和名:ブナ 橅
学名:Fagus crenata
別名:シロブナ、ホンブナ、ソバグリ
分布:北海道(渡島半島以南)・本州・四国・九州(鹿児島県高隈山が南限)。日本固有種。
樹高:20~30m 直径:1m 落葉高木 陰樹
冷温帯の山地に自生する。湿った所に多く、乾いた場所ではミズナラが優勢となる。日本海側の多雪地帯では純林をつくるが、太平洋側ではミズナラなどとの混交林となる。太平洋側地域のものは、現在から200~300年前(江戸時代)の小氷期と呼ばれる寒冷・湿潤な時代の生き残りであり、その後の気候変動によって現在では後継樹が殆ど育っていない。分布の北限は北海道黒松内町とされるが、近年はさらに北東でも生育が確認されており、2010年には豊浦町礼文華峠、2013年にはニセコ山系でも発見されている(※①)。
葉は葉身4~9cm、葉柄0.4~1cm。側脈は7~11対で、縁は波打ち、葉脈の部分で少し窪む。日本海側のもの(写真)は太平洋側のものに比べ、葉が薄くて大きく、長さ10~17cm。北海道・本州日本海側多雪地帯に分布する葉が大形のものをオオバブナ(var.grandifolia)、宮城県金華山以南の太平洋側に分布する葉が小形ものをコハブナ(var.undulata)と区別することがあり、両者の間には遺伝的な違いも見られる。
花は4~5月。雄花は垂れ下がり、雌花は上向きにつく。2年連続で花をつける個体は殆どない。
果実。10月に熟し、1つの殻斗に2つの堅果が入っている。堅果は食用となり、森の動物達の貴重な食糧となる。豊凶が激しく、2~3年に一度並作、5~6年に一度大豊作になるが、それ以外の年は不作である。不作年にはシイナや虫害種子が多い。堅果に小さな穴が開いていることがあるが、これはブナヒメシンクイという蛾の幼虫の食痕である。
樹皮は灰白色で滑らか。コケ類や地衣類が付着して斑模様に見えることが多い。材は腐りやすく、狂いも多いが、防腐・加工技術の向上により、家具、合板、車両、パルプなどに利用される。和名は「分のない木」という意味で、材が腐りやすく、木材として利用できる部分が少ないことに由来する。
生長は非常に遅く、樹齢40~50年・胸高直径20~30cmになると開花・結実するようになる(※③)。生長のピークは、樹齢80~130年頃である(※②)。寿命は200~300年で、最長で450年ほどになり、樹高35m・幹周り8m以上に達することもある(※②)。
実生。ブナ属は、発芽時に子葉(双葉)を持ち上げる。
豊作年の翌春には沢山の実生が見られるが、秋まで生き残るのはごく僅かである。稚樹は陽光を好み、生き延びた幼木は被陰下で数十年耐える。
森林は地表に降った雨や雪を地下水として蓄え、湧水として徐々に流し出す。森林は洪水や渇水の緩和、土砂流出防止、水質浄化機能などの役目を果している。ブナの森は特に保水力があり、「緑のダム」ともいわれている。ブナは建築材には不向きであるため、戦後になると次々と伐採され、スギやヒノキなどの人工林に置き換わっていった。ブナ林を失った地域では、洪水や土砂崩れなどの被害が多発している。
【関東周辺のブナ林】
<日本海型>
・福島県:御池古道(七入~御池)、会津沼田街道(七入~沼山峠)、只見町
・新潟県十日町市:当間山、美人林、天水越
・新潟県湯沢町:トレッキング湯沢Ⅰ、ガーラ湯沢、苗場山
・長野・新潟県:鍋倉山
・群馬県:鳩待峠周辺~山の鼻、谷川岳・一ノ倉沢・白毛門、奥利根水源の森、玉原高原・鹿俣山・尼ヶ禿山~迦葉山、武尊山
・栃木県那須塩原市:那須岳
・長野県木島平村:カヤの平高原
・長野県飯山市:鍋倉高原、斑尾高原
・長野県長野市:奥裾花自然園
・長野県小谷村:雨飾高原
<太平洋型>
・茨城県:八溝山、花園山、奥久慈男体山、吾国山、加波山、筑波山
・栃木県日光市:いろは坂周辺・男体山南麓・中禅寺湖南岸・戦場ヶ原
・埼玉県小川町:笠山(町指定天然記念物)
・埼玉県秩父市:三峯神社奥宮・お清平付近
・東京都:高尾山、三頭山、天目山~仙元峠、鷹ノ巣山(稲村岩尾根、浅間尾根、水根山~榧ノ木尾根)、天祖山、金袋山など
・山梨県:鶴寝山~大マテイ山、牛ノ寝通り、柳沢峠、大菩薩嶺(裂石~上日川峠・丸川峠)、滝子山、今倉山~二十六夜山、御坂山・黒岳、鍵掛峠南・雪頭ヶ岳南西、山中湖村平野長池天神社周辺、三国山、精進口登山道二合目、大室山
・神奈川県丹沢山地:鍋割山、塔ノ岳、丹沢山・蛭ヶ岳、檜洞丸、大室山・加入道山
・神奈川県箱根町:金時山、ポーラ美術館、三国山
・静岡県:函南原生林、天城山(天城峠・水生地下~八丁池~万三郎岳~四辻)、越前岳(愛鷹山)
関東周辺には日本海型ブナ林・太平洋型ブナ林の両方が分布する。日本海型気候域である群馬県みなかみ町では、標高約600~1600mにブナ林が分布する。太平洋型気候域でも生育標高は同程度であるが、禁伐地とされた高尾山に残存していることを考えると、スギ・ヒノキ人工林や二次林に転換されなければ、もっと低標高域にも生育していたのかもしれない。各地のブナ林を訪ねたが、同じブナでも場所によって見た目が大分異なっている。玉原高原では樹皮が白っぽく、高尾山では樹皮にコケ類が少ない、天城山系ではコケ類が多い、筑波山・箱根ではずんぐりした樹形であった。
ブナ林を観察するには奥山までの登山が必要となる。関東周辺で交通アクセスが良く、手軽にブナ林を観察するなら、一ノ倉沢、玉原高原、筑波山、三頭山、鶴寝山~大マテイ山、箱根町・三国山、八丁池などがお勧めである。
群馬県沼田市・玉原高原のブナ。当地のブナ林は関東随一と称され、高原の両端にそびえる鹿俣山・尼ヶ禿山に至る道の周囲にもブナ林が広がっている。玉原高原では1929~1944年までの15年間、国策によって大規模なブナ林伐採が行われたが、戦後になると放置され、現在は極相林に近くなっている。植生区分はブナ-チシマザサ群集で、純林に近いブナ林になっている。群馬県では中之条-三国峠-沼田を結んだ線が、ブナ-スズタケ群集(太平洋型ブナ林)とブナ-チシマザサ群集(日本海型ブナ林)の境界線になっている。
東京都・三頭山のブナ。三頭山は東京都水源林に含まれている。江戸時代から伐採が禁じられ、江戸時代には天領として幕府が直轄する御林山、明治時代になってからは皇室の御料地となっていた。東京都でまとまって残っているブナ林は三頭山と日原川流域だけで、大変貴重である。三頭山のブナ林は林床にササを欠く特異なブナ林で、植生区分はブナ-ツクバネウツギ群集である。植生はブナが優占し、イヌブナ・ミズナラ・クリ・カエデ類などが混生する。
静岡県・天城山系のブナ。天城山のブナ林は国指定特別保護地区で、八丁池とその周辺、戸塚峠~小岳~万三郎岳~万二郎岳までの地域の2か所が指定されている。天城山は年間3000ミリもの降雨があり、湿潤な環境を好むブナの生育に適している。植生区分はブナ-スズタケ群集だが、現在はニホンジカの増加に伴う食害により、スズタケは殆ど見られない。ブナ・ヒメシャラが優占する林である。
<参考資料>
①大久保達弘 校庭の木・野山の木6 ブナの絵本 (まるごと発見!校庭の木・野山の木) 農山漁村文化協会 2017年
②小林誠・伊藤千恵・鶴智之・鈴木誠治・永野昌博・村山暁 ようこそ雪里のブナ林へ ブナってどんな木? 十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ











