「ふうっ、そろそろのはずだが」
深い森のずっと奥、かつて栄えた忘れられた王国の都があったという場所を青年はひとり目指していた。
整備された立派な街道を外れ、すっかり草に埋もれてしまった道を拓き、たびたび獣道に迷い込んでは馬を下り下生えと格闘しながら、偶然手に入れることとなった百年も前に作られたという地図を頼りに、ひたすら森の奥へ奥へと進む。
「おっ、どうやら本当にあったようだな」
罰あたりにもなた代わりに使っていた家宝の宝剣で一薙ぎした先に、石積の壁らしきものを見つけたのは、噂話と地図を見つけた街からの探索行も10日目の昼になろうかという頃合いだった。
※
「こりゃ、聞いた話より立派かも」
噂話では、万人も住人がいた大きな都だったという話だったが、最初に見つけたおそらくは都市の防御を担っていた外壁から、荒れ果てた住居の跡がひたすら続いていた。
「ここだな」
街の中心部になるのだろうか、なだらかな斜面があって、鋭い棘を持った茨がそこを護るようにくねくねと互いに巻き付きあって巨大なドームを作っている。
「じゃ、もうひと働き、しますかね! っと」
何やら普通ならざる太さと密度で斜面の先にあるはずの城を隠している茨のドームに、青年は恐れることもなく家宝の剣を向けた。
※
「ええい、まだか」
どれくらい鉈代わりに剣を振り続けただろうか、中天にあったはずの日はいつのまにやら傾き始めている。
「おっ?」
不意に剣が軽くなる。
どうやら、ひたすら密だった茨のバリアを切っ先が抜けたらしい。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
噂通りなら奥にあるはずのものを傷付けたりしないように、最前よりは少し慎重に剣をふるって茨を排除していく。
※
「まさか、本当にいるとはな……」
さすがに少し言葉を失って、思い出したように目的まで導いてくれた剣を鞘に納める。
とうに天井の抜けてしまった広い部屋の中、そういう魔法でもかけられているか、立派な拵えのシルクの天蓋付きの寝台も、敷かれた真っ白なシーツも、すべてが真っ新の状態だった。
「……ほぅ」
天蓋を開いて、中を覗き込む。
息を呑むような、という言葉がぴったりと来る美しい顔立ちだった。予め仕入れた噂話を知らなければ、女神か森のニンフといった人ならざるものだと思ったかもしれない。
そして、仰向けに眠るその肢体には一糸も纏っていない。
目を瞑ったままの顔立ちはどちらかと言えば清楚な雰囲気をたたえていたが、肢体の方は全体的にはスリムであるのに胸と尻の肉付きがよくて、強烈に肉欲を刺激してくる。
(本当に、生きているのか?)
見ていると、微かにその豊かな双丘が上下している。
(さて、どうする?)
噂話を信じるか?
(本当にいたんだ、賭けてみるか)
噂では、滅んだ国の、滅んだ街の、滅んだ城に、滅んだ王族の姫が眠っているという。
暇を持て余していた青年は、思い付きでその噂を確かめる旅に出て、そして本当に姫を見つけ出してしまったのだ。
その先も信じるしかない、とそう思った。
※
さすがに、少し躊躇する。
どうみても、彼女は魔法に護られている。いや、呪われているのか。瓦礫と茨だらけのこの城で、噂通りなら百年も眠っているのだ。
「ええいっ」
青年が一つ気合を入れる。
噂通りなら、彼女を目覚めさせれば、彼女と彼女の王国を手に入れられるはずだった。
なんといっても魔法は恐ろしかったが、噂通りの未来の為と、眠ったままの美しい姫の顔に覆いかぶさる。
「許せよ」
そのまま、紅を引いているわけでもないのに鮮やかに赤い姫の唇に己が唇を合わせる。
目覚めのキスで姫を起こせば、すべてを得られるはずだった。
※
止まらない。
一度のキスでは姫は目覚めなかった。
諦めず、何度か試みているうちに、反応があった。
その目は開かれなかったが、突然舌が伸びてきて青年の押し付けた唇を割った。
蛇のように絡みついてくる。
ねっとりと唾液をまとわらせて、青年のそれを絡めとると執拗になぶった。
頭の芯が融けてしまったかのようだった。
ようやく離れた舌を追うように、今度は青年の方から差し込んだ。
「ぉおぅ!」
舌での槍試合は引き分けた。
股間はとっくに痛いぐらいに天を向いている。
手をやると、姫の方も迎え入れる準備は十分すぎる程出来ていた。
ならば、何の遠慮もいらない。
姫に覆いかぶさって、一気に、突き入れた。
「ぁあっ、素敵、そうよ、もっと」
浅く腰を浮かして、貪欲に青年を呑み込みながら姫がなまめかしく声をあげる。
声に促されるように、更に深く突き刺し、引き抜く。
突き刺し、引き抜く、何度も何度も、果てるまで。
※
気を遣らせるつもりが、こっちが遣らされてしまったらしい。
気が付くと、寝台に姫と並んで寝ていた。
さっきまで乱れていたのが嘘のように、平然と眠り続ける姫を間近で見ていると、それだけで催してきた。
もう一度、槍試合を申し込む。
抱き寄せて、唇を割って、舌を入れた。が、全くと言ってよいほど反応はなく、それでもひたすら嬲る。
「なっ、やめて!」
はっと目を開いた姫は、どういうつもりか必死に顔を引き離し、突然無垢な乙女に戻ったかのように言うと、とんと手を突いて体も離してきた。
「そういう趣向か」
恥じらう乙女を演じるつもりなのだと思い、構わず抵抗する姫を体の下に組み伏せる。
「んっ、なんだ?」
そこで、不思議なことに、先ほどあんなにも潤っていた姫の秘所がなぜか乾いてしまっていることに気づいた。
「これも魔法か?」
ならばと、寝台の上で体をずらし、嫌がる姫を腰の辺りで押さえつけ、上の口では拒絶された舌の槍を振るう。
「ゃあ、やめて、やめっ……ひぃっ、いやっ」
姫が本気で逃げ出そうとするが、構わず押さえつけ、振るい続ける。
「やめて、お願い、やめて……」
泣き出したが、もちろん止めない、上方に逃げようとする体を追いかけて一方的に振るい続けた。
「いやっ、もういやよ……」
言いながら、姫は遂にはしたなく潮を吹いた。
覆いかぶさっていた体を一旦離し、脚を放り出して座った姿勢で、今度は姫を後ろから抱き寄せる。
「だめよ、やめなさい、やめて逃げて、早く逃げっ……」
姫が身をよじってこちらを向く。なんとも悲しげな瞳がこちらを見ていた。
「聞かん」
あれだけ誘っておいて何を言うのだ。
今、この手に抱いている女は俺のものだ、もう誰にも渡すものかと青年は荒ぶる。
鷲掴みにした乳房を手荒く揉みしだいて、姫の抵抗を封じる。
耳の辺りを甘噛みしながら、桜色に上気した肌よりもずっと濃い桜色をした乳首を摘まみ上げた。
「……ゃっ……殺されちゃうわ、あなた、魔女に……」
姫の上体をとんと押しやって手を突かせ、同時に腹の辺りを持ち上げて、四つん這いにする。
先ほどまで舌の槍を突き入れていた、柔らかな恥毛を張りつかせたびしょびしょの泉が丸見えになったので、長槍を容赦なく突き入れた。
深く、さっきよりも更に奥まで。
「いやっ、ぁあっ、だめっ……」
溜まらず姫が突ベッドに突いた手で激しく突かれる体を支えきれず、青年に掴まれた腰だけを浮かせる。
「俺の女になれ」
傲慢に命令し、放つ。
姫が、びくびくと全身で揺れた。
※
「お願い、もう誰かを殺さないで」
どこか遠くで声がする。二度目は一方的に気を遣らせ、目覚めさせてはさんざん啼かせた姫の声だ。
だが、いつの間に離れた?
また気を遣ってしまったのか、俺は?
「だめだね、いい思いしたんだ、代価は払わなくっちゃ」
もう一つの声が答える。
よく似た、それでいて底冷えのする声。
「もう、必要な精は吸い取ったのでしょ」
姫が尚も哀願を続ける。
「ああ、今回はとびきり上玉だったね、あっという間さね、10年は困らない」
ああ、こちらの声は魔女なのか。
何がどうなっているのか分からないが、自分は罠にはめられたのだと青年は悟った。
ならば、せめて一太刀と思ったが、体は思うように動かず、ようやく探った腰の辺りにも服とともに放り投げた宝剣があるはずもなかった。
「なら、命だけは」
「もう遅いよ、とっくに残らず吸っちまった後さ」
声はなおも続いたが、青年の意識はそこで途切れた。
※
滅びの森を囲むいくつかの街の酒場でまことしやかに語られる噂話――
滅んだ国の、滅んだ街の、滅んだ城の、滅んだ王族の唯一の生き残り。魔女の呪いにかかった美しい姫。
姫を見つけ、目覚めのキスを交わしたならば、姫と王国を手に入れるだろう。
――カラン
いつの間にか青年の開いた突入口は茨で埋め直された。
どこかで、やはり滅んだ国の王子だった青年の頼りにしていた宝剣が茨から落ちて音を立てる。
「もう、嫌っ……」
魔女の魔法で身を清められ、やはり清められた寝台に姫は横たわる。
つぅーと一筋、涙がその頬を流れ落ちたが、その後すら消し去られ、眠りにつく。
かつて、今は茨に征服された王国が人であふれていた頃。
双子が生まれた。この国では禁忌の双子。
片方は城で両親の庇護のもと国中の民から愛されて健やかに育ち、もう片方は忌み児として森に捨てられ魔女に拾われた。
魔女が、彼女を拾って育てた魔女の下僕として過ごした、世界の全てを呪い続けた日々を忘れることは決してない。
師匠の魔女をようやく殺し、彼女を捨てた両親ごと国を滅ぼしても、魔女の中で昏くすべてを焼き尽くす炎が消えることはなかった。
―― だから、まだまだ終わらないわよ。起こされる度、見知らぬ男に凌辱され、私の魔法で凌辱されるほどその精を奪い取る。精を吸い取られて、お前のせいでその男は死ぬのよ
先ほども、魔女によって予め心の抑制を取り払われた男は、思った通りにすり替わった姫を凌辱し尽くした。
何度も何度も、姫が幾ら泣いて許しを乞おうと、魔女の罠を訴えようと、容赦なく。見ていた魔女が、思わず自ら慰めなくてはならないほど執拗に。
魔女は、眠りについた姫の顔を撫でてやる。
自分同様永遠の若さを与える程愛おしくて、同時にこの世の不幸の全てを味合わせても足りない程憎んでいる、彼女の片割れを。