2023年3月21日掲載

2024年4月2日改訂・再掲載

2024年4月14日改訂

 

人里周辺でよく見られる桜を紹介します。

 

和名:カンヒザクラ(寒緋桜)

別名:ヒカンザクラ

学名:Cerasus campanulata

分布:石垣島(奄美以南で時に野生化)。台湾、中国南部~東南アジア。

 日本では沖縄県石垣島に数百個体の自生とされる集団があり国指定天然記念物になっているが、台湾から持ち込まれ野生化したものという説もある。染井吉野が生育できない沖縄ではよく植栽され、野生化している。沖縄では気象庁の桜の開花観測にも用いられている。花期は沖縄で1月、東京で3月。花は濃紅色で下向きにつき、花弁は大きく開かない。琉球で見られるものは花色が薄く、花弁が大きく開くことからリュウキュウカンヒザクラの名前で品種として区別されている。落葉小高木で樹高5~10m。

2024年3月20日、東京都武蔵野公園にて撮影。

 

和名:カワヅザクラ(河津桜)

学名:Cerasus × kanzakura ‘Kawazu-zakura’

 昭和30年頃に静岡県河津町で発見された品種。カンヒザクラとオオシマザクラのF1雑種にさらにカンヒザクラが交雑したものと思われる。花期は2月中旬~3月上旬。

2020年2月19日、東京都代々木公園にて撮影。近年では伊豆だけでなく、各地に植栽されている。

花は色と下向きに咲く点はカンヒザクラ、大輪の点はオオシマザクラの特徴である。2022年3月12日、東京都北区・西ケ原みんなの公園にて撮影。

樹形は横広がりになる。

 

和名:エドヒガン(江戸彼岸)

別名:ヒガンザクラ、アズマヒガン、アズマザクラ、ウバヒガン、ウバザクラ

学名:Cerasus spachiana

分布:本州・四国・九州。済州島。

 主に冷温帯の山地の急斜面の岩石地に自生するが、自生地は限られる。社寺に植栽されることもある。花期は染井吉野より少し早い。花は小形で、開花時に若葉は混じらない。細長い葉と縦に割れ目が入る樹皮が特徴で、花期でなくても識別しやすい。長寿で大木になり、樹高30m・幹径3mを超え、樹齢1000年を超える巨樹も存在する。

2023年3月20日、東京都八王子市・大光寺にて撮影。東京では自生・植栽ともに少ない。

 

和名:シダレザクラ(枝垂桜)

別名:イトザクラ(糸桜)

学名:Cerasus spachiana f. spachiana

 エドヒガンの枝垂れ性の栽培品種で、枝垂れる点以外は基本種(タチヒガン)と同じである。花色が濃いものをベニシダレ、花色が濃く八重咲きのものをヤエベニシダレと呼ぶ。

2022年3月25日、東京都多磨霊園にて撮影。枝垂れの性質は子にも遺伝する場合がある。

ベニシダレの花。花期は白花のシダレザクラよりも遅い。2024年4月2日、東京都上野公園にて撮影。

ベニシダレの巨樹。2022年4月2日、東京都八王子市・高楽寺にて撮影。寺院に植栽されることが多く、大木も多い。

ヤエベニシダレの花。一重咲きのシダレザクラよりも花期は遅い。2020年4月8日、東京都国分寺市にて撮影。

 

和名:ソメイヨシノ '染井吉野' 

別名:ヨシノザクラ(吉野桜)

学名:Cerasus × yedoensis ‘Somei-yoshino’

ソメイヨシノ系の解説はこちらの記事を参照されたい。

 

和名:ヤマザクラ(山桜)

学名:Cerasus jamasakura

分布:本州(宮城・新潟県以南)・四国・九州(トカラ列島まで)。

 暖温帯の二次林に自生する。関東の山では標高が低い所から順にヤマザクラ、カスミザクラ、オオヤマザクラとすみわけている。陽樹で明るい環境を好むが、里山の放置による遷移の進行で減少が危惧される。樹高20m・幹径1mを超える巨樹になる。染井吉野と同時期~少し遅く開花し、開花時に赤褐色の若葉が混じるのが特徴。染井吉野の登場以前に花見対象とされたのは本種で、古来より詩歌に多く取り上げられている。染井吉野より葉が小さく、枝も細い。

赤褐色の若葉が美しく、染井吉野とは違った趣がある。2022年4月9日、東京都あきる野市・光厳寺にて撮影。

 

和名:オオシマザクラ(大島桜)

別名:タキギザクラ(薪桜)、モチザクラ(餅桜)

学名:Cerasus speciosa

分布:伊豆諸島。房総半島・三浦半島・伊豆半島をはじめ各地の暖温帯で野生化。

 伊豆諸島を原産とするフォッサマグナ要素(※後述)の植物で、カスミザクラまたはヤマザクラの島嶼型とする説がある。伊豆諸島の落葉広葉樹二次林では、オオバエゴノキなどとともに優占種になる。房総半島・三浦半島・伊豆半島のものは薪炭用に植林されたものといわれ、ヤマザクラと交雑している。また、観賞用・緑化用として植栽され、現在では青森から鹿児島までの広い範囲で野生化し、在来のサクラと交雑する遺伝子汚染が危惧されている。花期は染井吉野と同時期か少し遅く、開花時に緑色の若葉が混じる。花は芳香があり、葉は桜餅に用いられる。ヤマザクラに比べると花・葉が大形で、枝も太い。樹高20m・幹径1mを超える巨樹になる。和名は伊豆大島に多いことに由来する。

※フォッサマグナ要素

 北は八ヶ岳、西は赤石山脈、南は伊豆諸島の青ヶ島に至る地域に分布が限られる植物。この地域の多くはかつて海に沈んでいたが、約300万年前頃の比較的短い期間の火山活動に伴い、海底から隆起して陸化したと考えられている。フォッサマグナ要素の植物は、この地域の新しい火山環境の場所で分化した、比較的新しい歴史を持つ植物である。

若葉はヤマザクラと違って緑色である。2022年4月9日、東京都小金井公園にて撮影。

 

和名:シダレヤマザクラ(枝垂山桜)

別名:ヤマザクラシダレ(山桜枝垂)、センダイシダレ(仙台枝垂)、ヨシノシダレ(吉野枝垂)、フゲンシダレ(普賢枝垂)

学名:Cerasus Sato-zakura Group ‘Sendai-shidare’

 DNA分析からヤマザクラとオオシマザクラの影響が推定される栽培品種で、古くからある品種である。枝垂性の落葉小高木で、花期は染井吉野と同時期である。尚、ヤエベニシダレの苗木が仙台枝垂の名で流通することがあり、混同に注意。

2024年4月7日、東京都上野公園にて撮影。枝は太く、オオシマザクラの枝垂型という印象がある。

 

和名:サトザクラ(里桜)

学名:Cerasus Sato-zakura Group

 オオシマザクラを中心に、オオヤマザクラ・ヤマザクラ・カスミザクラなどが交雑してできた栽培品種群の総称。オオシマザクラは花弁数が増加する突然変異が他のサクラより多い傾向があり、八重咲きの栽培品種の多くはオオシマザクラが関与している。平安時代から栽培されていたといわれ、江戸時代には種間交配が盛んに行われ、200種を超す多彩な品種群が生まれた。代表的な品種として、関山・普賢象・一葉・松月・鬱金・御衣黄などがある。

 八重咲きの品種の中には生殖機能を失っているものもある。普賢象や一葉の花は中央の雌蕊が正常な柱頭と花柱ではなく、葉状になっている。こうした不完全な雌蕊は生殖能力を失っており、結実することはない。雄蕊も花糸の先に正常な葯が形成されておらず、花弁状になって花粉をつくらないものがある。

イチヨウ(一葉):2024年4月14日、東京都西東京いこいの森公園にて撮影。東京府江北村(現・東京都足立区)の荒川堤で栽培されていた品種。花の中にある1本の雌蕊が葉化していることからこの名が付けられた。花期は染井吉野が散る頃。