スタジオQ音楽の素晴らしさ | studio Q

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 政治と社会があまりにも酷いので、素晴らしい音楽の話を書きます。

 

<芸術芸能雑感:45

南麻布のセントレホールでSMS(サポートミュージックソサィエティ)のミュージック&ワインシリーズは、上質な音楽とワインが好きな私にとって理想的なサロン・コンサートです。3月10日にはアメリカで長く活躍されて、アメリカが選ぶ10名のピアニストにも選ばれた田崎悦子さんの素晴らしい演奏を聴きました。ご本人が「リストに恋をしています」とおっしゃるのがすんなり納得してしまう演奏でした。「リストがその辺に現れて悦んでいましたよ」と申し上げたら田崎さんもご機嫌で、打上げにまで付き合ってしまいました。やはりSMS主催《岩崎洵奈ピアノ・リサイタル》をオペラシティ・リサイタルホールで4月15日に聴きました。2010年のショパン・コンクールでディプロマ賞を受賞した岩崎さんの演奏は何度も聴いていますが、いつも素晴らしい音楽性に感動させられます。確かな技術に裏付けされていながら技術を感じさせないところが一流の演奏家の証なのかも知れません。

5月18日、第38回ミュージック&ワインシリーズで《Duo Yamamoto 山本悠加・山本彩加》姉妹ピアノデュオを聴きました。2人で1台のピアノを弾く本格的なピアノデュオは初めて聴きましたが、まずは「凄い!」の一言しか出てきません。欧米で評価されて活動されていることが納得できる凄さです。真面目でしっかり者の姉が仕切り、天衣無縫な妹が暴れまわる。三蔵法師と孫悟空が美しい姉妹に化けて現れてピアノデュオをしているのではないかと空想してしまいました。ベートーヴェン「4手のためのピアノソナタ作品6」メンデルスゾーン「アンダンテと変奏曲作品83a」とドイツの作曲家の作品に続いてフランスのプーランクの「4手のためのピアノソナタ」が演奏されました。しっかり者のドイツと楽しむことが上手なフランス、姉と妹がそれぞれの本領を発揮しているように感じました。プーランクは豊かな階級で19才の時の作曲だそうですが、曲には楽しむだけではない人生の何かを感じさせるものがありました。若くて豊かなのに、この深い哀しみのようなものはなぜだろう? 彩加さんが演奏前に、プーランクが徴兵で軍隊に入る直前3日間で書いた曲だと解説してくれたことを思い出しました。軍隊とはなにか、軍隊は戦争をするのが仕事、戦争とはなにか、人間が人間を殺すこと、なぜ人間が人間を殺さなければならないのか、プーランクはそういう思いを抱きながら作曲したのかも知れません。

ワインを飲みながらの休憩の後、第2部は木下牧子ピアノ連弾曲集「迷宮のピアノ」より3曲とガーシュイン「ラプソディ・イン・ブルー」が演奏されました。木下牧子という作曲家は初めて知ったのですが、才能のある作曲家だと感じました。合唱曲を多く書かれていて、それをピアノ連弾用にアレンジしたそうですが、確かにそういう広がりを感じました。ただし、1部で演奏された曲にあった苦悩する深みは感じません。日本人は哀しみますがヨーロッパ人のように、深く苦悩はしないのかも知れません。

私はアメリカの音楽や演劇、特にミュージカルが好きなので、ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」は心から楽しませてもらいました。アメリカは良いものは良いという精神であらゆるものを取り入れて自分たちのものを作り上げてきたのです。音楽や踊りだけではありません。地球上のあらゆる人種や風習、食事から衣服までどんどん取り入れて新しい世界を創ってきました。ガーシュインもジャズや民族音楽も取り入れながら混然一体となるオリジナル世界を創造しています。山本デュオは楽しくガーシュインの世界を展開してくれました。姉妹のドレスは和洋折衷で、帯地を使っていることに気づいていたのですが、ご本人も着物を取り入れてデザイナーが作ってくれたと話してくれました。アメリカ的な精神の衣装です。

アンコールでエルガー「愛の挨拶」を演奏してくれたので嬉しさは倍増しました。35年前になりますが、サンリオ製作のミュージカル・アニメーション「妖精フローレンス」で使わせてもらった曲なのです。花の妖精と音楽院のオーボエ少年の悩みと淡い恋をクラッシック音楽で展開するミュージカルアニメで、妖精はヴァイオリン、少年はオーボエで表現しました。音楽監督は山本直純、私は脚本を書いて音楽プロデュースをしました。ヴァイオリンはまだ18才だった漆原啓子さん、オーボエは宮本文昭さんにお願いしました。妖精のテーマ曲のように使ったのが「愛の挨拶」だったのです。

ミュージック&ワインシリーズの切っ掛けになった演奏の後でワインを飲みながら交流する会で漆原啓子さんに再会したことも思い出しました。とても幸せな夜になりました。素晴らしい選曲と演奏の姉妹ピアノデュオと主催してくれたSMSに感謝します。