くーろんSS創作の杜 -3ページ目

くーろんSS創作の杜

私が思い付いたSSを投下します。たまに日記的なのも掲載予定。

…………。

………………。

…………迷った。

ちなつ「完全に迷った」

突然だけど私は今迷っている。道に迷う的な意味で。
いや、実際そうなんだけど。

私は家族と東京へ旅行に来ている。先日、七森中で文化祭があり、その代休を利用しての東京観光だ。
たしか神田明神という神社にお参りして、その参道沿いの出店を見ながら一人でふらふらしていたら、迷いました。

ちなつ「最悪」

高岡ならまだしも、ここは東京のど真ん中で、周りをどでかいビルで囲まれていて方向感覚がまるでない。

ちなつ「…………」

携帯電話の充電残量は4%。しかも使い始めてから4年以上経つから、通話もすれば1分と持たないだろう。

財布を見る。野口さんと、小銭が少々といったところか。
このなけなしのお金で電池式充電器を購入する手は残っていた。
ただ、このスマートフォンのご時世、いくらコンビニとはいえ、ガラケー用の充電器をストックしているという可能性はやや望めない。ましてここは東京。尚更絶望的だ。

それでも、なきにしもあらずという希望から、コンビニを探しているんだけれど……。

ちなつ「なんでこう困ってるときにコンビニエンスじゃないの……」

今私がいるところ、人通りが少なく、随分と静かな場所だ。電車の走る音や車の走る音などは遠くから聞こえるような感じだ。

ちなつ「こんなときのためにお母さんから地図を借りておくんだった…」

普通はこんなことは起きないものだ。好奇心は時に諸刃の剣と化す。
歩くと余計に迷う。だけど歩かなければコンビニにはたどり着けない。
そんな矛盾の葛藤を抱えていると、気づけば学校の前にいた。

ちなつ「おとのき…さか? ざか?」

校門の脇には音ノ木坂学院とあった。随分と古ぼけたプレートだった。伝統があるのだろうか。

ちなつ「ふーん……お洒落な学校名だなぁ……東京だと、こういうのが普通なのかな」

…………。

そうだ!

この学校の生徒さんに声をかけて、携帯電話を借りるのはどうだろう。東京の学校の人なら、携帯電話ぐらい全員持ってるだろうから、希望は溢れている……!

だけど、

ちなつ「13時47分……」

残念ながら授業中である。
希望は一瞬にして絶望に様変わりした。
ほんと、ここどこなの……。

やばい、涙が出てきそう。
目頭がどんどん熱くなる。

あぁ、きっとお姉ちゃんたち、すっごく心配してるんだなぁ……。

ちなつ「うぅ……うぅ…………」

あぁ…………帰りたいよ…………。

??「…………」

…………?

??「……ここで何してるにこ?」

ちなつ「あ…………あ、えっ?」

いつのまにか、私の前に女の子がいた。制服を着ている。ということは……

ちなつ「あ、あの! もしかして、ここの学校の生徒さんですか?」

??「そ、そうだけど……それがどうしたの」

彼女は、私と同じような位置で結わいた黒髪のツインテールで、結び目のところには赤いリボンが付いている。だいたい私と同じ目線の位置だ。

ちなつ「あの、私今旅行で東京に来てて、それで迷っちゃって……しかも携帯電話の充電がもうなくて……だから、お母さんたちと連絡を取るために携帯電話を貸して欲しいんです……」

??「全然構わないわ。あぁ、でもケータイは今部室……」

ちなつ「 」

??「そうだ」

彼女は着ていた上着を脱ぎ、私にそれを寄越した。

??「それを羽織って、今から学院に入るにこ」

ちなつ「えっ……大丈夫ですか……?」

??「平気! あなたのスカートは遠目から見れば制服っぽいし、それで上着を着ればほぼ制服だから大丈夫」

ちなつ「あ、ありがとうございます! あ、でも今は授業中なんじゃ……」

??「今日は午前授業だからもう学校は終わってるわ。さ、行こう?」

??「あぁそうそう。自己紹介がまだだったわね」

彼女は一歩前に出てくるりと振り返り、



にこ「にっこにっこにー! あなたのハートににこにこにー。笑顔届ける矢澤にこにこ~。にこにーって覚えてラブにこ~!」



…………。
あっ。
一瞬、我を忘れていた。

ちなつ「すごく、可愛いです……!!」

にこ「ええっ」

ちなつ「ほんと、なんかアイドルみたいな自己紹介で! そういうの持ってるのって、羨ましいなって! 思いました」

にこ「あ、ぁ、」

ちなつ「……えと……?」

にこ「う、嬉しい…………嬉しい! あなたのような、ファン以外の人にこの自己紹介が受けて、すっごく嬉しい!」

ちなつ「ほぇ」

にこ「μ'sのみんなに披露したときすら、微妙な反応だったのに……」

ちなつ「でもでも! 本当に憧れます! すごいです! すごいなぁ……ここが東京かぁ」

にこ「あ、ケータイが使いたいんだよね!? 早く行こう!」

ちなつ「は、はい!」

私は、彼女の手に引かれて音ノ木坂学院の敷地へ入っていった。






七森も結構大きい学校だとは思ってはいたけど、さすが東京だなぁ……。

にこ「ちなつはどこから来たの?」

ちなつ「高岡…——富山県です」

にこ「北陸なんだ~。一度行ってみたいな~。富山といえば、ホタルイカとチューリップのイメージしかなくて……」

ちなつ「他には、黒部ダムとか、立山連峰の絶景、あとは富山ライトレールなんかも見どころのひとつですね。あとは、神通川のイタイイタイ病とか」

にこ「ほぇー。イタイイタイ病は習ったことがある……わ」

ちなつ「今年3月に北陸新幹線が富山にも延びてきたので、ますます活気づいてきてくれると思います」

にこ「ふぅん。ちなつは、富山を愛しているにこね」

その、語尾の『にこ』っていうの、なんなんだろう。口癖?

ちなつ「生まれてからずっと富山で育ってきましたので」

にこ(越中弁とかは喋らないんだ)

ちなつ「そういえば、さっき部室って言ってましたけど、にこさんは何部に所属しているんです?」

にこ「えっと、アイドル研究部ってところで、スクールアイドルをやっているにこ」

ちなつ「アイドル…………えっ! にこさん、アイドルなんですか!?」

にこ「そ、そうよ」

ちなつ「嘘—! すごーい!!」

にこ「一応ブログとかも開設されているのよ」

ちなつ「はわわわ」

にこ「と言っているうちにもう部室だけど」

ちなつ「あぅ、はい!」

中からは随分と賑やかな声が聞こえてくる。

え、嘘。ここに入るの? というか、よくばれずにここまで来られたよ。

にこ「ただいまにこぉー」

ちなつ「し、失礼しますッ!」

やば。声裏返った。

?「あれー? 新入部員かニャー?」

にゃー?

???「にこちゃん、この子は?」

にこ「学院の前で迷って途方に暮れていたから、今からケータイで連絡をとらせてあげるの」

??「意外と、お姉さん的な一面もあるんですねぇ」

にこ「何よ意外って。……はい、ちなつ。それと、みんなはちなつが電話してる間は静かにしてなさいよ」

ちなつ「ありがとうございます……」




ちなつ「にこさん、ありがとうございました」

にこ「どうだった?」

ちなつ「はい。ここまで来てくれるそうです。皆さん、本当にご心配及びご迷惑をおかけしました……」

???「よかったね、無事に解決できて」

にこ「そういえばケータイの充電が切れてるんだよね? ほら、充電しときなさいよ。充電器はあるから」

ちなつ「何からにまでありがとうございます……」

?「そういえばー名前はなんていうのかニャー?」

にゃー?


ちなつ「えと、吉川ちなつです。富山県から観光で東京に来て、それで迷子になっちゃいました」

???「わぁぁ……この子の髪、すっごくもふもふしてるぅ」

ちなつ「あっ///」

なんだか向日葵ちゃんの妹さんみたいな声の人だ。

??「ちょっとことりやめなさい。嫌がっているでしょう……」

ちなつ「いえいえ、お気になさらず……」

あれ、この人は向日葵ちゃんの声そっくりだ。

にこ「そういえばちなつ、さっきアイドルに憧れてるとかって言ってなかった?」

ちなつ「へっ? えぇまぁ、はい」

???「言われてみれば、なんだかにこちゃんみたいなツインテールだよね」

???「もふもふだよ~」

にこ「ちなつはどうしてアイドルに憧れるの?」

ちなつ「ええと……以前、部活のときに、あだなを付けてみようってう話題になって、そのときに同い年の子から、私ちなつですけど、『チーナ』って提案してくれて、なんだかアイドルにたいで可愛いな、って思ったのがきっかけですかね……。それから、『チーナ』って呼ばれるアイドルの私を想像したり……。結局その『チーナ』は浸透しなかったですけど。でもでも!
私は気に入っているんです、そのあだ名」

?「ずいぶんかわいいきっかけニャー」

にゃー?

ちなつ「は、恥ずかしいです……」カァァ

??「いいじゃない、大きな夢のきっかけなんて、だいたいそういう些細なことなんだから」

???「真姫ちゃんいいこと言うね~」

??「と、当然よ」

にこ「でも本当にそういうことよ。私たちだって、そういう小さな夢を持った子たちが9人集まって夢を叶えたわけなんだから」

ちなつ「そういえば、にこさんはアイドルなんですよね。実際に活動なんかはされているんですか?」

にこ「そうよ。スクールアイドル——要は学校単位にいるユニットのこと。私たちはμ’sっていうの。最初は学院の廃校を阻止するため、今となっては日本一のスクールアイドルユニットを目指すようにまでなった。私たち9人は、それぞれの持つ夢をみんなで叶える物語の主人公なのよ」

ちなつ「…………!!!!」

私は夢中になって拍手を送った。私が感動の拍手を送っていると、その場にいたメンバーさんたちも拍手を始めていた。にこさんは照れたのか、すごく赤くなっている。

ちなつ「あの、すっごく感動しました! 恰好よかったです!」

にこ「えと……うん、ああ」

??「いい事言うじゃない。さすがは部長だけはあるわね?」

?「にこちゃんかっこいいニャー」

にこ「ほ、本当のことなんだから! ねぇ穂乃果ちゃん?」

???「ええっそこで私に振るの!?」

にこ「だって全ての発端は穂乃果ちゃんが学院を救おうって考えたからでしょう」

???「でも、やっぱりにこちゃんは部長さんだし、そもそもちなつさんをここまで導いてきたのはにこちゃんだし……」

??「導いた……?」

???「そうだ! せっかくこうやって出会えたんだから、ちなつさんに見せてあげようよ、私たちのライブを!」

にこ「見せてあげるって……どこで」

??「屋上なら空いているんじゃないですか。あそこは私たちの練習場ですし」

ちなつ「そんな! 大丈夫ですって私のために……そんなまたご迷惑を——」

と言いかけると、唇をにこさんの指に抑えられてしまった。

にこ「アイドルを夢見るんだったら、こういうチャンスは攫んで逃さないことよ」

不覚にもドキリとしてしまった。

???「にこちゃんやる気になったね」

?「さぁちなちゅー屋上に行くニャー!」

ちなつ「えええ」

なんで京子先輩の呼び方なの!? うつったの!?

??「仕方ないわね」

ええー……。

私はそうやってテンションの高い子に連れられ、屋上へと導かれた。他のメンバーさんたちも続々と屋上へ向かっていった。





ちなつ「…………」

私は用意されたパイプ椅子に座っていた。
目の前ではメンバーさんたちが打ち合わせ的なことをしている。
背後の扉にはファンらしき子たちが数人こそこそと様子を窺っていた。


にこ「ちなつ」

ちなつ「はい!」

にこ「これは本当に特別公演のようなもの。あなただけのためのね」

ちなつ「本当にいいんですか……?」

にこ「同志が出来てくれるのは嬉しいことよ。あなたには是非、富山でスクールアイドルになって欲しい。もしならなくても、この東京に来て迷っただけの嫌な思い出にさせない、あのとき迷ってよかったって思えるようなライブを約束するわ」

ちなつ「…………」

私は力強く頷いた。

にこ「そこのドアのところでこそこそしてる子たちも、出てきなさい!」

モブA「は…………はい」

にこ「いいわ。せっかくだからあなたたちにも見せてあげる」

モブ達「「ありあとうございます!!」」

すごい、寛大な心……既に感動だ。

???「ちなつさん」

ちなつ「はい!」

???「今からあなたに披露する曲はにこちゃんがセンターを務める曲だよ。あなたを救ったにこちゃんの雄姿を是非その目に焼き付けてほしい、そう願ってこの曲を選びました」


ちなつ「…………」ごくり

にこさんとサイドポニーのメンバーさんが位置につく。

にこ「聴いてください。——夏色えがおで1,2,Jump!」



♪Summer wing ~



…………。

上手く言葉にできるかわからない。

とにかく、格好よかった。9人という人数がそれぞれの物語を描きつつ、夏色えがおで1,2,Jump!という曲を作り上げている。


人数がいる分、役割分担がしっかりしており、曲のイメージを大きく膨らませてくれる。


Bメロの掌をひらひらさせる振付は非常に可愛らしい。


そしてこの曲最大の見どころと言ってもいいサビの部分、真夏のせいだよ1,2,Jump!で全員が大きくジャンプするところには思わず鳥肌が立った。

大サビのときは思わず私もジャンプしたぐらい、熱くなった。


全体を通して言えることは、キレの良いダンスを踊りながらはきはきとした歌声を出せることが、

アイドルとしてここまで上り詰めてきた努力の賜物であることを感じさせる。

また、曲名にもあるように、終始『えがお』を絶やさない姿は、まさに天使と喩えることができよう。


そしてなにより、私にとって最も輝いて見えていたのは、にこさん。

ファンサービスの一環か、あるいは単なる私の思い込みなのかもしれないけど、曲の途中何度もウインクを飛ばしてくれた。

その度に胸がキュンキュンして、心臓が破裂しそうだった。


にこさんは普段から笑顔を絶やさない存在、

でも、アイドルというものに対して真剣に向き合っているんだと思う。

だから部室にいたときはああいう真面目な表情を見せていたのだろう。


そんなにこさんは、ひとたびステージに立てば、

こうやって真夏の太陽のような笑顔を私たちに見せてくれる。

このギャップにも痺れざるを得なかった。



曲が終わった後、私は涙を流していたかもしれない。
その涙は感動のものだったのかもしれないし、
この夢のような時間が終わってしまうという寂しさのものだったのかもしれない。



私はパイプ椅子から飛び出し、まっすぐににこさんのもとへ向かい、
彼女の手を両手で握り、感動の言葉を
思いつくがままに口にしていたんだと思う。

とにかく、感動していた。





楽しい時間はあっという間に過ぎてゆく。

部室に戻ると、私の携帯電話にはお姉ちゃんからのメールが入っていた。
『音ノ木坂学院の前で待ってるよ』

にこ「メール?」

ちなつ「はい……家族が、もう学院の前に来ているそうです」

にこ「…………そう」

ちなつ「あの! よかったら、連絡先を交換しませんか……?」

にこさんは一瞬驚いたような表情になり、すぐにあの『えがお』を私に見せ、快諾してくれた。





にこ「運命って、捨てたものじゃないわね」

ちなつ「奇跡ですよ、今日は」

見送りとして、にこさんが校門までついてきてくれることになった。
手は、繋がれている。

ちなつ「私がいい子なら、ここに迷い込んでこなければ、携帯電話の充電が十分なら、こんな奇跡は起こりませんでした。本当に……本当にありがとうございました」

にこ「…………うん」

ちなつ「私、まだ中1で、まだまだひよっこですけれど、高校生になったら、何か行動が起こせるよう、頑張ってみます」

にこ「私たちのライブがちなつにそう思わせられたのなら、きっとみんなも喜ぶわ。……というかちなつって中学生だったの?」

ちなつ「え、えぇ、まぁ」

にこ「高1ぐらいかとばかり……」

ちなつ「?」

にこ「なんでもないわ! あ! あそこにいるの、ちなつのご家族じゃない?」

ちなつ「そう、ですね……」

にこ「…………お別れ、ね」

ちなつ「一旦は、です」

にこ「……?」

ちなつ「にこさんが次に会うのは、アイドルに一歩でも近づけた私とです」

にこ「…………ふふっ」

にこさんは私の背中をトンッと押した。

にこ「頑張りなさいよ!」

ちなつ「……はい!」

にこ「さ、ご家族が待っているわよ」

ちなつ「…………」

繋がれていた手が離れる。

私は前に向かって歩き出す。

そして私は振り返って、

ちなつ「にっこにっこにー!」

そう、にこさんに披露すると、

にこ「にっこにっこにー!!」

と、倍の『えがお』で返してくれた。



これが本当の別れかな。

また、会えるといいな。

私は走ってお姉ちゃんたちのもとへ向かった。



ともこ「駄目じゃない……ふらふらしちゃ」

ちなつ「……ごめんなさい」

不思議と罪悪感はなかった。

ともこ「そういえば、屋上のほう? かしら。なんだか音楽が聞こえてきたけど……聞いた?」

ちなつ「…………さぁ」

ごめんねお姉ちゃん。
できれば今は、この感動を自分の中だけで噛み締めておきたいの。


学院のほうを見る。

にこさんの姿はもうなかった。





私たちがアイドルかぁ……。

ユニット名はやっぱり「ごらく部」かな。

京子先輩はわりと乗り気になるかな。

結衣先輩は恥ずかしがりそう。

あかりちゃんは……アイドルになっても目立たない……?



生徒会のみんなも巻き込んじゃえるかな。

櫻子ちゃんも乗り気で来るかな。

向日葵ちゃんは恥ずかしがるだろうなぁ。

池田先輩は案外向いてそう。

杉浦先輩はむしろみんなの前に立ちたがる……?



ふふふ。なんだか賑やかなグループになりそう。

そんなことを、私は帰りの新幹線の中で考えていた。


私は携帯電話を開く。


今日は素敵なライブをありがとうございました。

東京に来て、本当によかったです。

もし、μ'sの皆さんが富山に来ることがあれば、

そのときは私の仲間を紹介したいです。


繰り返しになりますが、

今日は本当にありがとうございました。

私は今日をずっと忘れません。


そう、にこさんにメールを送る。



ふう……。

今日はいろいろあったから疲れちゃった。

起きる頃には高岡に着いてるかな。




そうして私を乗せた新幹線は東京を後にした。