タクシーは、山里に向かいました。
山々そびえ、田があり、自然豊かな風びが目に飛び込んできます。




内観研修所は一般の家屋で、なつきは意気込んできたために、あっけない思いがしました。

他にも、入所者がいました。

スタッフ以外の人とは会話が禁止されているので、面と向かってもあいさつをしなくていいのは気楽でした。
人に気を使わなくてもいい、と感じると心が軽くなりました。


入所の手続きをし、研修する部屋に案内されました。
すぐに、簡単な内観の仕方の説明がされます。

小学校1・2・3年間の母親に対する自分、

1, お世話になったこと
2, して返したこと
3, 迷惑をかけたこと

この3つの課題が与えられました。


なつきは、小学校入学式に母親に連れられて校門をくぐっことを思いだしていました。


次に、妹とよくケンカしたこと。
して返したことは?
一度だけ、母の日にカーネンションをあげたっけ。

入所までの数時間、暇にまかせて列車の中で思いだしていたことを、ここでも繰り返し思いだすだけでした。


しばらくして、内観の面接者が来て、課題の答えを促しました。
なつきは、淡々と思い出した内容を返答しました。


面接者はそれに対して何も言わず、次の時間には小学校4・5・6年の母親に対する自分を3つの課題に添って調べるようにと言い残し、去っていきました。

夕食。


食事時に聞くようにと渡されるカセットテープには、内観解説と内観体験の2種類あります。


今回わたされたテープの内容は、なつきと同世代の女性がお母さんに対する自分を調べているものでした。母親に対して、憎しみと愛情が交差する内観体験を物語っています。

なつきはこころが揺れうごきました。


なぜか、分かりません。
懐かしさと悲しみと、憎しみと愛しさ。
情動が、嵐のように瞬間に湧きあがり、余韻を残しました。


内観一日目は、出来事を箇条書きのように思いだしていきました。
それは、感情が入り込まないモノトーンの過去でした。

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内観2日目。

なつきは、焦りました。


人生のイベント、入学式・卒業式・受験・下宿・就職……を想い出すだけで、脳裏に浮かぶ出来事が終わってしまうのです。


参考にして欲しいとわたされる内観体験のテープでは、体験者が鮮明に記憶が想い出している様子がありありと分かります。

体験者は、熱を出したときに看病しているお母さんに対して、目を覚ましたときにそこにあるお母さんの顔に安心感があったと話しています。


なつきは、内観体験者の語りに抵抗を持ちました。

私は、この体験者とは違う人生を歩んできたのよ、と。

私は、母親にそんなに大きな迷惑をかけたことなどない、困らせたことなど一度もないわよ、と怒りにも似た気持ちが湧いてきました。

ただ、なつきの人生のイベントに母親は、母親として参加しそれなりの金銭をかけてくれたことは確認できました。
経済的な世話を、なつみは母親からしてもらっていることを認めました。




母親に対しての自分は現在までの年齢を調べ終わり、次は父親のテーマに移りました。
幼少期を想い出そうとしても、父親の姿が浮かんできません。

父親は、なつきの小学校以前に起業したらしくほとんど家にいませんでした。
たまに居るとしても、寝ているかお酒を飲んでいたように思います。


なつきは、父親との関わりがあったのだろうかと改めて疑問に思いました。

考えていると、父親と母親が言い争っている姿が浮かんできます。
原因はなんだったか分かりません。

気を取り戻し、内観の3つの課題に添って調べてみました。


小学校1・2・3年間の父親に対する自分、

世話になったことは遊んでもらえなかったけど、一度だけ旅行に連れて行ってもらった。
して返したことは、お父さんにして返そうという発想自体がなかった。
迷惑をかけたことは、お父さんが家にいるときに兄弟ケンカをし、姉の私が怒られたこと、かな?


なつきは、母親以上に父親との関わりが思い出せないことに、さらに焦りました。

反抗期の中学時代。


父さんが、そばに寄ってくるのもいやでした。


煙たがられる父親が、ひとりでテレビを見ている姿がありました。

それに対して何の感情も、持たなかったなつき。

お父さんは、妹とケンカすると私ばかり叱った。
家事を手伝え、買い物をしてこい、たばこを買ってこいなど命令口調ばかりで腹ただしかった!!

でも、ずっと欲しかったピアノは買ってくれた。
高額の買い物で、ピアノが納入される日は父さんが家にいてくれて心強かった。
お父さんが家にいる日、私はピアノの練習をしていてうるさいと怒鳴られた。

なつきは、課題の3項目以外の「迷惑をかけられたこと」が想い出されてなりませんでした。世話になったことも認めますが、それ以上に怒りが出て仕方がありませんでした。




別室の研修生は、内観面接にはすらすらと返答していました。

なつきは、せかされるプローポーズの返事の迷いにノイローゼになってしまいました。

楽しいと感じることがなくなり、意欲もありません。
やっとの思いで、仕事だけは休まず行っいます。




職場には、なつきを心配してくれる先輩がいます。

なつきは、まじめな仕事ぶりに評価をもらっています。
ただ、強引に残業を押しつけてくる上司になつみは抵抗を感じていましたが何とかやっています。

なつみは、先輩のまさみとはそりが合いました。


まさみは、まさみに何かと相談を持ちかけたり、親しく依ってくるなつみに声をかけてきました。
そのため、なつみは他の誰にも言えないことまでもまさみには話をし、プローポーズされたことも、返事を迷っていることも聞いてもらっていました。


今までだったら、まさみに話をし、その後、飲みに行くと翌日は元気になります。
しかし、今回は違います。予想外のことでした。


「今のままでは、落ち込みが激しくてひとりでは立ちあがれない。
どうすればいいのだろう!!!」


なつきは、自分の心情を堰を切ったように語りました。
話している中でなつきは次第に落ち着いてきました。
そして、自分はへこみながらも、解決のための具体的な行動を模索していることを感じていました。


まさみは、これまでもなつきを励まし、なぐさめ、アドバイスをしてきました。
もはや、まさみから話すことはありませんでした。
じっと、なつきの話を聞いていました。

その後、笑顔で言い放ちました。



「行ってみたら、その研修に。気に掛かるのでしょう。
なつきは、内観をしてみたいと思っているんでしょう。
何かヒントがつかめるかもよ!」



なつきは、背中を押されたような気分でした。
まさみにO.Kをもらい、一安心した自分を発見していました。




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週末、内観研修が自分に合っているかどうかを内観研修所にメールで問い合わせました。


これまでも何回も恋人とうまくいかなかったこと、プロポーズのこと……。
母親と自分の関係……。

焦っているのに、こころは過去を探ろうとしていること……。




研修所からの返事は、一週間という休暇を取るのは大変だろうが研修をしてみたらとの誘いでした。

自分と恋人、そして母親と恋人の関係が内観して分かるかも、と。

ただし、内観して恋人に対する返事がいかなるものかは、なつきの判断によるというものでした。


なつきは有給が残っていたので、それを使うことにしました。
職場には、うまく言い訳をしました。




不安と期待。なつきは、明日旅立ちます。

なつきは、幼少期に母親から言われた一言を、大人になっても引きずっているというこの男性を軽蔑しました。

いい年して、まだ母親との葛藤を整理できないなんて……、と。


その後です。


なつきの幼少期に、自営業を立ち上げた両親が多忙きわめている後ろ姿を想い出しておりました。


そして、なつきは自分はいそがしい母親のために迷惑をかけないようにしてきたし、小・中学校ではそれ相応の成績を取り、心配なんてかけていないわ、
この男性と違って、私は良い子どもだったのよ、
と人事のように考えていました。


しかし、心の片隅にこのブログが残りました。


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週末、プロポーズされた彼から携帯にメールが入っていました。


いい返事を待っているよ、と。


なつみは、焦りました。
そして、導かれるようにして先日の男性のブログを見ていました。


男性が体験した研修。
どんな研修だろう?

と、リンクをクリックしました。
内観研修、というサイトでした。


内観?


はじめて聞く、研修でした。
一週間宿泊し、自分を見つめる方法を習得する。


小学校低学年時代、母親に対する自分について、

1 お世話になったこと
2 して返したこと
3 迷惑をかけたこと


この3つの質問から、紐解いていく。

調べる年代は、小学校低学年、小学校高学年、中学校……現在までで、
対象人物は母親、父親、パートナーなどを調べる。


集中して調べることによって人生の整理をし、過去の思い違いを是正し多面性を養える。
何よりも、対人関係が良好になるって!!!
失恋から立ち直った、とも書いてある。

なぜ?


なつきは、早くプロポーズの返事をしなければと焦っていました。
焦る気持ちは、次第になつきを追いつめていきます。


考えがぐるぐる回りだし、自己嫌悪に陥ります。


俗にいう、うつ状態になり食欲、睡眠に支障をきたしてきました。