ゆれる(’06)
監督は、『ディア・ドクター』 の、西川美和
最近の日本映画は、あまり観ないのだけど
この作品は、傑作だと思う。
評価も高く、映画賞も多々受賞しているようだが
もっと評価されても良かったぐらい。
例えば、歴代カンヌ受賞作と並べても、全く見劣りのない作品だと思う。
女にモテ、カメラマンとしても成功し、東京で派手に暮らす弟、オダギリジョー
家業のちっぽけなガソリンスタンドを継ぎ、女に縁がなく、老いた父、伊武雅刀と2人で暮らす
さえない兄、香川照之
この2人が久しぶりの法事に、故郷で再会するところから物語は始まる。
オダギリは、兄が思いを寄せている2人の幼馴染の女、真木よう子を送った後、そのまま部屋で抱いてしまう。
オダギリジョーは、色気のある俳優ですよね。
「舌出せよ」
と言って、ディープなキスをする。
それを言わせる西川監督も、やりますね。
抱いた後は、そっけなく帰っていくオダギリ
切りかけのトマトの断面がアップで映る。
オダギリが置いていった、煙草の空き箱の匂いを嗅ぐ真木よう子
その翌日、事件はおきる。
3人でドライブに出かけた渓谷のつり橋で、真木よう子が墜落死してしまう。
そばにいたのは、香川照之
事故か、殺人事件か・・・・
唯一の目撃者となった、オダギリの思いがゆれる・・・・
香川の思いもゆれる・・・・
今、思えば、真木よう子も落ちる直前まで、思いがゆれていたのではないか
それが、キーになっていたのではないかと思う。
関係ない話ですが、真木よう子が女優を志した時に、父親に反対されて
「だったら、援交してやる!」
と、啖呵切ったそうな。
お父さんも大変だ(笑)
ストーリーは、西川監督が自分の夢からヒントを得て、この映画のために書き下ろしたオリジナル
小説版も読んだが、なかなかの読み応えだった。
黒澤明監督の 『羅生門』 のように、ひとつの出来事の解釈が、二転三転する。
Aパターン、Bパターンと推理しても A' B' と更に枝葉が広がっていく。
しかし、ただ単に、“謎解きミステリー” ではなく
羨望や嫉妬、憎悪、様々な“ゆれる”心理描写を見せてくれる。
そして、ワンショットで観客を唸らせるものを西川監督は持っている。
先ほどの、トマトの断面のショットでの、情事の後の空しさであったり
少しさかのぼって、法事の時にオダギリと父、伊武雅刀との喧嘩の時
仲裁に入った兄、香川照之のズボンの裾に倒れたとっくりから、日本酒がぽたぽたとこぼれていく。
これだけで家族の関係、距離感を伝えている。
また、オダギリジョーが裁判での証言直前、みんなで居酒屋に行き、そこに出てきた鯛のお頭のアップ
フェリーニの 『甘い生活』 を思わせるショット
自分の目も同じようなものだ、とオダギリは思ったか。
びっくりしたのが、木村祐一の名演技
ぶっきらぼうで一本調子の起訴状の朗読
被告、香川照之に好意的な表情を見せていたかと思ったら一転
冷酷なまでに問い詰め始める。
西川監督は、キャスティングの段階から計算ずくだったか、それとも嬉しい誤算だったか(笑)
「僕の元の兄貴を取り戻すために」
オダギリジョーは、こう言って証言する。
額面どおり、この言葉を受け止めるか・・・
あるいは、ゆれる心の裏側を読んで受け止めるか・・・
香川照之のこの笑み
なんだったのだろうか・・・・
「やっと俺のことを判ってくれたか」
という安堵の笑みだったのか?
「ほら、やっぱりお前はそういう奴だ」
という軽蔑にも似た笑みだったのか?
それとも、別の意味を含んだ笑みだったのか?
香川照之の演技の素晴らしさは、わざわざ書かなくてもいいでしょう。
この作品、観るのは3度目なのだが、最初観たときのラストシーンは
なかなかの後味の悪さで、西川監督も
「ちゃんちゃんじゃ、つまらないじゃないですか」
と語っていたが、今回観て、なんて美しいラストシーンなんだろう、と思った。
タイミングといい、表情といい、絶妙だった。
4度目では、新たな発見、新たな感動があるかもしれない。
弟の猛は、故郷を離れ、東京でカメラマンとして成功。一方、兄・稔は実家のガソリンスタンドを継いでいる。母の一周忌に帰った猛だが、稔、幼なじみの智恵子と出かけた渓谷で、智恵子が吊り橋から転落死してしまう。
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