世界バレエフェスティバル Aプログラムの感想を書き始めたら止まらなかったので、各部で1記事が出来上がりそうです😅
白鳥の湖より黒鳥のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
マッケンジー・ブラウン
ガブリエル・フィゲレド
幕開けは、「分かりやすく、華やかに」ということで、シュツットガルト・バレエの最も若いプリンシパル2人が登場。
奇しくも、2人ともローザンヌ国際バレエコンクールで、世界から注目を集めたペア。
M・ブラウンは、元々が可愛らしい風貌ということもあり、オディールの冷酷さや魔性の魅力という点ではやや弱め。
華やかではあるのですが、「先生に言われた通りに正しく踊っているな~」という印象でした。
それが一変したのが、アダージオ中盤、通常であれば、窓辺にオデットの姿が映るシーン。
オデットが消えた後、戸惑う王子に「ほら、私を覚えていない?」とオデットのふりをするのが、よくあるパターン。
今回は、オデットが騙されている王子へ必死に訴えかけるシーンの曲で、オディ―ルが彼女のふりをするのですが(クランコ振付はいつもこれ?)、その姿がまさにオデット!
通常バージョンが、オデット率30%であれば(それでコロッと間違えるダメ王子😂)、M・ブラウンのそれは99%オデット。
黒い衣装を纏っていても、「オデットが来てくれた!」と思わせる化けっぷりで、それでいて「真っ白なオデットではなく、あくまでも悪魔の娘が見せた幻」という絶妙さ。
思わず、鳥肌が立ちました。
その次の瞬間には、元の黒鳥の姿で、クラっときた王子へ襲い掛かるよう。
一瞬の演じ分けが見事で、これは母も絶賛しておりました。
(「ジークフリート王子よ、今日は騙されても仕方ない」by母)
ヴァリエーション(まさかの男性Vaの曲!)では、得意の回転を要所要所で決め、フェッテもトリプルを入れる等、トップバッターとしての意気込みが伝わりました。
クランコ振付のオディールのVa。ラストのポーズが映画「ブラック・スワン」を彷彿とさせました。
M・ブラウンのフェッテ。オデット/オディールは、今年5月にデビューしたばかり。
対するG・フィゲレドは、ローザンヌで、男子とは思えない柔軟性で話題を呼んだ美しいダンサー。
この日のジークフリート王子も、メランコリックで上品なオーラは、この役柄にぴったり。
一方で、彼はガラでテクニックを魅せて光るというよりは、全幕を通じて観た方が良さが伝わる気もしました。
または、クラシックではなく、シュツットガルトが力を入れているらしい現代作品で、その身体性を思いきり見てみたかったかも。
クオリア
振付:ウェイン・マクレガー
音楽:スキャナー
ヤスミン・ナグディ
リース・クラーク
Aプログラムのコンテでは、これが一番見応えがありました。
昨年のロイヤル・バレエ・ガラ(姫路)でも上演されていて、この時も、面白いと思った作品。
タイトルの「クオリア」は、「我々の意識にのぼってくる感覚意識やそれにともなう経験」を意味する脳科学の用語だと、初めて知りました(恥)
そして、ロイヤルバレエでの世界初演が2003年と、結構前の作品だったとは!(コンテに疎すぎ💦)
とにかく、Y・ナグディの圧倒的な美しさを味わう時間でした。
クラシックの役柄でも、「踊りが上手い」と実感するバレリーナですが、その能力の高さを余すところなく発揮。
とりわけ、しなやかで雄弁な膝下が描き出す軌道には、惚れ惚れとしました。
ナグディがあれだけ自由に動けたのは、クラークのサポートあってこそ。
クラシックのイメージ強めでしたが、サポート中心とはいえ、コンテも良かったです。
アウル・フォールズ
振付:セバスチャン・クロボーグ
音楽:アンナ・メレディス
マリア・コチェトコワ
ダニール・シムキン
グラン・パ・ド・ドゥのコーダを思わせる曲で幕開け。
衣装もクラシックと奇抜さが融合したデザインで、「結構面白いかも?」と期待値高めでした。
2人のために、デンマーク王立劇場バレエ出身のセバスチャン・クロボーグが振付した作品で、2月にサドラーズウェルズで開催された「Empower in Motion: A Ballet Inclusive」というチャリティー公演でプレミア。
コチェトコワとシムキン、そろそろベテランの域だと思うのですが、テクニックの強さはまだまだ健在。
ハードな振付をさらっと踊ってしまうあたりは、流石ですよね。(フェッテの後で、あれだけ踊る⁉😂)
ただ、作品としては、「クラシックのパロディー」に振り切ったわけでもなさげ、小道具の象徴するものもあまり分からず、私はメッセージを受け止めきれず…。
くるみ割り人形
振付:ジャン=クリストフ・マイヨー
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
オリガ・スミルノワ
ヴィクター・カイシェタ
追加発表で嬉しい驚きだったのが、こちら!
これ、ローザンヌ国際バレエコンクールのガラで配信時に観ていて、すっごく良かったのです。
「くるみ割り人形をBGMとしたロミジュリ」みたいなイメージとでもいいましょうか、とにかく恋する2人の幸福感に溢れたパ・ド・ドゥ。
カイシェタ、ロミオをはじめ、こうした多幸感溢れる若者を踊ったら、ピカイチ!
マイヨーの振付に、彼自身のパッションが乗って、客席へしっかりと伝わってきました。
スミルノワ、予期せぬ出来事がきっかけとはいえ、西側へ出て、よりバレリーナとして開花したように見えました。
ボリショイ・バレエでクラシックの主役を踊っていた時より、自由な表現を見せ、「彼女って、ここまで生き生きと踊るバレリーナだったのか!」と。
ロシアでは、もっとクールな解釈が多めで、ライブシネマとか、調子が悪くても踊らざるを得ない事情があるのか…と心配してしまう時もあったので…。
「じゃじゃ馬ならし」でもそうでしたが、マイヨー作品が本当によく似合いますよね。
輝く衣装をまとった彼女、まるで女神のように輝いていました。
めちゃくちゃ良かったのにアダージオだけであっという間に終わってしまったので、もっと観たかった!
2人をゲストで、全幕を持って来てほしいです。
アン・ソル
振付:ジェローム・ロビンズ
音楽:モーリス・ラヴェル
ドロテ・ジルベール
ユーゴ・マルシャン
聖火リレーで見ていたはずの2人が目の前にいる、という状況を理解するのに時間がかかりました(笑)
そして、昨シーズン後半は、怪我で降板していたジルベールが、日本で踊ってくれているという奇跡。
私、まさかの彼女を生で観るのが初めだったので、アデューに間に合って良かった!
身体のラインを見ていると、まだまだいけると素人目には見えてしまいますが、「エトワール」としての退き際には、美学があるのだろうと思わされました。
マルシャンもそうですが、一歩足を差し出すだけでも、「フランスのバレエ」を感じさせるのですよね。
「これがフレンチ・メソッド」と言われたらそうなのですが、そのひと言で済ませてしまうのは勿体ないくらい、フランスの美学を感じさせました。
真っ白な衣装で、ラヴェルの曲に合わせて穏やかに舞う2人、あの間だけ、劇場中がフランスのようにゆったりとした時間に包まれた気がします。
(「あのどこか気だるい感じも、まさにフランス」by母)
