部屋に戻り手探りで確かめると、
夕顔が先程までのまま横たわっており、
傍らには右近が臥せています。
「何をそんなに怖がる。
荒れた邸には狐がいて悪さをするものさ。
この私がいるのだ、
そのようなものにはおどされまいぞ」と、
源氏の君は右近を起こします。
「ひどく気分が悪くて。
それよりお方さまがどんなに怯えていることでしょうか」
「そうだ、どうしてこんなに怖がるのだ」。
探ってみると息がありません。
あわてて揺さぶるとぐったりとしています。
「子どものような人だから、
物の怪に気を奪われたのだろう」と途方に暮れる源氏です。
先程の滝口の武士がやっと紙燭を持ってきます。
源氏の君は几帳を動かして夕顔を隠し
「ここへもって参れ」と命じますが、
滝口は畏れ多くて近寄れません。
「遠慮も時と場合に寄るぞ!」と灯りを取り寄せ、
夕顔を見ると、夢に出た女が枕元にぼうっと浮かび、
ふっと消えました。
昔の物語にあるような奇怪な現象にぞっとしますが、
とにかく今は夕顔のことが気が気ではなく自分の身を構うこともせず、
「これこれ」と起こしますが、体はすっかり冷たく、
もう息絶えている様子。
頼りになる人も、祈祷を行う法師もいません。
あれほど強がっていた源氏の君も、若いだけに、
手の施しようがないとわかると堪え切れません。
ひしと抱きしめ「ああ、あが君よ、
どうか生き返っておくれ!
こんなひどい目に遭わせないでくれ」と語りかけますが、
女の体は冷え切りもはや死相さえ…。
怖がっていた右近も、今は泣き惑うばかり。
南殿の鬼の故事を思い出し、
気丈に源氏は「いくらなんでもこのまま亡くなりはしまい。
夜の声は響く。静かにせよ」と、
右近をたしなめるものの、
あまりの急展開に呆然自失の体です。
先刻の滝口を呼び「まことに妙な話だが、
物の怪に襲われ苦しんでいる人がいる。
随身に惟光と兄の阿闍梨を呼んで来させてくれ。
くれぐれも惟光の母君には悟られぬよう、
こうした忍び歩きにはうるさい人だから」と指示する間も、
女がこのまま死んだら…とたまらなく辛い思いで胸がいっぱいです。
くわえてあたり一面の不気味さ。
佐是が少し強くなったので夜中も過ぎたのでしょうか。
風が松の枝を震わす陰気な音。
しわがれた異様な鳥の声は、梟でしょうか。
「ああ、なんでこんな恐ろしげなところに泊まってしまったのか」
と後悔しても、あとの祭りです。
右近はわなわなと震え源氏にぴったり寄り添って、
今にも死にそうなので「この女も危ないのでは?」と、
源氏は夢中で掴まえておきます。
正気なのは自分だけかと思うと絶望的な気分です。
灯火はかすかにまたたき母屋のあきらこちらは深き闇、
背後から得体のしれぬ何かが近づく足音が聞こえてくるようです。
惟光よ、早く参れと願いますが、
通いどころも多い男ですから、使者も捜しあぐねているのでしょう。
夜明けまで、先夜を過ごすような思いの源氏でした。
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