2017年10月12日掲載

2022年10月18日改訂・再掲載

2024年6月24日改訂

 

和名:ブナ 橅 

学名:Fagus crenata

別名:シロブナ、ホンブナ、ソバグリ

分布:北海道(渡島半島以南)、本州、四国、九州(鹿児島県高隈山が南限)。日本固有種。

樹高:20~30m 直径:1m 落葉高木 陰樹

 

冷温帯の山地に自生する。湿った所に多く、乾いた場所ではミズナラが優勢となる。日本海側の多雪地帯では純林をつくるが、太平洋側ではミズナラなどとの混交林となる。太平洋側地域のものは、現在から200~300年前(江戸時代)の小氷期と呼ばれる寒冷・湿潤な時代の生き残りであり、その後の気候変動によって現代では後継樹が殆ど育っていない。

分布の北限は北海道黒松内町とされるが、近年はさらに北東でも生育が確認されており、2010年には豊浦町礼文華峠、2013年にはニセコ山系でも発見されている(※①)。

 

葉は葉身4~9cm、葉柄0.4~1cm。側脈は7~11対で、縁は波打ち、葉脈の部分で少し窪む。日本海側のもの(写真)は太平洋側のものに比べ、葉が薄くて大きく、長さ10~17cm。

北海道・本州日本海側多雪地帯に分布する葉が大形のものをオオバブナvar.grandifolia)、宮城県金華山以南の太平洋側に分布する葉が小形ものをコハブナvar.undulata)と区別することがあり、両者の間には遺伝的な違いも見られる。

 

花は5月に開花し、果実は10月に熟す。2年連続で花をつける個体は殆どない。

果実。1つの殻斗に2つの堅果が入っている。堅果は食用となり、森の動物達の貴重な食糧となる。豊凶が激しく、2~3年に一度並作、5~6年に一度大豊作になるが、それ以外の年は不作である。不作年にはシイナや虫害種子が多い。堅果に小さな穴が開いていることがあるが、これはブナヒメシンクイという蛾の幼虫の食痕である。

写真の果実は、群馬県沼田市玉原高原で採集したもの。2021年秋は玉原高原のブナが豊作であった。

 

樹皮は灰白色で滑らか。コケ類や地衣類が付着して斑模様に見えることが多い(東京都三頭山にて撮影)。

材は腐りやすく、狂いも多いが、防腐・加工技術の向上により、家具、合板、車両、パルプなどに利用される。和名は「分のない木」という意味で、材が腐りやすく、木材として利用できる部分が少ないことに由来する。

樹形(玉原高原にて撮影)。生長は非常に遅く、樹齢50年・径20cmに達すると結実するといわれる。寿命は200~300年である。

 

実生。ブナ属は、発芽時に子葉(双葉)を持ち上げる。

豊作年の翌春には沢山の実生が見られるが、秋まで生き残るのはごく僅かである(2022年6月、玉原高原にて撮影)。稚樹は陽光を好み、生き延びた幼木は被陰下で数十年耐える。

 

東京都の水道水源林である山梨県鶴寝山のブナ林。森林は地表に降った雨や雪を地下水として蓄え、湧水として徐々に流し出す。森林は洪水や渇水の緩和、土砂流出防止、水質浄化機能などの役目を果している。ブナの森は特に保水力があり、「緑のダム」ともいわれている。

ブナは建築材には不向きであるため、戦後になると次々と伐採され、スギやヒノキなどの人工林に置き換わっていった。ブナ林を失った地域では、洪水や土砂崩れなどの被害が多発している。

 

【東京のブナ】

・高尾山(標高599m)

高尾山は標高599mの小さな山だが、標高380mからブナの生育が見られる。高尾山では74本(2011年現在)のブナが存在するが、いずれも樹齢200~300年の大木ばかりで、若木や稚樹は全く見られない。近隣の山は二次林や植林帯ばかりでブナは全く見られないが、薬王院のある高尾山では寺法によって草木の伐採が禁じられたことなどから、今日までブナが生き残ることができた。

写真の個体は高尾山で最も姿形が美しいブナで、「美人ブナ」と呼ばれている。

・三頭山(標高1531m)

東京都では奥多摩町日原川流域の標高1000~1700mにかけての山腹一帯と三頭山山頂付近に、ブナ-ツクバネウツギ群集が分布する。三頭山は江戸時代から伐採が禁じられてきた(※②)。三頭山のブナ林は、林床にササを欠く特異なブナ林である。

三頭山では幹径15cm前後の若木も見られるが、幹径の小さい個体ほど数は少ない。2020年秋は三頭山のブナが豊作で、2021年5月には沢山の実生を見ることができた。しかし、稚樹は少なく、その多くは数年以内に消滅するようである。

・青梅市:高水山(標高759m)北斜面、御岳山奥の院(標高1077m)

・あきる野市:高明山(光明山)。標高700m付近に5本。平均樹高30m・幹径約70cm(※②)

 

【関東周辺のブナ林】

<日本海型>

・福島県:御池古道(七入~御池)

・新潟県湯沢町:トレッキング湯沢Ⅰ

・群馬県:至仏山・鳩待峠周辺、谷川岳・一ノ倉沢・白毛門、奥利根水源の森、玉原高原・鹿俣山・尼ヶ禿山~迦葉山、武尊山

・栃木県:那須岳

・長野県木島平村:カヤの平高原

・長野県飯山市:鍋倉高原、斑尾高原

・長野県小谷村:雨飾高原

<太平洋型>

・茨城県:筑波山

・東京都:高尾山、三頭山、鷹ノ巣山(稲村岩尾根、浅間尾根、水根山~榧ノ木尾根)、天祖山、金袋山など

・山梨県:鶴寝山・大マテイ山、牛ノ寝通り、柳沢峠、大菩薩嶺(裂石~上日川峠・丸川峠)、滝子山、今倉山~二十六夜山、御坂山・黒岳、鍵掛峠南・雪頭ヶ岳南西、山中湖村平野長池天神社周辺、三国山、精進口登山道二合目、大室山

・神奈川県丹沢山地:鍋割山、塔ノ岳、丹沢山・蛭ヶ岳、檜洞丸

・神奈川県箱根町:金時山、三国山

・静岡県:函南原生林、天城山(天城峠・水生地下~八丁池~万三郎岳~四辻)、越前岳(愛鷹山) 

関東周辺には日本海型ブナ林・太平洋型ブナ林の両方が分布する。日本海型気候域である群馬県みなかみ町では、標高約600~1600mにブナ林が分布する。太平洋型気候域でも生育標高は同程度であるが、禁伐地とされた高尾山に残存していることを考えると、スギ・ヒノキ人工林や二次林に転換されなければ、もっと低標高域にも生育していたのかもしれない。玉原高原、筑波山、三頭山、高尾山、箱根、函南原生林、八丁池などのブナ林を訪ねたが、同じブナでも場所によって見た目が大分異なっている。玉原高原では白っぽい樹皮、高尾山ではコケ類が少ない、函南原生林・八丁池ではコケ類が多い、筑波山・箱根ではずんぐりした樹形であった。

天城山系のブナ。八丁池周辺では天城峠(標高約830m)からブナが出現し、アカガシと混生している。天城山系のブナは樹皮にコケ類が多いのが特徴で、玉原高原や三頭山のブナとは印象が異なる。

 

尚、日本海型ブナ林・太平洋型ブナ林の違いやブナの更新に関しては、以下の記事を参照されたい。

 

<参考資料>

①大久保達弘 校庭の木・野山の木6 ブナの絵本 (まるごと発見!校庭の木・野山の木) 農山漁村文化協会 2017年

②あきる野市の植物