雄輔は、気になるのか、私の短くなった髪をやたら掻き回す。
『ねぇ。変?』
『んなことねぇよ。
なんか新鮮だから。
それより、そのアシスタントの話し、どうなったんだ?』
『うん。それがね!』
私は、レストランもちゃんと辞められて、早速篠原さんのスタジオで働くことになったことを説明した。
『なんか、めちゃくちゃ大変そうだけど、なんかワクワクする。』
『なぁ。
その篠原さんって、どういう人なんだ?』
『ん?だから、昔からすごく好きだったカメラマンさんなんだけど・・』
『そういうんじゃなくて、いくつくらいの人?』
『う~ん。40歳くらいかなぁ・・・』
『結婚してんのか?』
『どうだろ・・・
聞いたことないけど、してるんじゃない?
なんで?』
『いや・・・
だって、可南ちゃん、篠原さんとずっと二人きりで仕事するわけだろ?
やっぱなんか気になるじゃん。』
『ふふふ・・・』
私は、なんかうれしくなった。
そういえば、モデルになる時もそうだった。
雄輔って、意外と心配性でヤキモチやきだ。
自分はさ、どんどんいろんなこと、挑戦したりするし
女友達とかとだって、平気で飲んだりしてるくせに。
そんな雄輔に、モヤモヤする時もたくさんあるけど、こうやって私のことを心配したりしてくれる雄輔を見てると、なんだかうれしい。
雄輔自身が、そうやって私に対して心配性だったり、ヤキモチ妬きだったりしてるのを気づいてない感じがするのも、なんだかかわいかった。
次の日から、私は篠原さんのスタジオに出勤した。
私の仕事は、スタジオの掃除。
それから、膨大な写真の整理のファイリングから始まった。
篠原さんが、写真の現像とかチェックとかしてる間は、私はもっぱら写真を時系列や種類に分けていく。
篠原さんは、撮影の時は人当たりがいいけど、やっぱり職人気質というか、スタジオにいる時は、なんとなく近寄り難いものがある。
分類に迷ったりした時に確認したくても、声をかけるのを躊躇する時がある。
それに、前のアシスタントが辞めてからの短い期間で、これだけの数だ。
先が思いやられた。
篠原さんは、結構アナログにこだわりがあって、デジタル時代の今でも、基本的にアナログカメラで撮影してた。
もちろん、撮影にもついて行く。
準備する機材、セッティングの仕方
もう、準備の時点で覚えることだらけ・・・
撮影中も、スムーズにいくように、たくさんやることあるし、その間に篠原さんのタイミング見て、フィルムチェンジもしないとならない。
これが、ほんとに難しい・・・
少し前まで、私はあのライトのあたる向こう側にいたのに
今は、汗だくで裏側で駆けずり回っている。
それにまったく後悔がない自分に、少し驚いた。
ほんとに毎日ヘトヘトだったけど、楽しくて仕方ない。
撮影はスタジオならまだいいけど、野外とかだとめちゃめちゃ朝が早い。
まぁ、基本的に役者も朝が早い。
だから、雄輔と会う時間が極端に減ったりすることはなかった。
雄輔も、ほんとに一歩づつだけど、台詞の多い役をとったり、端役っていっていいくらいの脇役だけど、連ドラの仕事があったり、映画があったりと、途切れることなく仕事があった。
雄輔はそうやって仕事をする度に、どんどん人脈を広げて、いろんな人にかわいがってもらってる。
だから、食事や飲みに誘われることも結構あって、なんだかんだもう4年近く付き合ってるけど、あんまりお互いに馴れ合いになることもなくって、ある程度の距離感があった。
雄輔は、私といる時はいつも優しいし、楽しそうにしてる。
私も楽しいけど、やっぱり物足りなく感じることもある。
その上、雄輔は昔の友達ともずっと仲がいいから、とにかく付き合いの輪は増えていく一方だった。
私との付き合いは、事務所も知ってるし、雄輔自身がワイドショーに追われるとこまで名前が売れてないから、隠すわけでもないし、私も雄輔の友達とも一緒に遊んだりはしてた。