スキーにやって来た。

滑る前から夫の暴力で身体中、打撲の痛みだらけ。

 

夫は案の定ブーツを履くだけで手間取り、

手伝ってそれだけで20分。

こっちも汗だくで身体が冷えた。

 

でも、それはまだ序章に過ぎなかった。

何十回も滑った初心者コースに上がる。

リフト乗り場と降り場、それぞれでこけて、

デカい身体を私達では起こせないので

自力で立ち上がるのを待ってたらスタッフが駆け寄り起こしてくれた。

 

リフトに乗る時も体勢を崩し、

一緒に乗った息子がずっと覆いかぶさるようにして落ちるのを防ぎ、降りたらすぐこけた。

 

本番はここから。

初心者コースを降りるだけで転ぶこと十数回。

無様な姿で転がっていても

起こしてくれる人などいないから、

毎度私が自分の板を外して夫の板を外し、

立ち上がらせる。

 

私が板履くまで待ってて、先に滑らないでと何度言っても勝手に滑り出す、

そして5秒でまた転ぶ、

滑ってる最中もすぐ後傾姿勢になるので

「止まって!」「先に行かないで」と言っても聞かず、すぐに転ぶ、

腹立たしさに声を荒げながら起こしに行く、

その繰り返し。

 

左足のまひ、体幹の不安定さ、筋力の衰えに加え、

恐らく後半は疲労も加わり

立ち上がっては数秒で転ぶ。

ボーゲンしかできない私の体力も限界で、

見切りをつけて夫の板を私と息子で一本ずつ担いで滑り、

夫は歩いて降りてもらった。

散々だった。

 

来る前は、頻尿の夫に

厚手の尿漏れパットをつけさせ、

一本滑るたびにトイレに行かせなきゃ、

トイレで滑って転ぶと大変だから息子に一緒に行かせようとか

頭の中でいろんなシュミレーションをしてたけど、

無駄に終わった。

一本も滑ることなく退散することになったから。

 

スキーは、夫が前からずっと行きたいと言い続けてきた。

首を縦に振らない私を、そんなに金が惜しいのか、

僕の楽しみを全部奪うのかと罵倒し、

「パンツを履くときに片足上げるだけでよろけるような身体で滑れる訳ないでしょ、

行きたかったらもうちょっと真面目にリハビリやれ」

「スキーなんて簡単だ、身体が覚えてるから以前通りの滑りを見せてやる」

と何度も言い合いになった。

だから、予想を遥かに超えた無様さにも

気の毒とか辛いとかそういう感情は起きない。

ましてや昨日、こっちは死ぬほど殴られてるのだ。

 

今回のスキーは散々悩んで決行した。

下手になっていても初心者コースを降りてこられたら、夫は

やっぱり楽しい、これからも来たいから

もっと身体を鍛えようと思ってくれるかもしれない、

そんないい刺激にしたかった。

私と息子も、多少なりとも嬉しくなって、

頑張って支えてまた一緒に来ようという気持ちになれる、

そんなことを考えてた。

 

もしかしたら、もしかしたら

意外にもほんとに身体が覚えてて、

多少こけることはあっても

意外と中級コースを降りられたりするのでは?

という甘い期待もあった。

 

全て、無惨に打ち砕かれた。

 

いったん私も板を外して夫を部屋に入れるためにホテルにチェックインして再びゲレンデへ。

やっと息子に好きなように滑らせてあげられた。

 

明日は個人レッスンを受けさせ、

パラレルで滑れるようになってもらい、

来シーズンからは友達と一緒に来させてやれたらいいなと思う。

家族でのスキーは今回でおしまい。

父親のことで辛いことばかりの息子にはこの先、

楽しいことをたくさん経験してほしい。

 

息子は3歳の時にルスツでスキーデビュー。

ニセコを経て5歳からここ越後湯沢で毎シーズン2、3回滑ってきた。

家族の楽しい思い出が今回のことで全部かき消されそうだけど、

それは悲しすぎる。

幸せだったこともあったとちゃんと覚えておいて、

息子にはいつか自分が作る家族ともこんなイベントを大切にしてほしい。

 

私と息子が部屋に戻り、

また夫と言い合いになった時、

この人はまた「誰にも迷惑をかけてはいない」と言い放ったのだ。

腹が立って、一発蹴りを入れるのを堪えきれなかった。

 

鏡に自分の裸を映してみたら

お尻、太もも、乳房、腕、あちこち大きな痣だらけで隠しようもなく、

温泉はあきらめた。

顔は夕べ、必死で冷やしたので目立つ痣はない。

 

夫は以前は腕を集中的に狙ってきて、

顔の痣を気にしたことはないけど、

最近は暴力の頻度は減った分、

明らかに顔を狙ってくる。

しかも以前にないほど執拗に殴ってくる。

 

許せない、萎える。

積み重ねてきたものが毎度いとも簡単に崩れる。

私は前世でどれだけの罪を犯し、

こんな罰を受けているのかと思ってしまう。

 

この障害の多くの当事者がこうだとは全く思わない。

当事者の会では皆さん、穏やかで

私達に優しくアドバイスしてくれ、

励ましてくれる。

 

私が忌み嫌い、許せないのは

たった1人の当事者、自分の夫だけ。