ある日、一匹のミーアキャットが人間のカメラマンの残していったカメラを見つけました。
好奇心から近寄ってファインダーを覗いていると、やたらと血がうずきはじめるのが分かりました。
(Ki…Shi…n…? …そうだ、写真界の奇人…もとい貴人にして鬼人…もとい鬼才、我が名はキシン!)
※
「いいね、いいね、そう、その感じ」
キシンはちょうど通りかかった別嬪さんを見つけると、さっそくモデルになってくれるよう言葉巧みに口説いて、カメラの前でポーズをとらせました。
「綺麗だよ」
パシャ、パシャとシャッターを押しながら、キシンはモデル嬢を褒めてあげます。
「いいよ、もう少し目線あげて……そう! いいね~ぇ」
どうやらモデル嬢もその気になってきたのか、キシンの要求に次々とポーズを変えていきます。
「そうだな、せっかくだから上着を脱いでみようか」
そのうちにキシンは脱がせたいという欲望をこらえることが出来なくなりました。激写なのです、激写をしなければ。
「……えっ、出来ない? そんなこと言わずに」
しかし、嬉々として彼の要求に従っていたモデル嬢は、なぜか言うことを聞いてはくれません。
「あっ、その表情いいねぇ、完璧! 綺麗だよ~」
少しおだてが足りなかったかと、キシンは懸命に褒めます。
「じゃ、脱ごうか?」
頃合も良しと見て、もう一度声をかけます。キシンには絶対に脱がせる自信がありました。
なのに、モデル嬢はやっぱり言うことを聞きません。
「なんで、出来ないんだ! 俺を誰だと思っている!」
遂にキシンは切れてしまいました。
服を脱がないモデルなんて撮ってもツマラナイのです。そんなのは激写じゃありません。
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「そんなこと言ってもさ、無理だよ」
怒り出したキシンに呆れたようにモデル嬢が言いました。
「わたし達のは自前の毛皮なんだから、脱げる訳ないじゃん!」
こうして、ミーアキャット界の巨匠は失意のうちにカメラを置き、二度と手にすることはなかったのでした。