追われて、匿われたのは淡海の海(琵琶湖)から東、いくつも山を越えた山間の集落だった。

 

すぐに都へ還れるはずが、1年が経ち、2年が経ち、3年が経つ頃にはすっかり故郷のような安らぎを覚え始めていた。

 

冬は厳しいが夏は過ごしやすく、そして、春には桜を始めとした花々が、秋には山を赤く染める紅葉が美しい。

 

薄墨に出会ったのはいつの頃だったか、皇子宮とは名ばかりの、炭焼き小屋になんとか主従が住めるように手を入れた我が家に、下働きということで連れてこられた村長の娘だった。

 

大事に育てられたのだろう、このような田舎の娘にしては日に灼けていない奇麗な肌をした、美しい娘だった。

もの静かで、よく働く。

 

「お情けをいただきたく」

そんなある日、薄墨がか細い声で、そう告げてきた。

別段、我を好いたというわけではなさそうだった。

父親である村長からそうするようにと言われたのだろう。貴種の種にはそれなりの価値がある。

 

「良いのか? 好いた相手はおらぬのか?」

一応、聞いてみる。

薄墨は15と言っていたから、この辺りの娘であれば嫁に行く時期であるし、誰か好いた者がいるなら、我から父親に話してやろうと思った。

「……おりませぬ」

少し間をおいて、か細い声が答える。

「お情けをくださいませ」

か細い声が、もう一度、そう乞うた。

 

 ※

 

薄墨の粗末な衣を剝いでいく。

外は十五夜の月で随分と明るくて、灯りを落としたというのに、夜具の上美しい薄紅の肌が妙に艶めかしく誘ってくる。

 

我に差し出された以上当たり前だが、経験などない純潔の身体である。

薄紅の肌に触れると、その肢体が強張るのがはっきり分かる。

可哀想に緊張で血の気を失ったのか、薄紅の肌が月明かりの下透けるような真っ白に変わってしまった。

 

慌てないように、怖がらせないように、優しく、優しく。

もしかすると、我が子の母となるかもしれぬ娘の肢体を、時間をかけてゆっくりと解きほぐしていく。

 

「……んあっ」

差し入れるとわずかに抵抗したが、時間をかけた甲斐があったのか、破瓜の痛みはさほどでもないようだった。

 

しばらく動いているうちに、薄墨の真っ白だった肢体に、舞い散る桜の花のごとく斑に血色が戻ってくる。

月明かりのせいか、白い肌にその名の如く薄墨を垂らしたかのように見えた。

 

「受け取れ」

目の前の女を征服したような気になって、高揚した気分で子種を吐き出す。

我に組み敷かれた白く薄墨を引いた肢体が、わずかに跳ねようとして逃れられず、その身の中に我を受け入れた。

 

 ※

 

だが、平穏な毎日は、薄墨の中にわが子が宿ったかどうかを知る前に終わりをつげた。

都の情勢が変わり、我は戻ることに決まった。

 

我が住処は焼くことにする。

もしも望む地位に着いた時、さすがに炭焼き小屋に住んでいたなどというのは外聞が悪い。

焼いた住まいの後に桜の苗を植えた。

 

身の代と 遺す桜は 薄住みよ 千代に其の名を 栄盛へ止むる

 

薄墨へ歌を詠んでやる。

薄墨が我が子を宿しているならば、この桜がずっとその子とその子孫を見守っていくだろう、そう願いを込めて。

残念なことに、この先どうなるやらも知れぬ我には、そんなことぐらいしかしてやれることがないのだった。 

 

 

 

< 根尾谷の薄墨桜 >

 

継体天皇が皇子時代にここに住み、立ち去る際に桜の苗を植え、歌を遺したと伝えられる。 

エドヒガンザクラの老木は推定1500年で、今も根尾谷を見守り続けている。

 

薄いピンクの蕾が、満開になれば白に、そして散り際は独特の淡い墨色へ変化するのだそうだ。