☆運 | 『砂肝日記』

『砂肝日記』

      (・・)
酔っ払って明け方になると話をしたくなるのです。
心底無価値な人間がくだらないことを書いてます。

  ・・・読まないでください・・・

「自分はなんて運が良いのだろう・・・」


ひとしきり雨が降ったね。

パラパラと来た時にベッドに横になりずっと外を見ていた。

遠くで鳴っていた雷が段々と近づいてくるのがわかった。

すごい豪雨だったな。ウチの近所だけかもしれないけど、

ピョン太はオレの横でキチンとフセをして外を見ていた。

豪雨や雷が大好きなんだよ。

あの大地震の時も、運を天に任せるような冷静な態度だった。

やっぱり彼は、一度死んでいるから、強いんだ。


湿ってはいるが風が冷たくて気持ちよかった。

今は雨もすっかりやんで静かな夜が戻ってきた。


「自分はなんて運が良いのだろう・・・」


ここ数年、空が怒りっぽくなっているようだね。

地上を見下ろしてイライラしているかのようだ。

空は人間に何かを思い出させようとしているのもしれない。

・・小規模ではあるが目の前にはカオスの世界が広がっている。

雷と雨の音を聴きながらいろんなことを考える。


「自分はなんて運が良いのだろう・・・」


地球の誕生が46億年前とされている。

人類の誕生が500万年前とされている。

「最後の忠臣蔵」や「一命」で描かれていた時代、

幕末なんて150年~180年前だ。

つい最近ではないか・・・。

本当についついつい、最近だよ、、それが信じられない。


「自分はなんて運が良いのだろう・・・」


明治以降の進歩のスピードは異常なものがあるよね。

時代は緩やかな河を大きな船に乗って流れていたのに

明治あたりから河が狭くなり流れも段々と激しくなってきた。

やがては岩場だらけの激流に変わり、

ついに大きな滝壷に向かっている・・そのようにしか考えられない。


「自分はなんて運が良いのだろう・・・」


生まれてくる時期をちょっと間違えたらとんでもなく

不条理な目に合わされていた。

魂を否定され時代に殺されていた。

二十歳にも満たない若者が武器を持たされて

他人の命を殺めるために訓練をさせられた。

挙句の果てに自らも絶命する。

映画などに描かれているものなど比べ物にならないほど

残酷な現実があったことが容易に想像できる。

薬や酒を飲まされ片道分の燃料しか残っていない

飛行機や潜水艇に乗り自ら爆弾となる。

平和な田舎町の夏休みの午後を襲った殺人兵器。

人間ってのは、なんてことやっちまうんだ・・・。

そんな人間の暴挙を空はいつも黙って見ていた。。


「自分はなんて運が良いのだろう・・・」


自分が20代の頃それはもうとんでもない世界を見てきた。

所謂、社会の底辺をイヤになるほど味わった。

今も悪夢となって蘇るのはこの時期の経験だな・・。

この時期は心だけでなく身体もボロボロになった。

今、脊柱菅やら腰椎、左の肺や両膝、もちろん指も・・。

傷めることになった、元はこの時代にあるんだ。

この頃のことは人には話さず、、いや話せず・・。

もちろん日記に書いたこともない。


「自分はなんて運が良いのだろう・・・」


もし、運悪く・・いや、当たり前にこの時代に残されていたら

たとえ生きていたとしても今頃廃人となっていただろう。

残されていることの方が当たり前なんだよ。

そうならなかったのは自分は「運が良かったから・・」

ただ、それだけ・・。

もちろん、努力は尊いものであり、絶対に怠っては

いけないものではある。



ブレードランナーなどに描かれたような近未来が来ることは

もう絶対にあり得ない。

そんなことはすでに誰もが知っていることであり、

「この先人類はどのように滅びていくのだろう・・」

まともな人間は潜在的にそう感じているに違いない。


だからね・・だから、何をしなさいとか、何をしようとか、

そんな偉そうなこと言うつもりはない。

ただ、ただ、言いたいのはこの日記を読める環境にあるってことは

ただ、ただ、それだけで「運が良かった」ということなんだよ。


自分の境遇を当たり前のものとして感じてる人がたくさんいる。

批判はしないがそんな人間と話をする時間は無駄なんだ。

ただ、それだけ・・。



ジワタネホの海岸、広くて美しい青空の下、

抱き合うアンディとレッドの姿を観て、オレは自分を恥じたんだ。




自分はなんて運が良かったのか・・・。