこの戦争に反対だったバンス副大統領のどちらが今後大統領に影響力を発揮できるかで停戦・終戦の流れが決まる。

 

トランプ大統領は、国内のガソリン価格急騰を受けてか、2日に20分弱の演説を行った。内容は戦果の誇示と攻撃の正当化が中心で、イランがどれだけ危険な国であったかを強調し、非協力的な欧州諸国への愚痴も忘れなかった。イランの反政府デモの犠牲者数を4万5千人と過大に見積もっていた。停戦や終戦に関する具体的な情報はなく、皮肉にもNY原油先物価格は演説前の1バレル98ドルから104ドルに跳ね上がった。

 

なぜ中東原油に依存していない米国で原油価格が上がるのか?素朴な疑問に次のネット記事が答える。「米国は世界一の産油国だが、原油価格は国内で決まるわけではなく、石油企業によって設定されるわけでもない。米国は国際市場に石油を輸出しており、原油価格は石油を競り合うトレーダーによって決定される。」(「世界一の産油国である米国で、なぜガソリン価格が急騰しているのか?」、Forbes JAPAN、4/3、11:00配信)

 

記事は次のように続く。「世界の石油の2割近くが通過するホルムズ海峡ほど重要な場所はない。その石油輸送の要衝が危機にさらされると、トレーダーは直ちにそのリスクを価格に織り込む。 こうしたことから、米国の国内情勢に何も変化がなくても、米テキサス産の原油が突然値上がりするのだ。」(同上)筆者がアメリカ国民なら、トランプ大統領に、多額の補助金を投じて米国内の油価を落ち着かせて欲しいと考える。

 

トランプ大統領が演説の中で「イランを彼らにふさわしい石器時代に戻す」と脅迫したことを受け、イラン軍も米国とイスラエルに対する「壊滅的な攻撃」を表明し、「全能の神への信頼のもと、この戦争はお前たちが屈辱と恥辱、そして永遠かつ確実な後悔と屈従を味わうまで続く」と吠えた。2日には米国が仲介国を通じて48時間の停戦を申し出たようだが、トランプ発言に不信感を募らせているイランは提案を拒否した。

 

イラン革命防衛隊は2日にバーレーンにある米企業のアマゾンとオラクルのデータ施設を攻撃した。イランは31日にイラン国民の追跡や暗殺に主導的な役割を果たした18の米企業を標的にすると通告していた。1. SISCO 2. HP 3.インテル4.オラクル5.マイクロソフト6.アップル7.グーグル8.メタ9. IBM 10.デル11.パランティア12. Nvidia 13. GP.モルガン14.テスラ15. GE 16.スパイアソリューション 17. G42 18.ボーイング

 

4日には米・イランの双方がイラン上空で撃墜されたアメリカのF15戦闘機に乗っていた行方不明の乗員1名を懸命に捜索しているニュースを時事通信が伝えた。一帯は山脈と渓谷の険しい地形で、乗員は生存の可能性が高い。もしイラン側の捕虜となれば人質として取引に利用される恐れがある。アメリカ側は特殊部隊を動員しているらしい。イラン当局は生け捕りを条件に約1200万円の報奨金を市民に提示しているようだ。追記:ロイター報道によれば、アメリカ側が5日未明にこの乗員を救出できたようだ。

 

以上、中東情勢に関する今週の主なニュースを拾った。NHKやテレビ朝日を始めとするテレビの報道番組やインターネットの記事を自分なりに小刻みにまとめただけである。同じテーマの記事が増えてくると、過去の段落にまとめることがあるため、必ずしも全ての段落が時間の軸に沿って整理されているわけではない。引退した年金生活者は1週間の報道を追う時間が十分にあるため、こうした記述はそれなりに意味があろう。

 

別件だが中国から日本に関する気になる報道が飛び込んで来た。1日の「中央日報」のインターネット記事によれば、「先月30日付の『解放軍報』[中国人民解放軍機関紙]は、日本は驚くほど多くの核物質を保有していて核兵器製造技術も持つと主張した。具体的に2024年末までに44.4トンのプルトニウムが分離され、これは約5500個の核弾頭を作るのに十分な量だと、同紙は明らかにした。」日本政府はどう考えるのか。

 

記事は次のように続く。「[同紙は]日本が核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという《非核三原則》の制約から完全に抜け出す場合、きわめて短い期間内に事実上の核武装国家になると警告した。」日本も、イランのように核兵器に転用可能な大量の核燃料を蓄えているとみなされて、イスラエルのように過度に脅威を感じた周辺国から非難されて先制攻撃を受けたりする事態になれば、目もあてられない。恐ろしいことだ。

 

先週の王将戦七番勝負に続いて、29日に指された棋王戦五番勝負の第5局でも、藤井聡太棋王(竜王、名人、王位、棋聖、王将)が増田康宏八段を破り六冠を堅守した。王将戦でも1勝3敗、棋王戦でも1勝2敗のカド番からのそれぞれ3連勝と2連勝で、藤井棋王は土壇場での勝負強さを存分に発揮した。AI世代の一番のライバルは今のところ同い年の伊藤匠二冠だけか。このようにして棋界でも世代交代が進んで行くのだろう。

 

MLBでは昨年度ワールド・シリーズ制覇のドジャースが、大谷が打撃不振気味のなか、Dバックスとの開幕3連戦に3連勝し、幸先の良いスタートを切った。プロ野球のペナントレースでも昨年度日本一のソフトバンクが、モイネロを欠くなか日本ハムとの開幕3連戦に3連勝し、勝負強さを見せた。31日には、その開幕3連敗の日本ハムの先発の細野がロッテ相手に91人目のノーヒット・ノーランを達成した。おめでとう。

 

そのほか、ア・リーグでは東地区のヤンキースとブルージェイズ、ナ・リーグでは東地区のマーリンズと中地区のブリュワーズ、セ・リーグでは広島とヤクルトが3連勝している。広島×中日の第3戦では、抑えから先発に転向した広島の栗林が、中日エースの高橋宏斗との投げ合いで、1安打完封劇を演じた。相手が変われば勝敗は未知数だが、開幕3連勝のチームにはとりあえず現時点での勢いと仕上がりのよさを感じる。

 

MLBでは開幕4連勝のチームは早くもドジャースも含めていなくなった。ガーディアンズとの第1戦では、先発の佐々木は4回1失点と好投したが、8回裏まで打線が沈黙し、ドジャースは2-4で敗れた。終盤の逆転劇を見逃す機会も少なくないが、精神衛生上、応援チームの負け試合は観ないようにしている。ゲームの流れが悪ければ、途中でテレビを消す。プロ野球ではソフトバンクとヤクルトが開幕5連勝まで勝ち進んだ。

 

大谷の今季初先発となるガーディアンズとの第2戦では、雨の降りしきるなか、ドジャースは4-1で勝利した。大谷は6回無失点6奪三振の上々の出来で勝ち投手となった。ド軍の攻撃では、4回裏にパヘスの適時打で1点を先制し、6回裏にはマンシーのソロで1点を追加し、8回裏にはT.ヘルナンデスとパヘスのタイムリーで2点をとる。9回表にはロッキオの適時打で1点を返されるが、相手の攻撃はそこまでであった。

 

開幕7戦目でようやく大谷の第1号HRが飛び出した。4日のナショナルズ戦で、1番DHの大谷は、3点を追う3回の第2打席で元巨人のマイコラスから同点3ランを放った。その後は、3回ベッツの2ラン、4回パヘスの2ラン、5回フリーマンの2ラン、7回タッカーのソロとド軍のホームラン祭で、ドジャースが13-6で大勝した。深夜から早朝の試合でリアルタイムでは観ていないが、録画分で運動時に改めて鑑賞した。

 

パ・リーグでは打線の活発なソフトバンクの勢いが止まらない。楽天との第2戦では、SBは3回表に柳田の2ラン、6回表に今宮の2点タイムリーと近藤の2ランが飛び出した。打撃だけなら日本ハムの開幕8試合で20本もすごいが、ソフトバンクには5連勝と早くも開幕ダッシュの勢いが感じられる。やはり、昨年の日本一チームは強い。ワールド・シリーズ制覇のドジャースもそうだが、強い球団は応援のしがいがある。

 

29日に行われた高校野球の準決勝では、第1試合の智弁学園×中京大中京戦では智弁学園が2-1で逆転勝ちを収めた。第2試合の大阪桐蔭×専大松戸では大阪桐蔭が3-2で接戦を制した。31日の決勝戦では、桐蔭は序盤に3点を先取するが、智弁は4回裏に2点を返し6回裏に4番逢坂のソロで追いつくも、7回裏にエース杉本の投球が乱れ、桐蔭に4点を献上する。そのまま大阪桐蔭が4年ぶり5度目のセンバツ優勝を決めた。

 

サッカー日本代表(FIFAランク18位)は31日の国際親善試合でイングランド(同4位)に1-0で初勝利を上げた。日本は前半23分、三苫のカウンターから始まるゴールで先制し、その後は、イングランドの猛攻をかわして、無失点を死守した。アジア勢初の歴史的な快挙で、昨年10月のブラジル(同6位)戦に続く大金星である。その調子でワールドカップも勝ち抜いて欲しい。否が応にも期待は高まる。がんばれ日本!

 

今週の室内ランは先週に引き続き60分(L4通し)×2回に終わった。智弁学園と大阪桐蔭の決勝戦が12時半からの放送だったので、火曜日に予定していた1回目の運動は午後からに切り替えた。スポーツ観戦しながらだと、選手の頑張りが運動する視聴者にも粘りを与える気がする。ただ、その日の運動を午後に回したおかげで、昼食(ニンニクたっぷりのスタミナパスタ)直後の運動になり、身体は重くなり、きつかった。

 

今週の紹介映画は『昼下がりの情事』(1957)の第3回である。探偵の父親と依頼人との会話をこっそり聞いていた娘は、依頼人が間男を殺しかねないとホテルに先回りする。父親の調査ファイルで写真を見て淡い恋心を抱いたこともあり、彼女は浮気男に知らせに行く。娘は差し迫った危険を彼に伝えることに成功する。彼女は依頼人の前で夫人の代役を演じて事なきを得るが、色男は娘に興味をもち、彼女の気を引こうとする。

 

場面は変わり、友人のミシェルの運転する車からアリアンヌが降りてくる。彼女は自宅前ですっかり上機嫌のまま、あの時の曲を口ずさんでいる。「そのハミングやめてよ。最低の曲だ。ひと言も返事をしないし。それに変な帽子」彼女はベール付の帽子を返すのを忘れたようだ。「帽子?」彼女はベールを下げる。「大丈夫か?ミシェルだよ。友達だ」「おやすみなさい」彼女はまだ夢見ごこちのまま、自宅のある建物内に入る。

 

娘が階段をあがると、あの時の人騒がせな依頼人が自宅兼探偵事務所から出てくるのに気付いて、1階下の踊り場にとどまる。彼は去り際に父親に話している。「家内に話したら大笑いするだろう」父親も自宅前の踊り場に顔を出して言う。「この商売、もう長いんですがね、正確さが身上なんです」「ホテルも部屋も男も楽団も正しかった。女が違うだけ」「確かに?」「声も姿も全然違った」「すみません、料金はお返しします」

 

娘は黙って二人の話を聴いている。依頼人が降りてきそうな気配を感じて、彼女は慌ててベールを隠す。「80%は正確、間違いの20%分を」「結構、あなたは優秀な探偵だ」「どうも」「ただ早まってはいかん」父親は室内に入る。依頼人の笑い声が響く。娘はとっさに楽器で顔を隠し気味にして階段をあがる。彼女は途中で降りてくる依頼人とぶつかる。「失礼」彼は、階段を下りながら、不思議そうに彼女の後姿を見ている。

 

依頼人は明らかに彼女に見覚えがある様子だ。彼は、最後に得心した様子で、「あんな若い娘が不倫をして」とでも言いたげに、笑いながら降りて行く。自宅前の踊り場に着くと、娘は、生きた心地がせずに、しばらく下を見下ろしている。そして、彼がいなくなったのを確かめてから、彼女は一旦、自宅に入る。娘はまたすぐに踊り場に出て、あの時の余韻を楽しみながら、ドアの外に置いておいた楽器をかかえて室内に戻る。

 

散水車の放水でびしょ濡れでも抱き合ったままの二人の映像がまた流れる。翌朝、父親は娘に朝の挨拶をする。「おはよう」彼女の居室は半開きで、チェロを弾いているのが見える。「朝ごはんはテーブルの上よ」「ハイドンの98番?」「88番」「88番、最近ぼけたらしい」父親は朝食に手をつける。よく見ると、娘はこっそり譜面の上にフラナガンのファイルを置いて盗み見ている。新聞記事には《フラナガン、離婚訴訟》とある。

 

彼女が次をめくると、日本の新聞の切り抜きのようなフラナガン関連の記事が目にとまる。写真には、五右衛門風呂に入っているフラナガンと日本人らしき6人の着物姿の女性が彼の上半身を念入りに洗い流している様子が写っている。しかし、日本人から見ると、何とも珍妙な日本語の見出しである。《新聞王ケーン死す/世界FRANK FLANNAGAN設者/大衆數萬の哀悼裡にねむる!》記事自体は切れていて読み取れない。

 

さらに次をめくると、彼の大きなポートレート写真が現れる。彼女がハンサムな彼の写真を見て興奮したのか、チェロの音程が外れる。それを聴いて、朝食中の父親は顔をしかめる。次は大寺院前で鳩と戯れるフラナガンと女性の写真である。ベニスで舟に乗る彼と女性の姿を写した写真もある。横には女性の顔写真と氏名。フランチェスカ・デル・コルソとある。下には《フラナガンの部屋で自殺未遂》のコメントが目につく。

 

ここで、また、感情をかき乱された娘は、思い切り音程を外す。父親はこれ以上聴いていられないという渋い顔をして、立ち上がり、鞄のなかの探偵の七つ道具を確認して、娘の元にかけ寄る。「行ってくるよ」彼女は慌てて立ち上がり、譜面台を見られないように、自ら父親に近づく。「お出かけ?」「ハイドンの88番は全然さえないな」そう言って、父親が譜面台に近づいてきたため、彼女は体を張って邪魔をする。「そうね」

 

「夜、練習か?」「ええ」「ミシェルと一緒?」「多分ね」「いい青年だな」「いつもそう言う」「家庭も立派だ。父親と叔父2人は政治家、母親は音楽家、お祖父さんは仏領アフリカで宣教師。1822年以来、スキャンダルなし」「彼のことを調べたの?」「一人娘に対する義務だ」「親バカね」「もしパパが金持ちならダイヤを降るほど贈る。靴屋なら靴を直すが、私立探偵だ。綿密に調べてやるしかない」「パパ、大好きよ」「愛してるよ」

 

父親が出て行くと、娘はファイルを金庫にしまう。なぜか、娘が強く押すと金庫は鍵なしに開く。それから、彼女はフランクへの手紙の文面を考える。《フラナガン様、あなたの過去を検討した結果、お会いするのはやめます。たとえ昼下がりでも》《楽団をキャンセルなさいますように。あなた向きの女ではありません。あなたが興味を持たない女です》《フラナガン様、ゆうべは大失敗をしました。あなたは射殺されるべきでした》

 

彼女は最後に書いた分を封筒に入れて封をするが、フランクの抗しがたい魅力に屈したのか、他の反古とともに燃やしてしまう。場面が変わる。ホテル・リッツの大写し。娘はチェロを抱えてやってくる。周囲を気にしながら、彼女はホテルの中に入る。フラナガンのいる14号室の前で楽器のケースを開け、例のベール帽を取り出す。そうして、娘はノックをする。室内では彼が秘書に出す仕事の指示を録音整理している。

 

「7:ベニス市長に電報。運河整備のコストは8千7百万ドル。運河の水をくみ出し舗装するよう勧告する」彼はノックに答える。「どうぞ。8:英国のコーラ会社にキャッチフレーズ《1杯のコーラから》それでいい」娘が入る。「やあ。すぐ終わる。9:明日ニューヨークのホテルを予約。次の人に花束を。ビリングス嬢、デボート嬢、チャンドラー嬢、亭主が留守ならフラグスタッド夫人、オニール嬢、シャネル嬢、またあとで」

 

ここで、彼は録音を中断する。「ようこそ」「早く来たの。後で来られないと言いに」「要するに来られないと言いに来た」「本当は帽子を返しに」「飲みものを」「すぐ帰ります」「なぜ?」「ほかに約束があるの」「入ってくれないか」「結構です」「手伝って欲しいんだ」「何を?」「ここに座って。閉まらないんだ」ベッドの上には複数のトランクが置かれており、その内の1個のトランクの蓋が容量オーバーで大きく開いている。

 

「今夜、出発?」「11時だ」「いつも短い滞在?」「まあね。乗って」娘はトランクに乗っかる。「よそでは、だれが乗るの?」「それが問題。理想的な重さだ。去年、日本で失敗した。つぶれたんだ」「当然よ。6人の芸者が乗れば」「何だって?」「ご機嫌よう、お元気で」「1杯だけ、どう?食前酒」「デートなの」「同居人と?」「もっと若い遊び相手よ」「待った。同棲してる男のほかに、つきあってる男がいるわけか」「でもない」

 

「別に非難はしないよ。大賛成」「記録を見れば当然」「僕の?」「読んだわ」「どこで?」「資料室があるの」「どんな資料室?」「世界年鑑なみの資料よ」「それで僕のことを?」「事実や数字が何でも分かるの。世界の高い山、ポルトガルの人口、ニュージーランドの雨量」「僕のことは?」「あなたのはすごい。どしゃ降りよ」「君には戸惑う」「私に?」「君がわからない。もう少し時間があれば。座らない?」「帽子を返しに来たの」

 

「フロントに置けばよかったわ」「人のうわさになる」「じゃ、袋にでも入れて置いておけば」「危険だ。人が開ける」「名前を書いて」「よけい開ける」「じゃ、賢明だったわ」「そうだ」フランクは少しずつ彼女ににじり寄り、アリアンヌは窓際まで追いつめられている。彼は彼女の持っていた帽子と鞄をサイドテーブルに置く。そして、手袋をとるように求め、彼女もそれに応じる。結局、給仕人らが豪華な部屋食を運んで来る。

 

結局、いつもの4重奏者らも入って来る。結局、彼らは、楽団の演奏に合わせて、互いに身を寄せながら、踊っている。バイオリンが切ない旋律を奏でる。フランクはシャンパンを注ぐ。「今夜、出発でよかった」と彼女。「なぜ?」「後腐れがなくて」「面倒なことも危険もない」「全然ね」「とらわれると面倒だ。未練、涙、愁嘆場。飛行場の出会いと思えばいい」「健全だわ」「基本だ。短い逢瀬を楽しんで去る」「覚えておくわ」

 

「それが最高」「あなたはね」「みんな幸せ。傷つかない」「フランチェスカは?」「だれ?」「デル・コーソよ。ベニスで自殺」「あのタイプは真っ平ごめんだ。愚かで感傷的。僕が最初の男だった。女は初恋が忘れられない」「でしょうね。最初のハイヒールと同じ」「君は?最初の男はどう?」「ぼうっとしてる。少し飲みすぎたみたい」フランクは彼女の唇にキスをする。そのタイミングでバイオリンのロマンチックな演奏が入る。

 

楽団員が引き上げる。フロント係が14号室に電話をする。「フラナガンさん、もう10時です。お車が参りました」彼が答える。「荷物を頼む。すぐ行く」彼はアリアンヌの頭文字Aの付いた鞄を手にして尋ねる。「何の頭文字?アナ?」彼女は洗面台の鏡の前で髪を直している。「アナベラ?アグネス、アレクサンドラ、アントニア」彼女は笑って答える。「ノー」「アマンダ」「ノー」「アドルフ」「アドルフ?」「品切れなんだ」

 

「誓ってもいいわ。アドルフじゃない」「何の頭文字?」「アカの他人」「名前を隠すの?」「必要ないでしょ?飛行場の出会いよ」そのとき誰かがノックする。「どうぞ」ポーターが入る。「お荷物を」「中のと廊下のだ」「忘れものない?」と彼女。「ないよ」「帽子どうなさる?」「欲しい?」「結構」「僕には無用だ」「そうかしら」「スチュワーデスにあげたら?」「知り合いはない」「すぐに」彼らは二人揃ってホテル前に姿を見せる。

 

彼女のチェロまでポーターが運んで来る。「それは?」「廊下にありましたが」「人のだ」「失礼」彼女は自分の所持品だと言えずにいる。ホテルマンらがフランクを見送る。「どうぞ、お気をつけて」彼はチップを渡す。彼女も言う。「どうぞ、お気をつけて」「アガサ?アンジェラ?君はすてきだ。ひと晩じゃ残念」「うそつき。なしよ、未練、涙、愁嘆場は。これでいいのよ」「パリに来た時、また会える?」「多分、殺されなきゃね」

 

「カルティエが開いてたら何か贈るのに」「何も要らないわ。いえ1つ。いい?」彼女はフランクの背広の胸ポケットに差し込まれていた1輪の白い花をもらう。ホテルマンが言う。「10時15分です」「じゃ」彼は娘に別れの握手を求める。「さよなら」「さよなら、おヤセさん」彼は車に乗り込む。車が走り去るのを確認してから、彼女はチェロを持ち去るポーターに言う。「待って、わたしのよ」「これが?」「ええ」次回へ続く。

 

ワンコネタを挟もう。冒頭の自然公園散策の場面でも述べたように、このところ、幼時に神経を傷めた後脚の調子は良好で、脚を引きずるような動きは見られない。これまで上がれなくなっていた庭から石段を踏んでデッキに上がる動作もできるようになった。台所の換気扇のスイッチを切ると音に反応して離れた部屋から吠えながら廊下を一目散に走ってくるルーティンも戻って来た。気温の上昇も影響しているかもしれない。

 

電子楽譜ネタに移ろう。上原敏の「上海だより」(1938)と「南京だより」(1938)では、『歌謡曲大全集』の原譜の譜頭にテンポの目安を示す音楽記号の記載はなく、聴いた感覚に頼り、4分の2拍子の曲で、90に調整した。電子楽譜の演奏時間は前者では2:20強、後者では3:20強となった。前者では上海から母親に送る若い兵士の手紙は明るく元気にあふれるが、後者では南京で負傷兵となった青年のそれは愁いを帯びる。

 

当時は飄々としていて哀愁の漂う上原の曲が大好きで、両曲は軍歌だが当時の昭和歌謡には欠かせない名曲である。「妻恋道中」(1937)や「流転」(1937)や「裏町人生」(1937)と共に、研究員としてパリの国立図書館に通っていた頃、郷愁からよく口ずさんでいた曲である。同じ上原の「鴛鴦道中」(1938)、「いろは仁義」(1938)、「泣き笑いの人生」(1938)、「徳利の別れ」(1938)、「波止場気質」(1938)はアップ済だ。

 

神戸一郎の「十代の恋よさようなら」(1957)では、『歌謡曲大全集』の原譜の譜頭にはテンポの目安を示す音楽記号の記載はなかったので、聴いた感覚に頼り、一般的な演奏時間(3分前後)を想定しながら、4分の4拍子の曲で、90に調整した。原譜は完全譜で曲の構成面で大きな問題はなかった。神戸のデビュー曲だが、子どもの頃によく流れていたのか、耳に残っていて、口ずさめるほどメロディーの大半を覚えていた。

 

橋幸夫の「ゼッケンNo.1スタートだ」(1964)では、『歌謡曲全集』の原譜の譜頭には「サーフィン・リズム」の指示があり速めのテンポ(120以上)が予想されたが、他にテンポの目安を示す音楽記号の記載はなく、聴いた感覚に頼り、4分の4拍子の曲で、132に調整した。1番歌唱後の間奏部の主旋律に付くオブリガートの一部に8分音符のゴースト3連符が隠れていた。最終的な電子楽譜の演奏時間は2:45前後となった。

 

石原裕次郎の「男ながれ唄」(1966)では、『歌謡曲全集』の原譜の譜頭にテンポの目安を示す音楽記号の記載はなく、聴いた感覚に頼り、4分の4拍子の曲で、80に調整した。電子楽譜の演奏時間は3:20前後となった。また、北耕一の「東京キャラバン」(1966)でも、『歌謡曲全集』の原譜の譜頭にテンポの目安を示す音楽記号の記載はなく、聴いた感覚に頼り、120に調整した。電子楽譜の演奏時間は4分前後となった。

 

泉令子の「東京旅愁」(1966)では、『歌謡曲全集』の原譜の譜頭には「哀愁をこめて」の指示はあったが、他にテンポの目安を示す音楽記号の記載はなく、聴いた感覚に頼り、4分の4拍子の曲で、84に調整した。電子楽譜の演奏時間は4分弱になった。藤原秀行が曲を提供することが多く、時には水木かおるが詩を提供することもあるが、西田佐知子が女王として控えているこの領域にくい込むのは難しかったにちがいない。

 

バーブ佐竹の「東京子守唄」(1967)では、『歌謡曲全集』の原譜の譜頭にテンポの目安を示す音楽記号の記載はなく、聴いた感覚に頼り110に調整した。電子楽譜の演奏時間は4分前後となった。原譜にDSを加えた。また、小林旭の「俺が憎けりゃうらみなよ」(1972)でも、『歌謡曲全集』の原譜の譜頭にテンポの目安を示す音楽記号の記載はなく、聴いた感覚に頼り84に調整した。電子楽譜の演奏時間は3:20前後となった。

 

佐良直美の「華やかな孤独」(1972)では、『歌謡曲全集』の原譜の譜頭にはSlowの指示があったが、5小節目の歌唱頭からはin tempoの指示が入る。他にテンポの目安を示す音楽記号の記載はなく、2つのテンポを指定する必要があった。Slowについては、スコアメーカーのデフォルト値である60のままにして、in tempo以下の箇所については、聴いた感覚に頼り、84に調整した。電子楽譜の演奏時間は3:50前後になった。

 

和田アキ子の「夏の夜のサンバ」(1972)では、『歌謡曲全集』の原譜の譜頭にテンポの目安を示す音楽記号の記載はなく、聴いた感覚に頼り、4分の4拍子の曲で、100に調整した。電子楽譜の演奏時間は2:40前後となった。原美登利の「小麦色の少年」(1972)でも、『歌謡曲全集』の原譜の譜頭にテンポの目安を示す音楽記号の記載はなく、聴いた感覚に頼り、120に調整した。電子楽譜の演奏時間は3分半前後となった。

 

秋田県民謡の「秋田船方節」(年不詳)は、『日本民謡事典』(全音楽譜出版社2012)によれば、「土崎、本荘、船川、能代などの港町で遊里を中心に歌われたお座敷唄であり、船乗り家業の哀歓が滲んだ唄である。[中略]元は島根県の漁港で歌われていた《出雲節》を歌ったり覚えたりしている内に、何時の間にか秋田風に改まり、男鹿半島の船川では《船川節》となり、やがて《秋田船方節》に転化して定着した」(同書137頁)。

 

秋田県民謡の「姉コもさ」(成立年不詳)では、『日本民謡事典』(全音楽譜出版社2012)によれば、「唄の冒頭の歌詞から、《姉コもさ》と名付けられたが、なかなかロマンチックな題名で、女の恋心を甘く悲しく切々と訴え続けて、美しくムーディーに歌っている。[中略]陰旋律のこの唄は二上りの三味線に乗り、素朴で美しい節回しの中に哀調をたたえた静かな唄となっており、一般には祝ぎ唄として広まった」(同書141頁)。

 

秋田県民謡の「生保内節」(年不詳)では、『日本民謡事典』(全音楽譜出版社2012)によれば、「田沢湖町の生保内(おぼない)は、秋田領から南部領に至る街道の宿場町として栄えた所で、昔からこの地方の中心地であった。そのせいか秋田の民謡といえば、この生保内を発祥地とする唄が多い。昔は《生保内東風》(おぼねだし)と呼ばれ、三百年も歌い継がれている秋田民謡の中で最も古い盆踊り唄だった」(同書144頁)

 

秋田県民謡の「ドンパン節」(1953)では、『日本民謡事典』(全音楽譜出版社2012)によれば、「元唄といわれる《円満造甚句》は、明治年間も終わり頃、生保内地方の宿場に古くからあった《ドンサイ節》の囃し言葉が変化してできた民謡といわれる。[中略]戦後すぐ、芸者月の家の栄子が山の湯治場で聴き覚えて帰り、座敷唄に転用した」(同書148頁)それを1953年に角田正孝が《ドンパン節》の曲名でレコード化した。

 

秋田県民謡の「本荘追分」は、『日本民謡事典』(全音楽譜出版社2012)によれば、「信州追分宿の《追分節》が越後瞽女などにより越後方面から蝦夷松前方面に流入して行く途中で伝えられ、この港町に移植されて根を下ろしたものといわれている。北海道に移された《追分》が静かな舟唄調であるのに対して、この唄はおよそ追分節とも思えない程、明るく急テンポな三味線に乗る陽気なお座敷唄になっている」(同書152頁)。

 

来週から、リフレッシュ期間に入るため、勝手ながら、2週間ほど、ブログの更新とユーチューブの新規の曲のアップをお休みする。次回の新しい曲のアップは4月24日(金)、ブログの再開は26日(日)を予定している。過去に公開した曲のアコーディオン演奏のみのアップは休み期間中も実施する。「カラオケシリーズ」の不定期更新は未定である。日頃、ユーチューブやブログでご贔屓の方々には感謝を申し上げる。

 

 

例によって、歌三昧のアップ曲で、視聴数の多いものを3曲ほど貼り付けた。