日本で「誕生日」といえば、主役は親しい人々からプレゼントを受け取り、食べたいものを家族や友人にご馳走してもらうというイメージを抱くだろう。

 

自ら何も行動を起こさなくとも、「誕生日おめでとう、つまらないものだけれど、これどうぞ」「何が食べたい?ケーキは何がいい?」そんな甘い言葉をかけてもらえる、一年で最も甘やかしてもらえるステキな日だ――少なくとも子ども時代はそう思っていた。

 

けれど、異文化とは本当に面白い。カメルーンでは誕生日の主役こそが自ら一念発起し、普段親しくしている人に声をかける――「今週末、私の誕生日パーティーをするのだけど、どうかしらん?」

 

10月17日は私のお隣さんであるラリサの23歳の誕生日だった。

 

私より年下の彼女だが、8歳の長女メメと2歳のマヌーという二人の娘を持つ。子育ての苦労からか、一見私の年下とは思えない貫禄があるのだが、中身はまだまだときめきを忘れない可愛い少女なのである。

 

私が21日に誕生日パーティー開催を予定しているのに便乗して、彼女も小規模なパーティーを自宅で行いたいと言いだした。

 

当日の早朝からマルシェで買い物をし、風邪気味の喉をゴホゴホ言わせながら野菜を切り、鶏を捌き、魚を焼き、飯を炊き、ケーキを焼いていた。手早く食材をさばく分厚い手の先に青い付け爪がくっついている。誕生日のために美容院へ行き、朱色のつけ毛をつけておめかしをしている。家事に追われながらもお洒落には抜かりがないところも女子である。血のつながっていないメメは義母の言いつけであれこれ手伝いをする。

 

彼女の料理は非常に美味である。

日本のウマミが効いた旨さというよりは、味がしっかりついていて、食材それぞれがしっかり生かされた料理という感じである。魚の炭焼きに添えられる調味料は家庭によって味が違うのだが、私はラリサの作るものが一番おいしいと感じる。

 

「Condiment vert」や「Piment」は野菜や唐辛子をすりつぶして油と混ぜたものが主な調味料である。

 

お祈りをして、食事を静かに食べた後に音楽をガンガンに流してダンスをするのがカメルーンらしいフェット(フランス語でパーティの意)だ。

 

彼女の兄弟と、エバルさんと、同任地隊員のみぽりんと、お世話になっているガルディアンが集結し、にぎやかに、平和な夜が過ぎ去った。

 

彼女の誕生日が過ぎて間もなく、土曜日の21日には私の24歳の誕生日がやってくる。

 

カメルーンで過ごす最後の誕生日なのだから、カメルーンの女性らしく誕生日を過ごしてみたい――そんな軽い好奇心で、とんでもない規模のパーティーを計画してしまった。

 

大きなバックを抱えてマルシェに走った。炎天下の道を避けるように、人々が陰を辿っている。炭火焼の魚の香りが漂い、喧騒の中に埋もれた私を、行きつけの店のおばさんが見つけて現地語で挨拶をする。

 

初めて、ラリサと一緒にマルシェを歩いた。肉付きのいい鶏肉を見極める方法(鶏の胸元が平らなものを選ぶ)や、おいしい魚が売っている店をラリサが教えてくれた。さすが、カメルーンの女は店をよく知っている。買うものが大量にあるにもかかわらず、30分ほどですべての買い出しを終えることが出来た。

 

あとはただひたすら料理を仕込んだ――太陽が西に傾き、空の色が無限に変化し、黒い雨雲がやって来ては大粒の雨が地面を叩き鳴らし、時間を忘れて必死に料理をした。

 

警備員のヴァンサンが畑から持って来てくれた「ンドレ」という野菜は、苦みを除くために何度も洗わなければならないのだが、彼はそれを半日以上洗い続けてくれていたし、ラリサは魚と鶏を手早く捌き、ピーナッツソースを作っていた。私はカレーと唐揚げを仕込み、当日焼くため

のお好み焼き用キャベツを切り刻み続けていた。

 

彼女らの助けが無ければ、これほどの量の料理を作ることはできなかっただろうし、そもそもフェットをしようなんて思わなかっただろう。

招待したのは約40人の同僚。ニーナ中学校で働く先生たちである。

 

それに加えてお世話になっている自宅の警備員さん、お隣さん、同任地の隊員たち…合わせて50人を予定していた。

 

麦酒にワイン、日本料理にカメルーン料理をテーブルに並べ、手書きで作った料理名の札を飾ると、見事に自宅がビュッフェ・レストランと化した。

 

 

21日当日は朝から雨が降っており、昼に止むのか不安になりながら唐揚げを揚げていた。

 

しかし朝の雨は嘘のように晴れ渡った昼下がりに、おめかしした同僚たちが次々に我が家へ到着した。エバルさんの貸してくれた40台のプラスチックの椅子が非常に役立ったことは言うまでもない。

 

お祈りをし、静かに食事をする――カメルーンでは、食べながら話す文化が無いらしく、食事中は非常に静かなのである。

 

食べ終えたところでギターや太鼓で歌い踊り、酒を嗜む。西日が強く射し、雲が切れた深い青空がオレンジに染まっていた。体にたまった疲労感はピークに達していたけれど、皆の幸せそうな顔を見ていると、「開催してよかったなあ」と思えた。

 

ラリサがいなければ、同僚を全員呼ぼうなんて思えなかっただろうし、実現も難しかっただろう。

 

「沢山助けてくれてありがとう」と心の底から染み出た言葉を口にしたとき、「あんたも沢山助けてくれるから、お互い様ね」と笑い返してくれた。

 

前向きで、タフで、強気だけれど女性らしくって、可愛らしい一面もあるラリサ。

大好きな、カメルーンの家族の一人なのです。