くーろんSS創作の杜

くーろんSS創作の杜

私が思い付いたSSを投下します。たまに日記的なのも掲載予定。

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あの日以来だ。
あの日以来、あの感覚が忘れられない。

自分では進めないところに、あの子はあかりを引っ張って行った。
たいした子だ。

ただあの日以来、あの子とは会ってないなぁ。
……まぁでも用事がないのに無理に会っても気まずくなるだけだしね。



夏休みが明けて数日。
まだまだ残暑が厳しい。

京子「おはよん」

結衣「おなよう、あかり」

あかり「おはよう! 結衣ちゃん京子ちゃん!」

京子「あかりは元気だな……こんなくそ暑いのに」

結衣「暑いと言うから暑いとか、前に言ってなかったかお前」

あかり「元気でいないと、存在感がなくなる気がして……」

結衣「気にするなよ。少なくとも、私たちはあかりをしっかり見てるから」

京子「朝からそんな暑苦しい茶番やめてくれや……」

結衣「いい雰囲気台無しだなオイ」

あかり「まぁまぁ……ほら、遅刻しちゃうよ」

あかりは、ちゃんとあかりを振る舞えていたのかな。




ちなつ「おはよーございますぅ結衣先輩!」

結衣「あはは……おはようちなつちゃん」

京子「ちなちゅー私にも!」


ちなつ「は?」

京子「おおう……」

あかり「お、おはよ、ちなつちゃん」

ちなつ「うん、おはよう!」

あかり「…………」

ねぇ、今あかり、ちゃんと振る舞えてたかな?
…………。
大丈夫だったよね……!



教員「……だから、余弦teiri……」

あかり「…………」

ちなつちゃん。

あの日したくちづけの感触をあかりはいまだに忘れられない。

あかり「…………はぁ」

机に突っ伏す。
腕の隙間から隣に座るちなつちゃんを見る。

ちなつ「…………」

もふもふのツインテールが、字を書く腕と連動して小刻みに揺れている。
板書を写しているその表情は時折怪訝そうに首をかしげるが、一生懸命にノートを取っている。


あかり「……可愛いなぁ…………」

誰にも聞こえないような小さな声で呟く。

たしかにちなつちゃんは可愛い。
それは出会ったときから思っていた。
ただそれは表面的なものだった。

例えば今のだってそう。
以前のあかりなら、ツインテールがもふもふで可愛いと言っただろう。
でも今は細かな動きを観察し評価していた。

それもそうだし、
一生懸命にノートを取っている姿は、
以前ならそれを頑張っているんだなと思っただろうけど、
今はその表情すら窺い、愛おしさすら覚える。

ふふっ、
愛おしさなんて言葉、いつから使えるようになったんだろうね?
あかりは。

もう一度、ちなつちゃんを見る。

ちなつ「…………?」

あかり「…………!」

っと……気付かれたかな……?

もう一度……

ちなつ「…………」

……可愛い。

はぁぁ。
どうしちゃったんだろう、あかり。

ちなつちゃんを見ると胸が高鳴る。

これってあれだよね、多分。

恋、だよね?

……まさか。





ちなつ「あかりちゃん!」

あかり「!!」

驚いて起き上がる。え? ちなつちゃん? え?

ちなつ「ほら起きて。もう4限終わったよ」

あかり「嘘ぉ!」

櫻子「あかりちゃんが……」

向日葵「まさか授業丸々居眠りとは……櫻子でもあるまいし……」

櫻子「なんやて? もっぺん言うてみい」

まったくだ。
あかりは一応目立たないなりにも真面目に過ごしてきたはずなのに……。

ちなつちゃんのことを考えていたらこんな……。

ちなつ「ほら、給食だよ。机動かして」





あかり「しかしまぁ」

どうしたもんかなぁ。あの場にいるのが耐えられなかった。
だからあかりは一人で教室を出てきて、こうして昼休みに花壇を世話をしているわけだけど。

あかり「園芸委員会はちょっとは仕事をしたほうがいいんじゃないかな……」

ならあかりが園芸委員になればいいじゃないか?
それじゃごらく部に顔を出せない日が増えちゃうでしょ。

京子「あかりー?」

っと、噂をすれば。

結衣「何やってるの?」

あかり「見てのとおりだよ」

京子「仕事でもないのに健気だなぁ」

あかり「そういえばなんでこんなところに?」

京子「散歩」

あかり「京子ちゃんらしいね……」

結衣「ほんと」

京子「ちょうどよかったよ。今日私たち、部活に出られないから。鍵だけ渡しておくよ」

あかり「どうして?」

結衣「私は今日は実家に帰らなきゃいけないんだ」

京子「私は金沢のほうに同人のイベントがさ」

あかり「そうなんだ。鍵は明日返せばいいかな?」

京子「うん、そうして。失くさないでよ?」

あかり「大丈夫だよ」

京子「あと、ちなつちゃんには、私たちは駆け落ちしたって言っといてよ」

結衣「ちなつちゃん昇天するだろうな」

京子「ははは! まぁ、そういうわけだから、ちなつちゃんにもよろしくね?」

京子ちゃんたちは去っていく。

なるほど。
今日はちなつちゃんと二人っきり……。





放課後。

ちなつ「え? ってことは今日先輩方いらっしゃらないの!?」

あかり「うん。でも部室の鍵はもらってるから」

ちなつ「そっか…………あかりちゃんと……」

何を言い淀んでるのかな。
聞かなかったことにしておくよ。

あかり「ちなつちゃんのお茶、飲みたい」

ちなつ「えっ」

あかり「駄目、かな」

ちなつ「ううううううん大丈夫おkめっちゃいいの淹れる」

色目を使ったわけじゃないけどさ。

あかり「部室に行こう?」






部室。

ちなつちゃんはせっせとお茶を淹れる準備をしている。

なんかお茶菓子ないかな。
押し入れのところに京子ちゃんがお菓子をストックしていたっけ。

ちなつ「はいったよ」

あかり「ん、ありがと」

これでいいや。

あかり「お茶菓子に合うかどうか」

ちなつ「プッキー? どこからそれを」

あかり「そこに、京子ちゃんが」

ちなつ「あー。なるほどね」

わかるんだ。

お茶を、一口啜る。

あかり「ん、今日の、なんか違う……?」

ちなつ「いつもは静岡茶だけど、今日のは宇治の玉露だよ」

あかり「もしかして……あかりのために……?」

ちなつ「特別といったら特別になるのかなぁ。これ、高級な茶葉だから、一回淹れる分しか持ってきてなかったんだよね……」

あかり「そ、そうなんだ」

あかりのためじゃないんだね……。

ちなつ「でも、あかりちゃんのためって言えば、ちょっと格好がつくかな。……二人だけの、秘密だよ」

あかり「…………!」

ちなつ「…………」ツン

あかり「……嬉しいな」

二人だけの秘密なんて言われたら、もっと意識しちゃうじゃん……。

ちなつ「秘密とでも言っておかないと、京子先輩がうるさそうだもん……」

あかり「ふぅん……」

湯呑みを卓袱台に置く。

あかり「…………」

もしかしたら、嫉妬していたのかな、あかり。

あかり「ちなつちゃんは、ずるいよ……」

ちなつ「え……?」

プッキーを開封する。

あかり「ああいうふうに、あかりに意識をさせて……」

ちなつ「えっと…………ううん?」

中の小袋を開ける。

あかり「ちなつちゃんはあかりとキスまでして何も感じなかったの……?」

ちなつ「そんな……! ちがっ……」

プッキーを一本取り出し、チョコの付いていない部分を咥える。

あかり「そっち、咥えて?」

ちなつ「…………でも」

あかり「……あの感触が忘れられないのっ……!」

ちなつ「…………」

あかり「さ」

ちなつ「…………」

ちなつちゃんはこくんを頷いてもう片方の先をちょこっと咥える。
可愛いなぁ。

目線が同じ位置に。

ちなつちゃんの目を見る。目を逸らした。

本当に素直になれないのは、ちなつちゃんなんじゃないかな……。

カリッ、カリッ。

乾いた音を立てて、プッキーが両端から徐々に短くなっていく。

顔と顔がどんどん接近していく。

両者の鼻息でプッキーのチョコがとろみを帯びてきた。

ちなつ「!!」

ちなつちゃんの首に手を回すと可愛く反応した。

これだから、もうちょっといじりたくなる。

プッキーを齧るスピードを上げる。

ちなつちゃんは焦ったように目玉をキョロキョロさせはじめた。

あかり「……んふ」

自分からはしてくるくせに、他人から迫られるとうろたえるんだね。

でも……、

そんなちなつちゃんも含めて、あかりはちなつちゃんが好きなんだよ。

ちなつ「んん……」

あかり「…………ちぅ……」

ちなつちゃんの口内にうずまるありもしないプッキーを、獲物を探し林を物色する蛇のような動きで舌先に全神経を集中させて蠢かせる。

ちなつ「んあ…………あぁ…………」

震えている。……可愛い。

そんな可愛らしい声なんて出されたら、あかりまで変な風になっちゃう……。

もう、遅いか。

唇が糸を引いて離れる。

どこか名残惜しい感覚を覚える。

腕を解く。

ちなつちゃんが力なく畳に落ちる。

柔らかそうな頬を紅潮させて、あかりのことを焦点合わずという感じで見つめていた。

ちなつ「…………あかりちゃん……」

あかり「…………」

ちなつ「…………わかってるけど、どうしてこんな……」

あかり「あの夏の日、ちなつちゃんはあかりに練習と称してキスをしたよね……。あの時逃げたのは、本当に怖かったんだ。大好きな友達が、そんな風に変わっちゃうのなんて」

ちなつ「…………」

あかり「でも、唇を奪われてから、ううんたしかにショックではあったけどね、でも……あの感触が、ずっとあかりの唇の神経に残って…………!」

ちなつ「あかりちゃん…………」

視界が涙で滲む。

瞼から流れ出た雫が頬を伝っていくのがわかった。

ちなつちゃんは戸惑いの表情を浮かべている。

あかり「あのね……ちなつちゃん。…………あかりはね、」

ちなつ「…………」



あかり「ちなつちゃんが欲しい」



あー。

言っちゃった。

ちなつ「………………だ」

あかり「…………ッ」

ちなつ「…………なんだ。そんなこと」

あかり「…………そんなこと、って……!」

ちなつ「…………ふ」

ちなつちゃんはふらふらっと立ち上がるとあかりを見据える。

あかりは、それを見上げる。

ちなつ「……えい」

あかり「……あっ」

仰向けに倒れてしまう。

その上に、あかりに覆いかぶさるようにちなつちゃん、

ちなつ「攻められてばっかじゃ、私っぽくないでしょ……っ!」

あかり「…………」

あは。

どこまでもちなつちゃんらしいよ。

あかり「そんなちなつちゃんが、あかりは大好きだよ」

ちなつ「……んんっ」

再び、唇が重ねられる。

今度はあかりが受け身…………か。

あの日と、同じだ。

でもあれだな。不思議と悪い気がしない。

あかりも、変わっちゃったなぁ……。






帰り道。

ちなつ「本当は、とっくに気付いていたのかもしれない」

あかり「…………何に?」

ちなつ「あの日もそう。結衣先輩のことを教えてもらうとか言って、本当は多分、あかりちゃんに会いたかっただけだったのかも」

あかり「…………」

ちなつ「私、結衣先輩の名前を悪用しちゃてたんだね………………最低だ」

あかり「…………うーん」

ちなつ「本当に結衣先輩には憧れていたんだよ?
そう、結局憧れでしかなかった。心の何処かでずっごい遠い存在に感じ始めていた。学年とか、いろいろあるけど、あの人の存在が大きいかな」

あかり「あの人……?」

彼女は無視して続ける。

ちなつ「でも、そんな虚勢を張る私をいつだって真剣に向き合ってくれたのがあかりちゃんなんだよね。本当だったらアホらしくて、誰にも振り向いてくれないような相談を、あかりちゃんだけは馬鹿正直にマジな顔して話を聞いてくれた」

あかり「えええひどくない!?」

ちなつ「こう見えても感謝しているんだよ、あかりちゃんに」

そんなことを言って見せる笑顔は、夕陽の反射もあってすっごい眩しかった。

あぁ、もう!

ちゅ!

ちなつ「……ぁ」

あかり「可愛かったから、ついね」

ちなつ「——何も口づけすることないじゃないっ!」

あかり「やられてばっかじゃ、あかりだって悔しいんだもん」

あかりはちなつちゃんのもふもふを撫でた。恥ずかしげに目を逸らすちなつちゃんも新鮮でいい。

あかり「まぁ……いろいろあると思うけどさ、頑張っていこうよ」

ちなつ「……何をさ…………」

あかり「……わかんないけど」

ちなつ「なにそれ」

ちなつちゃんは珍しく間抜けな声で笑った。

ちなつ「あかりちゃん」

あかり「なぁに?」

ちなつ「せっかくだから手繋ごうよ」

あかり「あー! それあかりが言おうとしたのに!」

ちなつ「攻めるのは私の役だから」

まったくもう、どこまでもちなつちゃんだなぁ。


そんなちなつちゃんがあかりは大好きだよ。