【1. 植生とは?】

 植生とは、その土地に生育している植物の集団のことである。植物群落の中で、最も数が多い種を優占種という。

 

【2. 水平分布と垂直分布】

 植生は気候と大きく関係している。森林を水平方向の気候帯別に区分したものを水平分布という。

表1:日本の森林の水平分布

図1:日本の森林の水平分布の概略図

 また、標高が100m高くなるごとに気温は約0.6℃下がる。そのため、気候は標高によっても異なる。標高による森林の区分を垂直分布という。標高は低い所から順に、丘陵帯→山地帯→亜高山帯→高山帯と区分される。また、標高に対応する気候帯は低い所から順に、暖温帯→冷温帯→亜寒帯→寒帯と区分される。尚、標高とは東京湾の平均海面を0mの基準面とし、基準面からの高さを表したものである。海抜とは、近隣の海面からの高さのことである。

表2:本州中部の垂直分布

 

【3. 暖かさの指数・寒さの指数】

 一般的に、植物の生育には5℃以上の月平均気温が必要とされる。

暖かさの指数WI

1年間のうち月平均気温が5℃以上の各月について、月平均気温から5℃を引いた値の合計値(積算値)。

表3:暖かさの指数と植生・気候区分

寒さの指数CI

月平均気温5℃以下の月だけについて、5℃から月平均気温の値を引く。この値を総和したもの。

 

【4. 日本の森林】

亜熱帯多雨林

 亜熱帯は年平均気温18℃以上で、気温の年較差が少ないことが条件である。暖かさの指数は180~240℃で、日本では奄美大島以南の琉球列島と小笠原諸島が亜熱帯となる。極相に近い林は沖縄本島北部・西表島、小笠原諸島の母島に比較的多く残っている。

 琉球列島は年間雨量2000~3000ミリで、年間を通して多雨である。非石灰岩地の森林の極相は、尾根沿いではオキナワジイ(イタジイ)、谷沿いではオキナワウラジロガシが優占し、タブノキ・イスノキなどが混生する照葉樹林で、ヒカゲヘゴなどの木生シダも入り混じる。石灰岩地では、ガジュマル・アコウなどクワ科イチジク属の樹種が多く、やや砂質の土壌が堆積した場所や沿岸部の風衝地ではソテツ・ビロウ・ヤエヤマヤシなどの群落も成立する。二次林では、リュウキュウマツ・イジュ・ホルトノキ・ハゼノキなどが多い。河口の湿地帯や干潟ではメヒルギ・オヒルギ・ヤエヤマヒルギなどのマングローブ林が見られる。海岸近くの低地で、雨季に浸水しやすいところにはサキシマスオウノキの湿地林ができる。

 

写真1-1:沖縄県石垣島の森林。イタジイ・オキナワウラジロガシ・ギランイヌビワが優占し、タブノキ・ヒカゲヘゴなどが混生する。

写真1-2:ガジュマル(徳之島) 

写真1-3:ヤエヤマヒルギ(石垣島)

 また、亜熱帯・熱帯地方には、板根(地表付近の幹が三角形の板状に膨らんだもの)を形成する樹種が多い。亜熱帯・熱帯地方では、微生物の分解速度が速いため、土壌が浅く、根を垂直方向に伸ばすことができない。そこで、樹木は板状の根を水平方向へ広げることによって大きな樹体を支えている。

写真1-4:サキシマスオウノキの板根(西表島)

 小笠原諸島は樹木の70%が固有種で、ヒメツバキ・シマイスノキ・オガサワラビロウ・タコノキなどが代表的な樹種である。小笠原諸島ではブナ科植物を欠き、クスノキ科植物も少ないなど、南西諸島や台湾の亜熱帯多雨林とは異なる。

写真1-5:タコノキ。小笠原諸島の固有種で、琉球列島に分布するアダンとは近縁である。

照葉樹林常緑広葉樹林

 照葉樹とは、葉の表面のクチクラ層が発達し、厚くて艶のある葉をもつ常緑広葉樹のことである。照葉樹林は、暖温帯の雨量の多い地域に成立する。照葉樹林帯は下部帯と上部帯に大別され、下部帯ではスダジイ・アラカシ・タブノキ、上部帯ではウラジロガシ・アカガシなどがある。照葉樹林帯は古くから人間が住み、森林を利用してきたため、極相林の大半は失われている。そのため、コナラ・アカマツなどの二次林やスギ・ヒノキの人工林に置き換わった場所が多い。保存状態の比較的良い林は、神社や寺院などの禁伐地に点在している。

 照葉樹林は年平均気温13~21℃、暖かさの指数85~180℃の範囲にある。水平分布としては福島県いわき市・新潟県糸魚川付近~屋久島まで分布するが、海岸沿いに多いタブノキ林は青森県南部・岩手県中部を北限としている。

写真1-6:東京都日野市百草八幡神社のスダジイ林。周囲にはコナラ・クヌギが優占する雑木林が広がるが、百草八幡神社の周囲にのみ極相林が残っている。鎮守の森として保護されてきたものと思われる。

中間温帯林暖温帯落葉樹林

 中部~東北地方にかけての太平洋側の内陸部に見られ、冷温帯と暖温帯の中間(境界)に位置する植生帯である。イヌブナ・クリ・コナラ・シデ類・モミ・ツガなどが代表的な樹種である。中間温帯林が分布する場所は気温の年較差が大きく、冷温帯の代表種であるブナは夏に暑すぎて耐えられず、暖温帯の代表種であるカシは冬に寒すぎて耐えられない。ブナは夏の暑さ(暖かさの指数85)で分布高度の下限が規定され、カシ類は冬の寒さ(寒さの指数-10)で上限が規定されていると考えらえる。東北日本の太平洋側では、寒さの指数-10のラインが暖かさの指数85のラインより下にくるため、夏緑樹林と照葉樹林の間の高度にカシもブナも存在しない植生帯ができる。

 西南日本の太平洋側では、寒さの指数-10のラインが暖かさの指数85のラインより高くなるため、カシとブナが共存できるゾーンが生じる。また、このゾーンを中心にモミやツガが目立つ樹林も現れる。

写真1-7:東京都御岳山(標高929m)の中間温帯林。モミ・ツガ・イヌブナ・ミズナラ・シデ類・イタヤカエデ・ホオノキ・ケヤキ・トチノキなどが混生している。奥多摩山地では、標高700~1000mにかけてモミ-イヌブナ群集が分布している。

写真1-8:ブナとアカガシの混生(茨城県筑波山)。筑波山では標高550~700m辺りにかけて、ブナ・アカガシ・モミなどの林が見られる。

夏緑樹林落葉広葉樹林

 夏緑樹林は気候帯では冷温帯、垂直分布では山地帯の極相として成立する。代表的な樹種はブナ・ミズナラだが、ブナ林の方が極相的で、ミズナラ林は二次林である。谷沿いではカエデ類・トチノキ・サワグルミ・カツラなどが林をつくる。山地帯でも特殊な土壌条件の場所では、ヒノキ・ウラジロモミ・ハリモミなどの針葉樹が土壌的極相として成立することがある。

 水平分布としては本州中部以南では山地帯を占めるが、北に行くにつれて下降し、東北地方北部~北海道では平地を占めるようになる。ブナ林の分布域は、鹿児島県の高隈山上部を南限、北海道南西部の黒松内低地帯を北限としている。かつて、日本の冷温帯は大規模なブナ林に覆われていたと思われるが、近年まで続いた伐採によって現存は極めて少なくなっている。夏緑樹林は年平均気温6~13℃、暖かさの指数45(55)~85℃の範囲にある。

写真1-9:東京都三頭山のブナ林。イヌブナ・ミズナラ・クリ・カエデ類なども混生する。

常緑針葉樹林

 針葉樹林にはモミ・ツガなどの中間温帯林、山地帯のヒノキ林、遷移の途中相としてのアカマツ林・クロマツ林・カラマツ林などもあるが、常緑針葉樹林帯というときは気候帯では亜寒帯、垂直的には亜高山帯に極相として成立する林を指す。本州の亜高山帯ではシラビソ・オオシラビソ・トウヒ・コメツガなどが林をつくる。亜高山帯の先駆種としてはカラマツやダケカンバなどがあり、ダケカンバと針葉樹の混交林も多い。

 水平分布の点で、平地にまで降りている亜寒帯の針葉樹林は、北海道の東部に限られる。北海道の針葉樹林の代表的な構成種には、エゾマツ・トドマツ・アカエゾマツなどがある。北海道の丘陵地や山地の大部分は、針葉樹林と夏緑樹林の混交林(針広混交林)となる。広葉樹としては、ミズナラ・シナノキ・ハルニレ・ウダイカンバ・ハリギリなどがある。常緑針葉樹林は年平均気温6℃以下、暖かさの指数15~45℃の範囲にある。北海道では暖かさの指数55℃辺りのところで夏緑樹林が終わり、それ以東が混交林の地帯となる。

 東北~中部の日本海側では多雪(雪崩、雪圧)・風衝作用により亜高山針葉樹林(オオシラビソ林)が成立しない場所がある。そこではチシマザサなどのササ原やミヤマナラ(ミズナラの高山型変種)・ミネカエデ・ナナカマド・ミヤマハンノキなどの落葉広葉樹の低木林が広がる。豪雪のため高木林が成立せず、遮るもののない明るい景観が広がる場所を偽高山帯という。

写真1-10:群馬県至仏山のオオシラビソ(アオモリトドマツ)林。オオシラビソが優占し、ダケカンバ・ナナカマド・ミネカエデなどが混生する。

写真1-11:群馬県谷川岳のミヤマナラ低木林。谷川岳には亜高山針葉樹林がなく、山地帯のブナ林上限が森林限界(標高約1600m)となり、その上にミヤマナラ低木林やクマイザサ・チシマザサなどのササ群落が広がる。

高山草原お花畑

 亜高山帯針葉樹林の上限を越えると、低温・強風・岩石露出などの厳しい環境のために森林(高木林)を維持することができなくなり、低木林や草原に移り変わる。この森林の上限を森林限界と呼び、森林限界より上方を高山帯という。森林限界は、積雪や強風など厳しい条件下では標高が下がる現象が見られる。高山帯ではハイマツ・シャクナゲ・コケモモ・ダケカンバなどの低木林や、コマクサ・ハクサンイチゲ・クロユリなどからなる高山草原お花畑)がモザイク状に組合わさる。暖かさの指数は15℃未満となる。

写真1-12:群馬県至仏山の森林限界。至仏山の鳩待峠側では標高約1700mまでブナ林、標高約1700~2040mにオオシラビソ林が広がる。森林限界を超えると、遮るものがなくなる。

写真1-13:群馬県谷川岳山頂(標高1977m)の植生。ハイマツ・シャクナゲ類・ササ類などが混生する。ハイマツ低木林は低温よりも強風や積雪が原因で成立し、谷川岳では標高1900m以上で見られる。

 

【5. 遷移、陽樹と陰樹】

 植物群落を構成する種や個体数が時間の経過とともに変化することを遷移という。遷移には、土壌のない裸地から始まる一次遷移と、土壌のある状態から始まる二次遷移がある。例として、一次遷移には火山の噴火跡地・海底の隆起した土地・氷河が後退して現れた地表、二次遷移には台風による大規模な倒木被害地や伐採・山火事による森林跡地などがある。

 真っ先に裸地に進出する種を先駆種パイオニア種)といい、イタドリ・ススキ・オオバヤシャブシなどが代表的である。オオバヤシャブシなどのハンノキ類は、根に窒素固定細菌を共生させることによって、栄養塩類不足を補うことができる。

 陽光を好み、乾燥に強い樹種を陽樹という。陽樹は沢山の日の光を浴びて早く生長するが、一般的に幹の密度が小さく、短命である。また、陽樹には小さくて軽い種子を沢山生産し、風散布する種類が多い。オオバヤシャブシ・ヤマツツジ・アカマツ・ダケカンバ・アカメガシワ・コナラなどが代表的な陽樹である。

写真2-1:アカマツ(マツ科)

写真2-2:ダケカンバ(カバノキ科)

写真2-3:山火事跡地(栃木県足利市・両崖山)。両崖山・天狗山では2021年2月に山火事が発生した。

写真2-4:両崖山で見られたアカマツの若木。2025年5月には山火事跡地でアカマツの若木が多数育っていた。

 耐陰性の強い樹種を陰樹という。陰樹は少ない光でゆっくりと生長し、一般的に長寿である。また、陰樹は種子生産量が少なく、重くて大きな種子をつくる種類が多い。シイ・カシ類・タブノキ・ブナなどが代表的な陰樹である。

写真2-5:スダジイ(ブナ科)

写真2-6:ブナ(ブナ科)

 

【6. 暖温帯における植生遷移(一次遷移)】

表4:暖温帯における植生遷移(一次遷移)

 裸地には土壌が存在しないため、保水力や栄養塩類が乏しく乾燥しており、有機物も殆ど含まれていない。このような裸地では、大気中の水分と太陽光による光合成だけで栄養素を得ることができる地衣類やコケ植物が最初に定着する。やがて、これらの枯死体が分解されてできた有機物と岩石が風化してできた砂などが混ざり合って土壌が形成されると、キク科やイネ科などの陽性草本類や陽樹が侵入する。これらの植物の生育に伴って土壌の形成が進むと、陽樹林となる。林内は葉が繁茂して重なり合うため、林床に到達する光が減少し、陽樹の実生は生長できずに枯死するが、陰樹の実生は高木にまで生長するようになる。その後、陽樹と陰樹の混交林(途中相)を経て、最終的には陰樹を優占種とする安定した状態の極相林クライマックス)となる。原生林の殆どは陰樹で構成される極相林である。

 また、伐採や山火事などの攪乱によって極相林が失われると、コナラなどの陽樹林になる。これを二次林といい、放置すると元の極相林に戻る(二次遷移)。しかし、燃料材を得る目的で人間による管理が行われ、維持される二次林を雑木林里山)という。

 

<参考文献>

・沼田眞・岩瀬徹 図説 日本の植生 講談社学術文庫 2002年

・渡辺一夫 イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか 築地書館 2009年

・田部眞哉 田部の生物基礎をはじめからていねいに ナガセ 2014年

・清水善和 日本列島における森林の成立過程と植生帯のとらえ方 地域学研究第27号 2014年

・福嶋司 日本のすごい森を歩こう 二見レインボー文庫 2017年

・福嶋司 図説 日本の植生 (第2版) 朝倉書店 2017年

・岩槻邦男 グリーンセイバー ネイチャー 植物の基礎と生態系を学ぶ 樹木・環境ネットワーク協会 2020年