いつまでも亡骸のまま、

という訳にもいきません。

桐壺更衣は火葬されることになりました。

更衣の母君は自分も同じ煙になって空に上りたいと、

泣き叫び、

遂には女親は葬儀に参列しない決まりなのに、

野辺送りの車に追いすがり乗り込んでしまいます。

それまでは「亡骸が灰になるのを見届け、

諦めをつけましょう」と気丈に言っていたのに、

いざ斎場に着くと気は動転し、

足元はふらつき、

車から転げ落ちそうな程です。

手塩にかけた一人娘に先立たれる不幸。

その嘆きは深すぎて、

やはり母君がここに来るのは無謀だったのでは…と誰もが、

どうお相手してよいのかわからないと当惑するばかりでした。

 

亡くなった更衣に三位の位を贈るという帝の命が伝えられましたが、

そのお使者を迎えるのもまた悲しいこと。

帝とすれば更衣を「女御」と呼ばせてやれなかった心残りからですが、

この期に及んでも更衣への扱いを憎む人が多くいました。

でも反対に、

人を見る目が確かな人々は、

更衣がとても綺麗で物腰も柔らかく

穏やかだったなどを今になって思い出していました。

度を越した帝の寵愛のせいで妬んだものの、

帝のお側の女官達は、

更衣の優しい人柄や細やかな心配りを懐かしく思っていたのです。

 

時は過ぎていきます。

帝は7日ごとの法事も決して忘れません。

心の痛みは和らぐどころか深まるばかりで、

他の妃達を遠ざけて、

更衣の面影に涙する日々。

その痛々しい姿に、

周囲もついもらい泣きしてしまう程でした。

気が付けば季節はすっかり秋。

「まあまあ、

死んでからも胸がむかむかするようなご寵愛ぶりですこと」と、

弘徽殿女御は相変わらずの物の言いよう、

相手が故人とて容赦はありません。

帝は弘徽殿との間に儲けた一の皇子を見るにつけ、

逆に更衣の忘れ形見である若宮が恋しく思い出されてしまいます。

気心の知れた女房や乳母を度々里に遣わし、

若宮の様子をお聞きになります。

 

野分めいた風が吹き急に肌寒さを感じる夕暮れ、

帝はいつにもまして感傷的になり、

靫負命婦という女房を更衣の里へ遣わせます。

命婦を送り出した帝は美しい夕日を見つめながら、

ああ、

あの人はこんな夕べに奏でる琴の音も上手で、

ふと漏らす言葉も心に響いたものだなあ、

としみじみと思い出します。

でも、

その幻をどんなに追いかけても、

桐壺更衣はもういないのです。

 

命婦が更衣の屋敷に到着します。

未亡人とはいえ、

以前は一人娘に恥をかかせないよう、

気を配って小綺麗に暮らしていた母君ですが、

泣き暮らしているうちに、

庭は草ぼうぼうで荒れすさみ、

屋敷には月の光だけが、

生い茂る雑草の間から差し込んでいるような状態でした。