創作小説『こうして店は消えていく』 (3-4) | 【実録・倒産社長の奮闘記】~こうして店は潰れた!~小林久ブログ

【実録・倒産社長の奮闘記】~こうして店は潰れた!~小林久ブログ

老舗スーパー三代目→先代の赤字1.5億円を2年で黒字化→地域土着経営で中小企業の星に→中小企業診断士試験に出題→早過ぎたSDGs →2017年まさかの倒産→応援団がクラファンで3,000万円支援→破産処理後は「笑って泣かせる」講演講師に。『現代ビジネス』コラムニスト


 
「スーパーとまと、最近おかしくないか?社長は店にいないし、息子もいろんな会を辞めちゃって付き合いも悪い。なんか金が厳しいって聞いたぞ」
 
そんな噂が市中を駆け巡る。「支払いの遅延」もすべての取引業者から断られるようになった。チラシ広告も前金にされたし、現金仕入れを強要された仕入先もある。

息子はいつも行くガソリンスタンドで給油の際、会社のクレジットカードを出したら「現金でお願いします」と言われ、驚きとともに惨めさを味わった。
 
👤「この借りは絶対返すからな!」負けず嫌いの血は父親譲りだった。
 
腹心の社員が辞めたいと申し出てきた。親の面倒を見るためだと言う。社長はその言葉を信じて笑顔で送り出した。規定もなかったが、わずかばかりの退職金を手渡して…。
 
「その分俺が働くから大丈夫だよ、人件費も浮くし」息子はそう微笑んだ。
 
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📞そこに一本の電話…。
 
👤「とまとの店舗をコンビニに転換しませんか?この立地なら近くにできたコンビニに勝てます。指導は本部でしますから収益も認めます。契約は10年間、11年目からは手取り収入も増えますよ!悪い話じゃないと思いますが…」
 
コンビニの開発担当者の打診に若い専務は怯(ひる)んだ。

「このまま苦労するよりコンビニにした方がいいんじゃないか?同じ苦労なら先の見えない今よりはずっとマシかも…」
 
しかし社長は、
👤「せっかくのお誘いですが、長年この土地で商売をさせてもらい感謝しています。この店がコンビニになることを地域の方もうちのご先祖様も望みません。お断りします!」と担当者を帰してしまった。
 
その夜、息子が「なんで断ったんだ?」と父にたずねると、「いい誘いだと思ったけど、借金まみれの我が家にはそれに乗り換えるための資金さえないんだ」と苦笑いした。金の苦労を解消するのに金が要るとは因果な話だ。

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その後も資金繰りの苦労は続く。
今度は電気代や水道代の支払いを先延ばしさせて月末をしのいだ。

翌月の中頃になると、未払いの督促状が届く。延滞料はわずかだし、謝りにも行かなくていいので常習化していく。ライフラインは払わなくてもすぐには止められないことも知っていた。
 
消費税や社会保険料の支払いも同様に繰り延べる始末。こちらはすぐに税務署や社会保険事務所から請求の電話が来る💦「支払いの延滞について話があるから来てください!」と次々に呼び出しがかかるようになった。

当然毎月払うべき金額に加え、滞納分を分割した額に延滞税が加算された支払いが合わせて押し寄せてくる。
 
そして払えない時には事前にそのことを謝罪し、誓約書を提出するために印鑑を持って出向く。しかし会って話せば彼らも鬼ではない。事情を察して対応策を一緒に考えてくれ「強制執行」の不安も取り越し苦労に終わった。

しかしその支払いのために、最後には従業員の給料を遅配して時間を稼ぎ、レジの釣り銭準備金まで資金繰りに充てる「火の車」となっていった。
 
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☝️「サラ金や街金に手を出してはいけないことは承知している。こんな時現れる再建専門業者にも要注意だ」社長も常識は持ち合わせている。
 
✅そんな時、会社に届いたダイレクトFAXに目を止めた。

「中小企業の資金繰りにお役に立てるビジネスローン、取り急ぎの融資枠を確保します。返済は分割で可、金利も年8%!」こんなうちみたいな会社にも金を貸してくれるのか? 

いやいやそんなうまい話がある訳ない。でも「簡易審査無料」と書いてある。物は試しで聞くだけ聞いてみるか、借りるつもりもないけど……
 
📞FAXに書かれた番号に電話すると明るい女性が対応してくれた。会社の内容を話し、融資可能かどうかだけを聞いた。「明日、融資の可否をメールにてご回答します」との返事だった。
 
翌日予想どおり「誠に残念ですが、今回は融資をすることができませんでした」との返事がきた(笑)。
 
その日を境に、名前を聞いたこともない様々な貸金業者から金利の高い融資の勧誘メールや電話が相次ぐようになる。

問い合わせをしただけで、その業界に信用情報が流れるのだ。そしてこんな小さな店のことを調べるために、信用調査会社が頻繁に訪ねて来るようになり、根掘り葉掘りぶしつけな質問を投げかける。
 
「どこからの依頼なんですか?」と聞いても「取引業者からです」としか答えない息子世代の担当者、あまり礼儀は知らないようだ。
 
「毎日こんなことばかりだ、いつまで店が持つのやら…」社長の酒量も増えていった。
 
嫁に行った娘の旦那からも金を借りて、家族中で必死の努力を続けていた「スーパーとまと」だが、ついに最後の砦である「銀行への返済」が厳しくなってしまった。なりふり構っている場合ではない。ここで初めて顧問税理士にすべてを打ち明けた。

税理士は言う。「社長、大丈夫、なんとかなるから!」どこかで聞いたセリフだ。
 
社長の願いはひとつ。
「俺はどうなってもいい、女房や息子夫婦だけは助けてやって欲しい!」
 
次回最終回、(形は違えど)社長の願いは叶う。

 

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