2015年 スイス・ドイツ

 

どの登場人物もアニメを見慣れた日本人に受け入れられやすい「再現度」だが、ブルーノ・ガンツのおんじ振りはすごい。「アメリカの友人」「ベルリン・天使の詩」で彼を知った者として、おじいちゃんになったなと思ったが眼光鋭く只物ではない感はさすがだ。

 

物語が書かれた1880~81年からアルムおんじの若いころを想像すると、小国に分かれていたイタリアが革命や戦闘を重ね統一されていく時期と被る。おんじが傭兵として戦っていたのはイタリアだろうか。重い過去を背負った人物だが、映画は111分のファミリー向けなので、天真爛漫な子供に何となく心を開かせられてしまったような、単純でテンポの良い展開だ。

 

強く明るく生きていく子供たちとスイスの美しい自然を楽しめる良い映画だと思う。「マッド・ハイジ」の予告編が時折、頭をよぎって苦笑した。

ヴェノナとは、1943年にアメリカが始めたソ連の暗号傍受・解読作戦の名称。

第二次世界大戦時の同盟国ソ連が百人単位の規模でアメリカにスパイを送り込み、外交、軍事、産業上の機密情報をことごとく盗み出していた。

 

1995年、情報公開法によって解読した内容が一斉公開、研究され何冊も本が出版された。アメリカ人たちは(ああ、やっぱりあの人はそうだったのか、あの噂は陰謀論などではなかった)と思ったらしい。現在、日本にも周辺国の工作員ではないか、彼らに使われているのではないか、と噂され揶揄されている有名人、大物政治家がいる。日本の諜報活動も公開・研究されたらきっと、あいつやっぱり!ということになりそうだ。

 

「オッペンハイマー」という映画が作られた。日本人こそ、この映画を見て内容をジャッジすべし、と書いている人がいた。しかし、あらすじを読んで見る価値は無いと思った。作品の興行収入に貢献したくもない。

本書で、ロバート・オッペンハイマーはソ連のスパイとは言えないものの、周りの者たちのスパイ行為を容認しながら研究を進めていた可能性があったと分かる。マッカーシズムに人生を翻弄されたというストーリーは偽善的だ。

自分がこれまで触れてきた小説や映画、ドキュメンタリーなどではマッカーシズムは悪で愚かなものと捉えられていたが、全くそうではなかった。かなり深く広く浸透していたソ連スパイが少しずつ明らかになり、もっといるはずだと思うのは当然のこと。70年後の視点でやりすぎだと思ったとしても、当時の感覚を知らない者に断罪する資格は無い。

 

第二次世界大戦についてルーズベルトは国民には参戦しないと言いながら、内心は参戦する気満々だった。そのため参戦が決まると急いで戦時体制を敷き、人材登用で通常なされるスクリーニングをなおざりにした。ナチスドイツに気を取られ、戦後の覇権に欲をかき、非白人を蔑視、スターリンに手玉に取られた。偉大な大統領とは呼べない。

 

多くのソ連スパイ、スパイらしき人、暗号名しか分かっていない人が登場する。アメリカの歴史に詳しい人や、アメリカ人が読めば、もっと身につまされる内容だと思う。歴史も一般の知識も乏しい日本人の自分は本書の魅力を十分に享受したとは言えないが、それでも世界の見え方が少し変わった。

2022年 日本

 

信が一兵卒として戦い武勲を立てる。

人間も馬もありえない跳躍力や走力、持久力。ブロンド巻き毛やプラチナさらさらロングヘアの武将。萌え袖の最強女性兵士。中国大陸の春秋戦国時代を舞台にしているが、アクションと熱い物語を楽しむための全くのフィクションだ。清野菜名さんはミラ・ジョヴォヴィッチに憧れたというだけあって切れのあるアクションを見せてくれた。山崎賢人さんもほっそりしているが鍛えられた体幹あってこそ、あそこまで動けるのだろう。

渋川清彦さんが素晴らしい武将ぶりだった。柴犬やタクシーの客に翻弄される冷めたおじさんが、馬を乗りこなし敵を討たんという決死の覚悟を見せた。

豊川悦司さんと小澤征悦さんも、若い俳優に無い存在感で、複雑なおもしろいキャラクター作りをしていた。作品がグッと引き締まったと思う。

もちろん漫画から抜け出てきたような王騎将軍の大沢たかおさんは欠かせない。台詞回しや笑い方がコメディになってしまわないのはさすがだと思う。馬や共演者が小さく見えるほどに鍛え抜かれた体に役者魂を感じる。

 

秦の始皇帝をはじめ歴史上の人物がゾロゾロ出てくるので、つい中国大陸の歴史物語と思ってしまいがちだが、始皇帝は残虐さや卑怯さで有名だし、中国史の人物に碌なものはいない。麃公と呉慶の正々堂々とした一騎打ちなどあり得ない。いかに敵を出し抜くか、出し抜かれた方がバカなのだ、というのが大陸流の考え方だ。そういう現実が少し作品を心から楽しむのを妨げる。

最後にテーマ曲のようなものが入ったが、あの手の曲が趣味ではないので、ダサいなと感じた。

1964年 フランス・イタリアのアクション・コメディ

 

山田康雄、小原乃梨子のルパン三世コンビが主役二人を演じていて、軽妙洒脱。こういう名人芸の吹き替えは聞いていて楽しい。

次から次へと物語が進展していき、まったく飽きさせない。バスター・キートンを思わせる凄いシーンの連続だ。マンガチックなアクションを難なくこなしているように見えるが、ちらりと見えたベルモンドの腹筋の見事なこと。スーツを着崩した伊達男からは想像しにくい。子供のころはベルモンドの魅力を理解できなかったが、ルパン三世やコブラといった名作漫画が生み出されたのも頷ける。いい加減で女好きで飄々としている。美男子でないところが逆に愛嬌になっている。

フランソワーズ・ドルレアックも魅力的なコメディエンヌぶりだ。色っぽくて可愛らしくて、ちょっとぶっ飛んでいる。一週間しか休暇がないのに、ついついブラジルまで追いかけて行ってしまうのも、彼女なら仕方ないと思える。本作の3年後に若くして亡くなってしまったのは悔やまれる。

 

ブラジル人少年が機転を利かせて主人公を助けたり、白人の悪者が古代文明の財宝を手に入れようとして天罰を受けるなど、スピルバーグが好きそうな要素がテンコ盛りだ。

ベルモンドが追いつ追われつする街の風景の、だだっ広い土地に幾何学的なビルが立ち並ぶ様はシュールだ。一見、ちゃんとした建物のようだが、全て廃墟というのが驚く。建設費が足りなかったのか、何かで計画中止となったのか。

タイトルデザインはカラフルな縞模様にタイポグラフィが踊り、60年代フランスらしい。

監督のフィリップ・ド・ブロカはベルモンドと何度も組んでいる。音楽のジョルジュ・ドルリューはトリュフォーとよく組んでいるが、代表作を絞れないくらい沢山の名作に参加している。

1999年 アメリカ

 

原題は Eye of the Beholder 「氷の微笑」と間違える慌て者を想定したタイトルか。

ユアン・マクレガー、アシュレイ・ジャッドという美男美女、ちょい役でk.d.ラング、ジュヌヴィエーヴ・ビジョルドが出ているという豪華さに惹かれて見てみたが、駄作だった。

美貌に吸い寄せられてくる男を次々手にかけて逃亡する謎の女と、たまたま現場を目撃してしまった英国諜報員。

諜報員の娘は彼にしか見えない存在だったり、街の風景に映った星条旗がボロボロだったり、何か引っかかりがある映像やストーリーが続く。諜報員が報告を上げる連絡事務所が変に古びた感じで、連絡員もk.d.ラングが演じると非常に意味ありげだ。諜報員自身が精神を病んでいるようなので、全ては妄想だったりするのか。煌々と灯りが灯った部屋のカーテンも引かず、セクシーな下着姿で男を刺すなど、見てくれと言わんばかりなのは、謎の女自体、存在しないのか。全ては考えすぎだった。シリアルキラーのいかれた女に執着するストーカーというだけだ。

ユアン・マクレガーが上手いので、イケメンなのに気持ち悪い。しゃれっ気のない撫で付けた髪型とダサいダウンコートも、社会性が乏しい、じっとりした粘着質の男をよく表していた。