「師匠、水原さん!二人でコミケに行くッス!」

「何よ、いきなり」

「推す者・推される者として、"推す"とはどういうことかの参考にすると良いっス」

「ちょっ、八重森さん?!」

「お二人の関係を深めるのにきっとプラスになると思うッス!」

「なっ...」

「ということでここからチケット買ってください。ちなみに自分も参加予定なので当日は現地で会いましょう」

「「......」」

 

ということで半ば強引ではあるが二人でコミックマーケット、通称コミケに来ることになった。

ニュースなどでよく取り上げられたりしているので存在は知っていたけど、今まであまり縁がなかったこともあって来るのは今回が初めて。

「魚の研究本とかあったりするかな」

「ははっなにそれっ。もしあったら面白そうね。でも先にみにちゃんと合流しましょ。それからでも遅くないと思うし」

「それもそうだな」

そんなやり取りをしつつ、みにちゃんがいるという西棟に向かう。

 

西棟のフロアに入ると、有名な作品や最近話題のもののコスプレをしている人でいっぱい。

中には時事ネタや、なんでそれ?ってチョイスのコスプレをしている人もいたりしていてちょっとクスッとしてしまう。

みにちゃんを探しながら歩いていると、ときどき露出多めな女性レイヤーが見受けられる。

そのせいなのか、彼はさっきから周りをキョロキョロしてばっかりいる。

「そんなに周りの女性レイヤーさんが気になる?」

「い、いやそういうわけじゃ...」

「ふーん...。とにかく、そんなことじゃ日が暮れるわよ。早くみにちゃん見つけなきゃ」

「ちょ、待ってくれよ水原~」

引き続きみにちゃんを探す。ただ、ほんの少し早足になっている自分に気付く。

...別に、早く合流したいだけで他に理由があるわけじゃない。別に何も...

 

そうこう考えているとみにちゃんを発見。事前に今回のコスプレ衣装を見ていたので遠目からでもわかった。

近づいていくと向こうもこちらに気付いたようで、

「あ、師匠と水原さ~ん。こっちっスー!」

と手を挙げている。

「お疲れっス~。ここまで無事に来れました?」

「みにちゃんもお疲れ様。噂には聞いてたけど人すごいわね、いつもこんな感じなの?」

「今はある程度落ち着いてきた方で、ピーク時はもっと凄いっスよ」

「へー、やっぱりコミケってすごいのね」

「レンカノでこういうところって来たりしないんスか?」

「何かの作品展とかそういうところは行ったりするけど、コミケはまだなかったわね」

「ほうほう、じゃあもしかしたら今後あるかもしれないっすね」

「そうね、そういう意味だと予習になってよかったかも。みにちゃんありがとね」

「お安い御用っス!」

そんなやり取りをしつつ彼の方を見ると、相変わらずまだそわそわしている様子。

「喉渇いてきたかも。あなたちょっと自販機で買ってきてくれない?種類は任せるから」

「え?お、おう」

「じゃあお願い」

「自分のもよろしくっス~」

そのまま彼が離れていくところを見届ける。

小さくなったところでそのまま口を開く。

「ねえみにちゃん。...コスプレって楽しい? 」

「楽しいっスよ~。もしかして水原さん興味あるっスか?」

「ちょっとだけね」

「おおー、なんでまた。...ははあ、なるほど。(何かを察する)」

「...なによ」

「大丈夫っス!師匠ならきっと喜んでくれるっス!」

「だ、誰もそんなこと言ってないわよっ

 ただ、レンカノでも女優でもいろんな服着ることになるし経験としてするのもいいかなって」

「真面目ッスね~。まあなんにせよ、自分が力になれることなら協力するっス!水原さんならバズって超人気コスプレイヤーも夢じゃないっス!」

「そこまでは目指してないけど...」

「とりあえずあれで行きますかね?いやでもあっちの方が...」

...完全に自分の世界に入っちゃった。まあいっか。

そうこうしてると彼が戻ってきた。

「とりあえずお茶買ってきたけど」

「ありがと」

「助かるっスー」

「八重森さん、なんかやけに笑顔だね。」

「よかったっスね!師匠!!」

「???」

「......。」

 

レンカノでもお客さんからの服装の指定はあるし、そういう部分はコスプレと少し近いのかもしれない。だから特別コスプレにこだわる必要はない。

でもさっきの彼を見てると、...なんとなく彼を取られそうになってる気がして嫌だった。彼がそういう反応しがちなのはわかってるし今更どうこう言うのも変だけど。

私のことを好きと言ってくれてるのをわかってるからこそ、あんな風な彼を見るともやもやする。

コスプレをしたところで何かが大きく変わるわけではないとは思ってる。でもそんな私にどんな言葉をかけてくれるか期待もしてしまう。

...はぁ。これじゃみにちゃんの言ったとおりね。結局彼にいい言葉をかけてほしい私がいる。

そういえば、前にも似たようなことがあった気がする。あの時はなんでそう思ったんだっけ。

この気持ちにも「名前」があるのかな...。

 

 

―コミックマーケットC101「MIYAJIMANIA」(アクアリウムしの助)寄稿

 

去年のコミケで制作に関わってた同人誌に寄稿した作品。
偶然にも最新話と近い内容なのと合併号の休載週なので久々にここに載せました。

コミックマーケットC103の1日目東キ18b「アクアリウムしの助」

にて頒布予定の新刊も寄稿してますのでよろしくお願いします。

 

 

実質「コスプレと彼女」なので先週話読み終わった後タイトル被ってたか確認した