朝の早い時間、まだ人の疎らな駅のホームで待ち合わせした。

出会ってから、毎日、同じ時間、同じ電車、同じホームで。

次の電車が来るまでの僅かな時間、人生は輝いて、そしてどうしようもなく楽しくて。

 

夕暮れのホームでのお別れをする。

先に電車を降りた相手を送っていきたい気持ちはあるけども、言い出すのがどうにも恥ずかしく。

相手がホームで振り向く。

ドアが閉まり電車が動きだすと、ガラスの向こう手が挙がり「さよなら」を唇が紡ぐ。

明日また会えるというのにどうしようもなく切なくて

 

たった3年足らずの時間。

それまでのどの時間より鮮やかで、あれからのどの時間より煌めいて。

 

 ※

 

ラジオから流れてくる賑やかな声。

あの歌の作詞作曲を自ら手掛けた歌手が、パーソナリティーの軽妙な喋りに乗せられて愉快に答えている。

 

ーー あの歌って素敵ですよね?

ゲストに歌手を招いたパーソナリティーがそう切り出した。

(おぉ、俺もそう思うぜ。あれはハートに響く)

 

ーー ああ、あの歌ね、ありがとう

気のせいか、褒められた割に、歌手の声がちょっと苦い。

ーー でもさ、ちょっとみんな勘違いしてんだよね

 

ーー えっ? 初々しい恋の歌ですよね。わたし、自分も相手探そうと電車乗りましたもん

どういうこと? とパーソナリティの姉ちゃんが体験をぶち込みつつ尋ねる。

(だよね、絶対自分もって思うよな)と、ラジオの前でうんうんと頷く俺。

 

ーー あれさ、相手、実はヒロシなんだよね

苦い声のまま、歌手が告白する。

ーー えっ……

パーソナリティーが言葉を失う。そりゃそうだ、だってヒロシって歌手がかつて組んでたバンドのベース、結構いかついヤローである。

ーー みんな勘違いして、勝手に相手を女にしちゃってるんだけど、あの頃ヒロシと出会って秒でバンド組んで、それからもう毎日が楽しくってさあ……

 

えっ、バンド仲間との出会いを歌った青春ソング?

はぁ?

言われてみれば、確かに歌詞では相手が女とは明言してないけども。

恋なんて言葉も出てこないけども。

いや、でも、だって、どう聴いたって……

 

あんなに聴きこんだのに、目を瞑れば彼氏と彼女の3年分の思い出すら浮かんでくるのに。

えっ? えっ、えーっ!