2017年12月10日掲載
2022年12月13日改訂・再掲載
【どんぐりとは?】
ナラ・カシワ・クヌギ・カシなどの樹木の果実のこと。広義として、ブナ科(Fagaceae)の果実全体を指す場合もある。どんぐりのように、堅い果皮をもつ果実のことを堅果(けんか)という。どんぐりを覆う椀状のものを殻斗(かくと)という。殻斗は俗に、「ぼうし」、「はかま」などと呼ばれる。クリの場合、イガが殻斗に該当する。
【世界のブナ科】
表1:世界のブナ科
ブナ科は全て木本植物で、北半球を中心に広く分布する。気候的には熱帯・亜熱帯~温帯・寒帯、多雨地から半砂漠のような乾燥地まで、様々な環境条件の場所に生育し、多くの場所で優占種となっている。ブナ科の分類学的な整理はまだ不十分で、正確な種数も未確定だが、8属1000種以上あると推定されている。各属は、殻斗・果実の形態で識別できる。
・ブナ属(Fagus)
写真1:ブナの果実。殻斗内に2個のしずく形の果実をつける。雄花を房状につけた花序をぶら下げる。ブナ属は、北半球の温帯に10種が分布する。
・コナラ属(Quercus)
殻斗は椀状に果実を包む。コナラ属は、北半球の熱帯から温帯に531種が分布する。
写真2:コナラのどんぐり。ナラ類の殻斗は鱗模様である。
写真3:クヌギのどんぐり。カシワ・クヌギ・アベマキの殻斗は鱗片が長く伸び、反り返る。
写真4:シラカシのどんぐり。カシ類の殻斗は横縞模様である。
・クリ属(Castanea)
写真5:クリの果実。殻斗は針状のトゲに包まれたイガとなり、中に3個の果実が入る種と、1個の果実が入る種がある。花は尾状の雄花序をつける虫媒花である。クリ属は北半球の温帯域に8種が分布する。クリ属の種は果実を食用とするため、世界各地で栽培されている。
・シイ(クリガシ)属(Castanopsis)
写真6:スダジイのどんぐり。スダジイ・ツブラジイは殻斗内の果実は1個で、果実は熟すまで殻斗に覆われる。海外ではクリのようなトゲに覆われた殻斗をもつ種が多く、殻斗内の果実数は3個の種が多い。殻斗内に5個の果実を含む種もある。花は花序が直立する虫媒花である。シイ(クリガシ)属は、東南アジアの熱帯から暖帯の山地を中心に134種が分布する。
・マテバシイ属(Lithocarpus)
写真7:マテバシイのどんぐり。殻斗は1~3個合着し、1つの殻斗に1個の果実が入る。雄花序は上向きで虫媒花である。マテバシイ属は、東南アジアの熱帯から暖帯の山地を中心に325種が分布する。
・(広義の)カクミガシ属(Trigonobalanus)
常緑の3種が存在し、2種が東南アジア、もう1種が南米のコロンビアに隔離分布する。1殻斗内に1~7個の果実を含むものがある。3種のうち、東南アジアの熱帯全域に分布する種を(狭義の)カクミガシ属(Trigonobalanus)、中国南西部とタイ北部に分布する種をフォルマノデンドロン属(Formanodendron)、南米のコロンビアに分布する種をコロンボバラヌス属(Colombobalanus) に分ける見解もある。
・トゲガシ属(Chrysolepis)
北米西部海岸部に分布する常緑樹。虫媒花で1つの殻斗に3果と7果を含む2種がある。
・ノトリトカルプス属(Notholithocarpus)
21世紀に入ってマテバシイ属から独立させられたもので、北米西部のカリフォルニアに常緑の1種2変種が分布する。コナラ属のような椀形の殻斗とやや細長い果実をつける。
・ナンキョクブナ属(Nothofagus)
南米南部の西南海岸からオーストラリア大陸、オーストラリア大陸周辺の島々(ニュージーランド、ニューギニア、タスマニア等)に39種が分布する。殻斗の形態がブナ科に類似することから、近年までブナ科に入れられていたが、現在は1科1属のナンキョクブナ科(Nothofagaceae)として位置づけられている。
【日本のブナ科】
表2:日本のブナ科
日本には5属23種が分布しており、日本の森林の主要な構成要素になっている。尚、日本の森林の概要については、以下の記事を参照されたい。
【花から実になるまで】
多くのどんぐりは春~初夏に花を咲かせ、秋に実を結ぶ。どんぐりは種類によって、花が咲いた年の秋に実を結ぶもの(1年成)と、花の翌年の秋に実を結ぶもの(2年成)がある。1年成にはブナ・コナラ・シラカシ・クリ、2年成にはクヌギ・アカガシ・スダジイ・マテバシイなどがある。
どんぐりの花には雄花と雌花があり、両者を同じ株につける。どんぐりの花には、雄花の花粉を風で散布させる風媒花と、虫によって散布させる虫媒花がある。虫媒花の花は、虫を誘引させるために強い香りを放つ。
どんぐりの花は雄花が先に咲き、雄花が枯れる頃に雌花が咲く(雄性先熟)。これは自家受粉による近交弱勢を防ぐためである。また、ブナ科の樹木は自家受粉では殆ど受精できず、結実しにくい(自家不和合性)。このため、クリを栽培する際には受粉樹として異品種を混植する。
写真8:コナラの花(風媒花)。コナラ属・ブナ属の花は風媒花である。
写真9:スダジイの花(虫媒花)。シイ属・マテバシイ属・クリ属の花は虫媒花である。
【豊作と凶作】
どんぐりは年ごとに、豊作と凶作を不規則に繰り返す。豊凶の起こりやすさは、種類によっても異なる。特にブナは豊凶が激しく、2~3年に一度並作、5~6年に一度大豊作になるが、それ以外の年は殆ど健全種子(発芽能力のある種子)を結ばない。イヌブナはブナよりも豊凶を徹底しており、東京都高尾山では4~7年おきに開花している(後述するように、開花しても必ずしも豊作になるとは限らない)。シラカシ・アラカシなどは凶作が殆どなく、毎年沢山結実する。
凶作年には堅果量そのものが少ない年と、シイナ・虫害種子・未熟果が殆どの年がある。また、豊凶は個体別に起こるパターンと、一定の地域で同調するパターンがある。豊凶の理由には、以下の①~③のような説がある。
①種子を生産することにより樹体内の養分を消費し、その回復を待つため。
②結実に影響を及ぼす気象条件が年によって異なるため。風媒花の場合、開花時期に雨が多い年は花粉の飛散量が少なくなり、堅果生産量が減る。
③捕食者の個体数を調整し、種子の生存率を上げるため。
【種子散布】
①重力散布
秋に熟したどんぐりは、母樹の根元に落ちる。しかし、重力散布だけでは母樹の根元付近にしか種子を散布できない。
②動物散布
越冬用にどんぐりを貯蔵する小動物や鳥がいる。貯蔵されたどんぐりの食べ忘れや食べ残しが、春に発芽する。どんぐりの木は動物達に餌を与える一方で、種子を遠くに運んでもらうことに期待しているのだろう。
A:シマリス
冬眠するシマリスは、どんぐりを深い巣穴に集めるが、余りは近くに浅く埋めておく。
B:ネズミ
ネズミ類は巣穴にどんぐりを貯食する習性があり、アカネズミの仲間は落ち葉の下にどんぐりを埋め隠す。
C:カケス
カケスはのど袋に5、6個のどんぐりを詰め、数キロも移動する。後にどんぐりを吐き出して、枯れ葉や草の中に埋め隠す。
【どんぐりの発芽】
秋に地面に落ちたどんぐりは、やがて発根する。どんぐりは乾燥すると発芽能力を失うため、地中に根を伸ばし、水を吸収することによって、乾燥死を防いでいる。冬の間は根を出した状態で休眠し、春~初夏になると発芽して茎と葉を出す。
どんぐりが発芽した時に出す葉は本葉で、子葉(双葉)はどんぐりの殻の中にある。ヒマワリの発芽のように、子葉を持ち上げることはない。ただし、ブナ・イヌブナは発芽時に子葉を持ち上げる。
写真10:ブナの発芽。発芽時に子葉を持ち上げている。
どんぐりは無胚乳種子で、胚乳がなく栄養分は子葉に蓄える。栄養分を胚乳という器官に蓄える種子を有胚乳種子といい、カキ・イネ・トウモロコシなどがこれに該当する。
<参考資料>
・原正利 どんぐりの生物学 ブナ科植物の多様性と適応戦略 京都大学学術出版会 2019年
・広木詔三 森林の系統生態学-ブナ科を中心に- 名古屋大学出版会 2020年