秦霊性心理研究所

 

所長 はたの びゃっこ

 

スピリチュアル分野には色んな「宇宙の法則」がありますが、よく目にする宇宙の法則の一つに「引き寄せの法則」(The Law of Attraction)を挙げることができます。主要な著作を以下に示しておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

法則の要点

 

引き寄せの法則は、自分の思考や感情が現実を創り出す力を持つとする考え方です。これについて具体例を挙げて説明します。

例えば、あなたが仕事で昇進したいと望んでいるとします。引き寄せの法則に従えば、以下のステップが関与するとされます。

1.明確な目標設定……昇進を望む具体的な目標を設定します。昇進したいという望みは、引き寄せの法則における初歩的な段階です。

2.ポジティブな思考と感情……昇進することに対するポジティブな思考と感情を持ちます。自分が昇進している姿をイメージしたり、それによってどのような感情や喜びを得られるかを想像することが重要です。

3.行動と努力……ただ願望するだけではなく、昇進するために必要な努力や行動を起こします。仕事で優れた成果を出したり、新しいスキルを身につけるための学習を積んだりします。

4.周囲との関係性……仕事で他の人と良好な関係を築くことも重要です。他の同僚や上司とのコミュニケーションを円滑にし、チームとしての成果を生むことが大切です。

引き寄せの法則は、これらの要素が結びつき、自分のポジティブな思考や感情が望む結果を引き寄せる力を持つと主張します。この場合、昇進したいという願望を持ち、それに向かってポジティブな思考と感情を持ち続けながら、行動と努力を積み重ね、良好な関係性を築くことで、昇進への道が開かれるという考え方です。

 

心理学的な解釈

 

私は心理学の研究者でもあるので、引き寄せとは異なる概念を用いて説明します。それは、自己成就的予言(self-fulfilling prophecy)です。予言の自己成就と呼ばれることもあります。

 

自己成就的予言とは、根拠のない思い込みや噂であっても、その状況が起こりそうだと考えて行動することで、事実ではなかったはずの状況が本当に実現してしまう現象です。
 

これはアメリカの社会学者ロバート・K・マートンが提唱した現象で、<予言>が<予言に従った行為>を生じさせ、その行為が<予言を現実化するために有利な状況>を作り出し、結果的に本当に実現してしまう可能性が高まるからです。
 

たとえば、人前で話すのが苦手だと思っている人は、人前に出ると緊張してしまうことが多い。また、自分は成功すると思う人は成功しやすく、失敗すると思う人は失敗しやすいということもあります。


自己成就的予言は対人場面でも見られ、たとえば、電話の向こうの女性が魅力的な女性だと信じて会話をした男性は、知らず知らずのうち、相手の女性が心地よく感じるような会話をし、その結果、相手の女性も魅力的に振る舞うようになったことを示す研究があります。

 

類似した心理的効果として、ピグマリオン効果を挙げることもできます。

 

これは、他者から期待されると、期待に沿った成果を出す傾向にあるという現象です。アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールによって提唱された教育心理学における心理的行動のひとつで、「教師期待効果」、または「ローゼンタール効果」とも呼ばれます。

 

たとえば、教師の側から見て、「この子は今後成績が伸びるだろう」というプラスの期待を抱いたならば、その期待に沿って教師は積極的かつ熱心な指導をするようになり、子供の側も教師が熱血指導をしてくれるようになると、一生懸命頑張って学習に励むようになり、教師-子供の相互作用が活発になって、教師もいっそう自分が当初に抱いた期待が正しいものだと信じ、さらに指導に熱が入り、最終的に教師の抱いた期待が<自己成就>するというプロセスがそこには存在すると考えられます。

 

では、もしも教師が子供に対してマイナスの期待を抱いたならばどうなるのでしょうか。

 

ゴーレム効果とは、心理学用語で「周囲の期待が低い場合、その人物は周囲の期待通りにパフォーマンスが低下してしまう」という心理的効果です。ピグマリオン効果の対義語で、ある人が失望や批判をぶつける、あるいは暗黙のうちにネガティブな態度を示すことで相手のパフォーマンスを下げる心理効果です。ゴーレム効果は、1960年代にアメリカの教育心理学者であるロバート・ローゼンタールによって提唱されました。ローゼンタールは、あるクラスに知能テストを行い、成績の良い生徒のクラスと成績の悪い生徒のクラスに分けた後、教師には逆のことを伝えるという実験を行って確かめています。

ゴーレム効果は、成果や成績が重視されやすいビジネスやスポーツなどの分野でも見られます。たとえば、上司が部下に対する期待度が低い場合、部下は業績を下げてしまうことをいいます。


ちなみに、ゴーレム効果の由来は、額の文字を消すと泥に戻ってしまう空想の巨人「ゴーレム」といわれています。

 

 

このように、最初はただの思い込みで、合理的な根拠のない信念だとしても、ひとたび自分や他者に対して「このようになるだろうと信じる」ことによって、私たち自身の行動が変容していき、対人場面においては他者の反応もそれに従うように変化していくため、結果的に最初に設定した<予言>なり<期待>が実現してしまう現象自体は存在します。

 

それは神秘でも奇跡でもありません。心理学的な観点からはある程度実証されていることです。

 

 

批判的見解

 

さて、ここで引き寄せの法則に話を戻します。

 

引き寄せの法則は、一部の人々によって信じられており、自己啓発や人生の成功において大きな影響を持つとされています。しかし、批判的な見解も存在します。

 

以下に、引き寄せの法則に対する批判的な見解とその根拠をいくつか挙げます。

1.科学的根拠の欠如……引き寄せの法則は、科学的な証拠や実証的な支持を欠いていると批判されます。この法則は、思考や感情が現実を作り出すと主張していますが、これを支持する十分な科学的根拠や実験的証拠は存在しません。

2.責任転嫁と過度な単純化……引き寄せの法則は、成功や失敗の要因を個人の思考や感情に帰する傾向があります。これは、外部の要因や社会的・経済的な背景を無視し、個人の責任として単純化することが批判されます。現実には、成功や失敗には多くの要因が影響します。

3.偶然と認知バイアスの影響……引き寄せの法則の支持者は、望んだことが起こった場合は自分の思考や感情の力だと解釈し、起こらなかった場合は思考や感情が弱かったからだと解釈する傾向があります。しかし、偶然や他の要因、そして認知バイアスの影響を無視してしまうことがあります。

4.貧困や困難な状況を理解しづらい……引き寄せの法則は、人々が自分の状況を自分の思考や感情によって引き寄せていると主張しますが、これは貧困や困難な状況に置かれた人々に対して非常に無神経であり、社会的背景や不平等を無視していると批判されます。

5.心理学的な限界……引き寄せの法則は、心理学的な原理やメカニズムについて過度に簡略化しています。人間の心や行動を一つの法則や理論で説明することは困難であり、単純化された考え方には限界があります。

総じて、引き寄せの法則はポジティブな思考や目標設定の重要性を強調する点では有益かもしれませんが、現実を単純化し過ぎており、科学的根拠が乏しいことや、複雑な人間の行動や状況を無視していることが批判の対象となっています。

というように、かなり批判に晒されている面もあります。

 

 

影響する認知バイアスの例

 

 

心理学では、私たち人間が外界からの情報を処理するときに様々な認知バイアスが存在することが知られています。

 

これを「引き寄せの法則」に当てはめてみると、次のような論点にまとめられます。

 

1.確証バイアス (Confirmation Bias)

人は望んだ結果を裏付ける情報を探し求める傾向があります。引き寄せの法則の信者は、自分の思考や感情が望む結果をもたらしたと確信しており、そのような結果を裏付ける事例や情報にフォーカスします。
 

2.選択的注意

引き寄せの法則の信者は、自分の思考や感情が実際に現実を作り出したと信じており、そのような考え方や感情に合致する出来事に、より注意を向ける傾向があります。
 

3.確率の無視 (Neglect of Probability)

引き寄せの法則の支持者は、思考や感情が望む結果を引き寄せる力があると信じており、偶然や他の要因の影響を無視する傾向があります。このバイアスにより、偶然による出来事や他の要因の影響が低く評価されます。
 

4.自己効力感の過大評価 (Overconfidence Effect) ダニングクルーガー効果

引き寄せの法則を信じる人々は、自分の思考や感情が現実に大きな影響を与えると考えがちです。このことから、自己効力感が過大評価され、自分の行動や思考がすべての出来事に影響を与えるという過信が生まれる可能性があります。

 

 

これらの認知バイアスは、引き寄せの法則を支持する人々が、自分の信念や理論に一貫性を持たせるために現実を解釈する際に影響を与える可能性があります。しかし、これらのバイアスは客観的な現実とは異なる見方や判断をもたらす可能性があるため、注意が必要です。

 

 

思想的な背景

ここで、引き寄せの法則が生まれた背景について考えてみましょう。

 

ニューソート(New Thought)は、19世紀後半から20世紀初頭にかけてアメリカで発展した思想運動です。この運動は、精神的な成長、自己啓発、ポジティブな思考、そして神や宇宙とのつながりを重視する考え方を基盤としています。ニューソートは、個人の意識や思考が現実を創造する力を強調しており、この考え方は引き寄せの法則やポジティブ思考の理念など、後の自己啓発やスピリチュアルな思想に影響を与えました。

ニューソート運動は、以下のような特徴を持っています。

心の力の重視⇒ ニューソートは、心の力や思考が人生や現実を形作るという考え方に焦点を当てています。つまり、人々は自分の思考や感情によって自分の現実を創造できると信じます。

健康と幸福の追求⇒ニューソートは、健康で幸福な人生を生きるためにはポジティブな思考や自己啓発が重要であると考えます。肯定的な思考が健康や幸福に寄与すると信じられています。

宗教的多様性とスピリチュアリティ⇒ニューソートは宗教的な多様性を受け入れ、個人の内なる霊性や宇宙とのつながりを重視します。これは、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教など、様々な宗教的信念を包括的に受け入れる考え方です。

自己啓発と個人成長⇒ニューソートは、個人の成長や自己啓発を追求することを重要視しています。自己啓発のための書籍やセミナー、瞑想、肯定的アファーメーションなどの手法を用いて、個人の内面的な成長を促します。

ニューソート運動は、自己啓発やスピリチュアルな思想に深い影響を与え、多くの人々にポジティブ思考や心の力の重要性を強調しました。これらの考え方は現代の自己啓発やスピリチュアルな運動にも引き継がれています。

このように、この種の思想・信条は19世紀にまで遡ってみることのできる一種の宗教的運動に端を発しているわけです。

 

まとめ

 

引き寄せの法則の<信者>の一部は、自分の思考や感情が現実を作り出す力を持つと信じ、望む結果を引き寄せるためにポジティブな思考や感情を強調します。その一方で、望まない結果や問題が起こった際には、自分の思考や感情が弱かったからだと解釈し、責任を自分の内面の弱さや不十分な思考に転嫁する傾向があります。

このような状況では、成功や望ましい出来事を自己の思考や感情に帰属させ、失敗や望まない出来事を自己の不十分さや思考の問題に帰属させることで、責任を外部要因から自己に転嫁する傾向が生じます。


もう一つ気になる点としては、倫理的な問題点も生じることで、もしも引き寄せの法則に従うなら、「悪いことが起こるのは悪いことを考えるからだ」と貧困に苦しむ人や犯罪被害者に対して「自業自得」だと突き放してしまうことにもなりかねません。

 

結局は、個人の思想信条、価値観の問題になってくるので、この法則を絶対的に信奉する人に対して「はやく目を覚ましなさい!」と言っても、それが拠り所になっているのなら、無駄な説得になるだけでしょう。

 

しかし、仮に家族や友人に科学的な見解や合理的な根拠を全否定するほどに信奉する人がいるなら、一種のマインドコントロールに陥っている可能性もありますから、放置することもできません。

 

そこで、考えられる対応としては次のような点を念頭に置くのが望ましいと言えます。

引き寄せの法則を信じる人々の信念を尊重しましょう。その人たちにとって、それは彼らの世界観や生活の一部であり、彼ら自身にとって意味のあるものです。
 

次に、良好なコミュニケーションを通じて、オープンな対話を心がけましょう。興味を持ち、彼らの考え方や信念を理解しようとする姿勢が大切です。ただし、否定的な意見を述べる際には、尊重と配慮を持って接してください。

自分自身の信念や考え方を表明することも重要ですが、それを行う際には、相手の信念を尊重し、対話を通じて互いの観点を理解し合うよう努めましょう。

引き寄せの法則がポジティブな思考や目標設定の重要性を強調していることを理解し、その側面を受け入れることは良い方法です。しかし、過度な信じ込みや現実を無視することが他の重要な要因を見過ごすことにつながる可能性があるため、バランスを保つことが重要です。
 

最後に、その人たちが望む成功や幸福に向かって努力する姿勢をサポートしましょう。ポジティブな励ましやサポートを通じて、彼らが自分の目標を達成する手助けをすることも重要です。

 

 

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