私のお父さん的存在の同僚、エバルさん。

 

ムバルマヨを訪れた他の日本ボランティアの何人かが既にお世話になっている――あの、ぽっちゃりで笑顔がかわいいおじさんだ。

 

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任地配属直後に、前任の紹介で彼と知り合った。

まだ馴染めていなかったムバルマヨの街の一角で、初めて温いビールを飲みながら話をしたのを覚えている。農業に詳しくって、言葉選びが上手で、ピンク色のY シャツやポロがやたらと似合う。

 

会話をするときに私が辞書を引いてノートに単語を書き込む間、忍耐強く待ってくれて、言葉も丁寧に選んでくれて、文法の間違いはその都度正してくれた。

 

彼のお陰で最近では、普通のスピードで話をする人々が言っていることはほぼ、100%理解できるようになった(と思う)し、カメルーン訛りではあるけれどフランス語も随分と上達したように思う、多分ね、主観的にはね。

 

農業を本業としている彼だが、ニーナ中学校で理科と数学を教えてもう20年以上が経つというベテラン教師でもある。

 

ひいき目なしで、彼は教えるのが上手だなあと思う。教える相手の側に立って気持ちを汲み取ることができるから、生徒達にも人気がある。何度、「彼に数学を教わりたかった」と感じたことか。

 

私や、他の日本人ボランティアを気にかけてくれて、問題があれば助けてくれるし、時間があれば一緒にバーに赴き、たわいもない話をする。家族のような存在でありながら、職場では一緒にチームとして働くことのできる良き同僚でもある。

 

しかし、残念ながら、そんな深い優しさを持つ彼に対して嫉妬心を抱く人間がいる。

ニーナ中学校の校長は、外国人ボランティアと親しくする彼が気に入らないようだ。

 

昨日、エバルさんがニーナ中学校の校長から受け取った一枚の手紙。

 

「本校で最も問題とされる教師」

と冷たい文字が並んでいる。

 

校長が授業を巡回しているところなんて見たことも無ければ、彼が教師の労働態度を評価できるほど学校の状況を把握しているようにも思えない。

 

筋の通らない理屈が並べられたその文章があらわしているのは校長の嫉妬心だけだった。

 

彼は子供同然だな、嫉妬心をこんな形であらわすなんて――と言いながら、少し顔に影を落として思い詰めていたが、すぐに肩をすくめてふっと笑う。

 

「こんなことで悩んでも時間の無駄だな。先のことを考えようと思う」

 

 

私は、校長にはもちろんだが、こういったリスクを前提に置かずに目先の人間と関わっていた自分自身に憤慨した。なんで、エバルさんがこんな目に合わなければならないんだ――ある意味、彼と親しくしている私のせいだった。

 

エバルさんは、自分がそんなひどい目に遭ってもなお、「あんまり自分を責めちゃいけない。ぴょんは、自分の任期最後までしっかりやり遂げるんだよ」と言って笑うのだった。

 

自分が何かひどい目に遭った時、ここまで他の人に気をかけられるだろうか、優しくなれるだろうか――そんなことをおもって、少し目頭が熱くなるのを感じた。

 

ニーナ中学校での活動は難しい。

何度投げ出したいと思ったことか。

 

「やっぱもう帰った方がいいんかな」ってこれまで何十回と思ったけど、帰らずにここにおるのは、やっぱ、カメルーンが好きやからなんだな。

 

空の色、深い森、背の高い木々、ボロボロのタクシー、器用な職人たち、同僚との握手、お隣さんの美味しい料理、雨の音、そして大好きな人たちの、「帰るな」という言葉――そんな全部が愛おしくてたまらなくって、嫌なことも悲しいことも全部ひっくるめて、自分の成長とか前進に繋がってると思える。だから、何回もやり直せる。

 

温かい人々が支えてくれることで、なんとかここに立ってる自分が居る。

 

傷つけられても、嫌な目に遭っても、「気にすんな、頑張れ」と言ってくれるこんな素敵な仲間と、一生のうちに何人出逢えるのだろう?

 

 

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